湯から上がると、肌触りのよい新しい寝巻きが用意されていた。
女中さんが着せようとするのを必死で断って自分で袖を通すと、今度は髪の水気を丁寧に拭き取ってくれる。
暖炉の前で櫛を入れられ、乾くのを待つ間、ふわり、と出汁の優しい香りが漂った。
テーブルの上のお盆。
湯気の立つ白いお粥と、ほんの少しの赤い梅肉。
匂いだけで、飢えていた腹が『きゅう』と情けなく鳴る。
——聞こえた、だろうか。
そう思った瞬間、合図のように扉がノックもなく開いた。
「さっきより、随分よさそうだな」
「……五条様」
「食べられそうか」
五条様は椅子を引き、あまりに自然に、当たり前のように私の隣へ腰を下ろした。
そして匙ですくったお粥を、唇の前へ差し出される。
「……っ」
「遠慮は要らない。医者にも言われている。少しずつでいい、口に入れろ」
「……あの、私、自分で……できますから……」
「気にするな」
気にするな、だなんて。
そんなふうに言われて、気にしないでいられるわけがない。
高貴で、恐ろしいほど遠い方に、食事まで世話をさせている——
それだけで、罪悪感が喉を締める。
「早く。腕が疲れてくる」
叱責ではなく、困らせるような声音で言われると、反射的に口が開いてしまった。
舌の上に乗るのは、やわらかな温かさ。
米の甘みと、出汁の旨みが、じんわりと身体の奥へ沁み込む。
「……美味しい……」
「そうか。なら、もう一口だ」
意識せずこぼれた本音に、五条様の目尻が、ほんの少しだけ緩む。
せかされることはない。
私がゆっくり飲み込むのを待って、匙がまた、優しく唇に触れる。
——誰かに世話を焼かれるなんて、いったいいつ以来だろう。
痛くも怖くもない触れられ方があるなんて、知らなかった。
十口ほど飲み込んだ頃には、まぶたがまた重くなる。
身体が、ようやく許してもいい、と言っている気がした。
「……梅干しが好きなのか?」
「……え……あっ……」
恥ずかしい。
初めて食べた、ほんのり甘い梅があまりに美味しくて……。
匙に添えられた梅肉だけを、無意識に先に舐め取ってしまっていたのだろう。
まさか、そんな卑しい所作まで見られているなんて。
「……ごめんなさい」
「謝ることではない。献上品でたくさんある。次はもっと持ってこよう」
次。
その言葉が、胸の奥で小さく跳ねた。
明日も、ここにいていいのだろうか。
問いを飲み込み、喉の奥にひっそりと残る怯えを、湯気ごと胸の奥へ押し込める。
それでも——この温かさだけは、どうか嘘ではありませんように。
私はただ、匙を持つこの方を、もう一度見つめた。
女中さんが着せようとするのを必死で断って自分で袖を通すと、今度は髪の水気を丁寧に拭き取ってくれる。
暖炉の前で櫛を入れられ、乾くのを待つ間、ふわり、と出汁の優しい香りが漂った。
テーブルの上のお盆。
湯気の立つ白いお粥と、ほんの少しの赤い梅肉。
匂いだけで、飢えていた腹が『きゅう』と情けなく鳴る。
——聞こえた、だろうか。
そう思った瞬間、合図のように扉がノックもなく開いた。
「さっきより、随分よさそうだな」
「……五条様」
「食べられそうか」
五条様は椅子を引き、あまりに自然に、当たり前のように私の隣へ腰を下ろした。
そして匙ですくったお粥を、唇の前へ差し出される。
「……っ」
「遠慮は要らない。医者にも言われている。少しずつでいい、口に入れろ」
「……あの、私、自分で……できますから……」
「気にするな」
気にするな、だなんて。
そんなふうに言われて、気にしないでいられるわけがない。
高貴で、恐ろしいほど遠い方に、食事まで世話をさせている——
それだけで、罪悪感が喉を締める。
「早く。腕が疲れてくる」
叱責ではなく、困らせるような声音で言われると、反射的に口が開いてしまった。
舌の上に乗るのは、やわらかな温かさ。
米の甘みと、出汁の旨みが、じんわりと身体の奥へ沁み込む。
「……美味しい……」
「そうか。なら、もう一口だ」
意識せずこぼれた本音に、五条様の目尻が、ほんの少しだけ緩む。
せかされることはない。
私がゆっくり飲み込むのを待って、匙がまた、優しく唇に触れる。
——誰かに世話を焼かれるなんて、いったいいつ以来だろう。
痛くも怖くもない触れられ方があるなんて、知らなかった。
十口ほど飲み込んだ頃には、まぶたがまた重くなる。
身体が、ようやく許してもいい、と言っている気がした。
「……梅干しが好きなのか?」
「……え……あっ……」
恥ずかしい。
初めて食べた、ほんのり甘い梅があまりに美味しくて……。
匙に添えられた梅肉だけを、無意識に先に舐め取ってしまっていたのだろう。
まさか、そんな卑しい所作まで見られているなんて。
「……ごめんなさい」
「謝ることではない。献上品でたくさんある。次はもっと持ってこよう」
次。
その言葉が、胸の奥で小さく跳ねた。
明日も、ここにいていいのだろうか。
問いを飲み込み、喉の奥にひっそりと残る怯えを、湯気ごと胸の奥へ押し込める。
それでも——この温かさだけは、どうか嘘ではありませんように。
私はただ、匙を持つこの方を、もう一度見つめた。



