【NEW‼︎】あなたが出品されました

 お父さんに言われて、見たくなかったPCの場所まで戻る。
 私が躊躇(ちゅうちょ)していると、ririさんが袖を引っ張った。

「……ミナミさん、これ見て」

 画面には、【バイバイ】の特別な管理者用ダッシュボードが開かれている。
 管理者名は母の名前だ。M氏――Mother(母)の頭文字か。
 ririさんがマウスを操作して、商品管理ボタンを押した。

『【超・特別品一点物】深見家・最後の在庫。娘の梱包直前ライブ』
 視聴数:28,402人
 現在価格:¥45,000,000〜

「何……これ。四千五百万円?」

 ドンドンドンドンドンドン!
 扉を叩く音が、次第に激しさを増していく。

「どうだ? もういいだろう。ミナミ、時間だ。購入者が痺れを切らしている。早く『仕上げ』をさせてくれ。君を送り出せば、この取引は成立するんだ」

 お父さんの声が、扉越しに歪んで聞こえる。
 もう何を言っても聞かないだろう。
 だったら、こっちが動くしかない。

「……ririさん。お父さんは、私が『完璧な商品』だから売れるって言ったよね」

「え……? うん、そう言ってたけど」

 私は、ノートPCのキーボードに手を置いた。
 管理画面の「商品説明」の欄に、カーソルを合わせる。

「だったら、この『商品』が欠陥品だってことを、世界中に教えてあげればいい」

「ちょっと! ミナミさん、何する気?」

「このアプリの管理者権限を使って、深見家が今まで隠してきた『発送リスト』を全部、一般公開で出品してやるの。政治家も、裏金も、消された人間も……全部まとめて、1円で」

 ririさんの目が、驚愕に見開かれた。

「それって、お父さんの……いえ、深見家そのものの破滅だよ」

「いいよ、強制的に発送されて私の人生は終わるくらいなら、全部ぶっ壊してやる」

 私は額の汗を拭いながらタイピングを始めた。
 お父さんがひた隠しにしてきた『不都合な真実』のフォルダを、次々と公開ページへアップロードしていく。

   *

 画面上のコメント欄が、爆速のスクロールと共に阿鼻叫喚の渦へと変わった。

【緊急】バイバイのM氏、ガチで国家転覆させる気か?【1円出品】

342 :名無しさん@お腹いっぱい。:202X/02/24(火) 23:10:45.12 ID:vN8pX0rk0
 おい、今アップされたファイル見た奴いるか?
 これ、中身ガチで〇〇議員の裏金リストじゃねーか。

345 :名無しさん@お腹いっぱい。:202X/02/24(火) 23:11:02.45 ID:7m9S1Ewa0
 >>342
 見た。というか、〇〇年に失踪したアイドルの「配送先」まで載ってる……。
 嘘だろ、これ全部1円で売ってんのかよ!

350 :名無しさん@お腹いっぱい。:202X/02/24(火) 23:11:30.89 ID:K4i9oPqzM
 うわあああ!ページ開けなくなった!
 アクセス集中しすぎwwww

358 :名無しさん@お腹いっぱい。:202X/02/24(火) 23:12:05.11 ID:DeepThroat
 これどこかの企業の内部データだろ。
 M氏、これ公開したら消されるぞ。
 いや、これを見てる俺らも消されるかもしれないやつだ。

370 :名無しさん@お腹いっぱい。:202X/02/24(火) 23:13:10.56 ID:GossipKing
 おい、M氏!何を出品してるんだ!
 これ、日本の終わりがライブ中継されてるだけじゃねーか!!

   *

 視聴者数が爆発的に増えていく。4万人、10万人、20万人……。



 ネットの海に、深見家が数百年かけて運び続けてきた汚物が、一気に放流された。

 その時。
 ガチャン、と重い金属音がして、書斎の鍵が外側から外された。

 扉がゆっくりと開く。

 そこに立っていたのは仏像の面を被り、右手に包丁を持った母だった。

「……ミナミ。あなたは、やってはいけないことをした」