無華の花嫁〜蔵に囚われた少女は、黒薔薇の殿下に溺愛される〜

「あ、あの五条様……園遊会に私を連れて行くというのは……やっぱり本当でしょうか?」

部屋に戻るなり、居ても立ってもいられず、五条様に尋ねる。
声は自分でもわかるほどかすかに震えていて、喉の奥が乾いて、言葉の端がひっかかってしまう。

園遊会がどんなものなのか、詳しくは知らない。
けれど——あんな豪奢な着物を仕立てるほどの場なのだ。
きっと大勢の、高貴な身分の人々がたくさん集まるに違いない。
その中へ、五条様が『無華』の私を連れて行く。

——見られる。
——晒される。
——笑われる。

想像が、勝手に最悪の形を選んで並び立ててくる。
注目の視線。ひそひそ声。肩越しに投げられる薄い笑み。
そして最後には、『気味が悪い』『縁起が悪い』という、あの言葉。

その場のことを思い描いただけで、脚が竦みそうになる。
ソファの上に座っているのに、膝が今にも崩れそうで、手の平が冷たく汗ばむ。

「例年は一人で参加していたんだが。よい機会だ」

五条様は、手もとの書類から視線を上げることもなく、淡々と答えられる。

——やはり予想した通りだった。
五条様は、物珍しさから私をここに置いているんだ。

そして、その珍しい玩具を園遊会で、他の貴族の方たちに『共有』する——。
そう考えた瞬間、胸の内がきゅっと縮こまった。
怖いのは、蔑まれることだけじゃない。
五条様の隣で、笑いものにされてなお、私は笑っていなければならない気がした。
そうしないと、五条様にまで恥をかかせてしまうから。

こんな扱いに慣れたと思っていたのに。
どんな扱いをされても、これ以上傷付くことなんてないと思っていたのに。
ここに置いていただけるのは慰み者としてだと、わかっていたはずなのに——

——五条様がお決めになられたこと。
私がお断りなんてできるはずがない。

けれど、五条様は知らないのだ。
『無華』が周りからどう見られるか。
どれほど忌み嫌われているのか。
そして、何より——その視線が、どれほど深く人の心を抉るのかを。

『ああ。やはり、美しい瞳だ』

以前、五条様に言われたあの言葉が、ふいに脳裏に浮かぶ。
あの言葉が嘘ではないことも、わかっている。
五条様は本心で、そう言ってくださったのだろう。

でも同時に——
すべてを持っている五条様だからこそ、この呪われた瞳を『美しい』という一言で、簡単に包んでしまえるのだとも思ってしまう。

この瞳が、どれほど私自身を呪い、周囲を傷つけてきたか。
それを説明したところで、きっと伝わらない。
伝える言葉を私は持っていないし、そもそも、言葉にした瞬間に、また自分で自分を傷付けることになる気がする。

ほんの少し、期待してしまった。
それが今、全部、罰のように痛い。

このお屋敷で、人の優しさと、温かい体温に触れただけで、どうしようもなくなり、ほんの少し、安心してしまった。
やはり、私はどこまでいっても『無華』でしかないんだ。

その事実を、改めて突き付けられた気がして、心に深い罅が入ったような痛みが走る。
息を吸うたびに、その罅がひろがっていく気さえした。

園遊会は一カ月後だと、先ほどおっしゃっていた。
こんな崩れそうな気持ちを抱えたまま、この一カ月をどう過ごせばいいのだろう。
笑って食事をして、散歩をして、着物の支度をされて——
その全部が、最後の飾りつけのような気がしてくる。

「金のことは気にするな」と言われたけれど。
お医者様にかかったお金だけでもきっと高額なのに。
仕立ててもらう振袖一式。あの豪華な布地。
一生をかけても返せないものを、私は受け取ってしまっている。

——いっそ、すぐにでも慰み者として使い捨ててくれたら。
体調なんて良くならずに、あのまま死なせてくれていたら。

そしたら、あの着物も無駄にならずに済むのではないか。
そんな都合のよいことまで考えてしまう自分が、たまらなく卑しくて、情けない。

何より、五条様を困らせることが、一番の罪だと——
そう思ってやまない。