…ぽぅぽぅと仄ノあかる、火わたの野を
一筋の光が差し込んで、夕風がかけてゆく…
椿の生け垣の並木道を抜けて、小川を渡ると、
夕の火明かりのなか、木々の影を揺らし、
大きな1本の楠木が立つ場所に玲斗は来た。
夕月と夕日の傾く雲の隙間、月草色の袖を
揺らし、玲斗は彼女を抱きしめて…
階段を降りると、うろのなかに入った。
…木々に明かりを灯す、蛍の森のなか…
雨上がりの水たまりに子ども達の影が映る。
…帰り道に子ども達の笑い声が響くと、
大きな神樹の楠木の切り株に小鬼が座って
ケタケタ話しかけてきた。
「…はやく帰らないと、とって食うぞ。」
「…うるさい!」
子鬼を手で追い払い、走り回る子ども達の
そばを抜けて、谷風の吹く蛍の杜に
…楠木の垂縄が揺れる。
玲斗は楠木のうろのなかに入ると、
蝋燭に火をつけて、楠木の切り株に
腕に抱いた彼女を眠らせると、
正座をして座った。
うろのなかに蝋燭の煙が立ち込めて、
瞳を瞑ると、花泡にまかせた
花のわたつみのなかを歩いて行く。
…うろで眠る、彼女の夢をみる…
❀❀❀
……私を、みないで……
…由良ゆら…由良ゆら…
…由良ゆら…由良ゆら…
桜の花が舞い咲る薄紅色の野のなかを
〈火ノ由良〉がたゆたふ…。
…由良ゆら…由良ゆら…
…あなたヲ想い浮かべる…
…閉じた瞳 描く君恋
…魂由良ノ君…
…由良ゆら…由良ゆら…
…由良ゆら…由良ゆら…
…由良ゆら…由良ゆら…
…栗の木の丘を越えて、
小花の咲き乱れる山野道を行くと…
八重に続く桜花ははかノ野に出る。
…桜灯籠の並木道に…ほぅほぅと
瞬く玉の緒が桜花ははかの花に
…結わえられている。
…千に、千に…揺れる桜の花に結んだ桜火…
…蜂蜜で練った蜜燭に、この夢火が揺れて、
桜の花の枝にたわわになった結んだ花紐の鈴
は憂えた横顔に彼の綺麗な輪郭を映した。
「…ねぇ、魂って、あると想う?」
玲斗は不思議そうにそう言った。
「…うん。あると想うよ?」
「…この体は、病に蝕まれている。」
「…花に変えたら、」
桜乃は桜の花にふれて、言い淀んだ。
もしも、神様というものがあるのなら、
…流行り病を、桜の花に変えて…
花野に絵の具で彩をおくってことを、
するってゆ‐ことを、
してもいいんじゃないかってッ♥!
彼女は優しそうにそう言った。
「…大丈夫なんて、いえない。」
…玲斗が静かにそう言った。
「…?」
「…綺麗ね。」
桜乃(ははの)が桜の花を押し分けて、
下から見上げる。
「…ケポ‐ッ!」
コノハズクが一振りの花枝ノ上で相槌を打つ。
「…村に邪レゐが襲いかかってくる…。」
「…この月夜未ノ村に。」
「…ふぅん‐。」
「…人に取り憑いて、
獣みたいな奇病にさいなまれる…。」
「…気をつけるッ!」
…話を聞いていた座敷童子は
いたたまれなくなって、突然そう言った。
でも…いつからか、出会った人だった…。
「…大好き、だよ。」
…忘れてしまったのかも、しれない。
…玲斗を愛していたことを…。
…その人だった、ことを。
「…僕もだよ。」
…桜の花が舞い咲るなか、
あなたがかけてユク…。
…春風が舞い込むように…
飛び込んできた、花衣も。
…花風をふわり、と抱きしめる。
桜花ははかノ木に誰そ彼れる
…夕宵夜(ゆうよいみや)
…桜花ははかノ野で二人は出会う…
…出会う…
…出会う…
…出会う…
…出会う…
…桜の花に桃色に薫る
…おかげヲ…
花わたごと、抱きしめて…
…あなたのことを、想ふ…。
「…歌を歌いましょう。」
人の形をした人魚が言う。
桜コードの有線を引いて、JAMで歌う。
「…お‐ッ♥!!!」
座敷童子が嬉しそうにマイクを持って叫ぶ。
「…歌っちゃお♥!」
〈… 桜らん乃ぉ花Bell …〉
…ころん。ころん。
…ころ。ころ。ころン。
…ころン。ころん。
…ころ。ころッ。ころン。
…花鈴。…花鈴。…鈴が なル。
…こロん。ころん。
…ころ。こロ。ころン。
…ころん。コろん。
…ころ。こロ。ころン。
…夕鈴。…夕鈴。
…桜らん乃ぉ花Bell。
…ユ夕ふ。誰ソ彼れとのTell。
…鈴。…鈴。
ユ夕ふ…彼れだケの、
〈… 霊花イ〈レイカイ〉てんヮ …〉
✿✿✿
ぞろぞろと出てきた妖たちが
マイクを持って、歌を歌っている。
座敷童子の高い声が響く。
玲斗はマイクを持って、歌い続ける。
✿✿✿
…桜らん。…桜らん。
…桜らん乃ぉ花Bell。
…ふゎっと、
手に取って。桜ノ花を…
…花の鈴ヲ ころコろ。
…夕の鈴ヲ ころコろ。
…Bell。Bell。…琴と花菊。
卯タふ。…りりり。
…虫の音。
ならして…
小さな鈴の花が
…ぽぅぽぅと仄のあかる。
…そッと、耳に届ケた。
…花の…lave.coll..
ぉかげの花畑ケで 花を
摘む…誰ソ彼れ乃君に想ふ…
…りりり。
…細ぃ花ノ枝を 手に取って。
…鈴。…鈴。
…鈴ノ数だケ 花を摘む。
…君だけの花ヲ 摘む数ゎ…
… 霊花イ〈レイカイ〉てんヮ …
…ころ。コロ。
…花鈴ヲならして…。
…ころん。ころん。
…ころ。ころん。
…ころん。…ころん。
…ころ。コロっ。ころん。
…花乃lave.collぃんぐ。
…ーーーッ。
「…2~3日ぶりッ。
ぉかげの花畑。…たくさん
はたらィてたから…おかげ。
たくさん持ってきたョ!
って すごく 嬉しかったコトっ。」
…あなたがぎューーー…って
してくれタこと。
…あなたがちューーー…って
してくれタこと。
…この世界乃中で
あなただケが…
この瞳にぅっルこと…ッ。
…今ゎ昔の。
永遠の彼名タのコトっ。
…桜らん。…桜らん。
…桜らん乃ぉ花Bell。
…桜の花乃ぉまじなぃ。
…ころ。コろ。…ころン。
…ひ1と。ふ2タ。ミ3。ょ4。
…と、数ヲかぞゑて…
花乃ぉみくじヲ添ぇて。
…開ぃた 花文。恋乃係。
…lave.le.t-t.er.
…その日までに。
…その日までに。
その日が楽しみって
…結ってくれタこと。
…ゐ二し古ゑより ずっと
同じ彼名タに 恋してる。
…ずっと。…ずっと。
その後も妖たちと夢のなかでカラオケを
してて、玲斗のいる楠のうろの奥まで
みんなでいつまでも歌い合ったあとが残っていた。
✿✿✿
春風の匂いがして、村の軒差しの
干し物がひらひらはためく。
幼い頃の玲斗が母親の膝の上で
寝息を立てていた。
…花梅の衣から春の香りがして…
…夢からさめて、ゆく…
…常磐色に染まる楠木の森で…
溢れ落ちた、陽だまりのなか
…母木をもって、
玲斗が掃除をする音が聞こえる…。
…さぁ…さァら…らんらん。
…さぁ…さァら…らんらん。
…夢を、みる…まろ夢を…
✿✿✿
…誰そ彼れの夕野から梅の花の香りが
春風に乗って、刻が〈昔〉にtimeslipする…。
2月14日(土) valentine♥day
…春空を彩る〈花ユ夢めノわたッ海〉…
どこまでも続く桜色の空に
…夢海が広がっている…。
夢に沈んだ電車の線路道はつながっていて
この切符を買えば、あの森に行ける…。
…玲斗はこの
〈花ユ夢めノわたッ海〉を、歩いて行く…
…ちゃぷ…ちゃぷ…
…ちゃぷ…ちゃぷ…
…さぁ…さァら…らんらん。
…さぁ…さァら…らんらん。
しばらく行くと、一宮がある。
一宮はUruさんのCDの
パッケージにある挿絵のなかに
あって、小さな御魂の
鳥居が透けてみえると…
そこから、桜乃のいる
可愛いお部屋につながっていた。
お部屋の赤いチェックのカーテンが揺れる
小窓から太陽の光が差し込んで、そこから
薔薇の花の咲くガーデンがみえる。
窓際には白いレースのbed♥が
置いてあって、茶色いチェスターが、
ドレッサーにかけたミントグリーンの
ドレスの傍にあった。
机のうえには仕掛けの裁縫道具が
使ったままになってて、針の通った
青いスカートを縫ったミシンが置いてあった。
熊の人形のリュックサックが
bedの柱にかけてあって、
小鳥と花カゴのパッチワークキルトがかけてある。
…部屋のbedの上に猫クッション
を置いて、その隣にクッキー缶の
…プレゼントがあった。
玲斗はbedの上に飛び乗ると、
プレゼントの包装をといて
桜乃からお菓子の箱をもらうと、
アイシングクッキーを食べた。
ハートマークのクッキーに
アイシングペンで〈愛してる〉
って、描いてある…。
クッキー缶と一緒に梅桃の花と
添えられてたのが桜桃色ノ夢鈴飾りだった。
…玲斗が首飾りをつける…
…玲斗がネックレスをつけては
月草色の着物に由良ゆら揺れてる…。
…夢のなかで、君を想う…
優しかった彼の琴ノ花(ことのは)を
…想ゐ描いて、花結愛(ゆめ)空をみる…。
………ドンッ!!!
〈花夢火の夕守り〉
…白いしろい火のなかを
ぽたぽた落ちる海月を食べる。
……私を、みてはいけない……
桜火の影から手が伸びてきて
…ばぁ!
…子ども達がかけてゆく…
お揃いの月草色の着物に
魂の二人は、
…楠木の下で花夢火を灯す…
「…わぁ。綺麗ね…」
「…俺、だけでしょ?」
「…え?」
…それって、ど‐ゆうことなんだろう…
「…嘘。」
「…どうして…」
…どうして、そんなこと聞くの…?
…って、そんなことが
いいたいわけじゃないのに…。
「…玲斗さん…」
…そんなこと、想わないでほしい…
(…結局、言えなかったな…)
いつも肝心なことは言えないままなのに
玲斗さんは、なんでか…なんでも、
分かってるみたいに、そ‐ゆう…。
そうして、玲斗は桜乃を抱きしめた。
「…僕じゃないと、
ダメって言ったでしょ?!」
玲斗は桜花ははかノ野に舞う妖艶な
…この鬼火を夢接ぎ火する。
…ぱちぱちと火が燃える。
…〈火ノ由良〉の焦がす香ばしい匂いがする。
うろのなかで眠る彼女の
…夢が覚めないかと、
その横顔をみては想った。
…なぜだったか、想ゐ出せない…
…ただ、玲斗は素直に
彼女が…愛しい、と…そう想った。
…ふわっと、玲斗は夢火を楠木に灯す…
…髪の毛から桜火の薫りがして…
玲斗は桜乃に甘い口づけを落とした。
マッチ1本を擦るごとに、
楠木に灯る鬼火は海のなかで
…揺らめいた。
蛍の火は次々と楠木の森を
照らして、木ノ葉に咲ってゆく…。
空を彩る海月の夜を結愛(ゆめ)みては、
……ドンッ♥!!!
…由良ゆら…由良ゆら…
…由良ゆら…由良ゆら…
…由良ゆら…由良ゆら…
…夢からさめて…mon ami…♥
…瞬いた瞳をつむると、あなたの手を引いて
誘った夕火のカゲに、君を想ゐ出す…。
…そなた…
…そなた…
…そなた…
…夢からさめて…
…夢を、みる…
…たもろ木。桜木に舞ふ花衣。
…月草に白。桜ヲ合わせて、花の
よい枝ヲ…たろみては、ほもち…
…よく、すゐるなれ…
…たもれ。…たもれ。
…花つもりけれ。
…若葉よ、つもりけれ。
…らん。…らん。
…カラン。…コロン。
…らん。…らん。
…カラン。…コロン。
…らん。…らん。
…カラン。…コロン。
…軽快かな母木の奏でる音がする。
…玲斗は落ち葉を拾い集めては
楠木のふもとで夕守りをしていた。
…はらはら。…はらはら。
…木ノ葉が舞い落ちると共に…
夢でみた桜花ははかノ野に花が咲き乱れてく。
…由良ゆら。…由良ゆら。
…由良ゆら。…由良ゆら。
…由良ゆら。…由良ゆら。
…楠木に咲いた白い桜花ははかノ花を
見上げては、灯した夢火を摘みとってゆく。
千歳に咲うその花笑みは
妖しいほど美しく可憐に満ちていた。
…由良ゆら舞う春のソナタの桜花ははかノ野…。
…桜の花が舞い散るなか、野にかぎろふ…
…永久(とこしえ)の花夕宵宮。
…てふてふを、追いかけて…
…さぁ…さァら
…らんらん。
…さぁ…さァら
…らんらん。
…母木の揺すふる音がする…
…花夢火の咲く…
…つかもふか…
…むすほふか…
…つかもふか…
…むすほふか…
‐…あなたに、会いたくて…‐
…仄かに匂ふ香のかほり…
…楠木に…
…桜木に…
かけよる私は、
…つかもふか…
…むすほふか…
…つかもふか…
…むすほふか…
…そうしたら…
…ててふが舞い込んでくる…
…パっ!と、花が咲く…
…そうしたら…
…そうしたら…
…つかまえた…
‐…抱きしめた…‐
…まみえた…
…両手を広げて抱きしめた、あなた…
…私を、ててふを、
…抱きしめる…
…抱きしめる…
…抱きしめる…
…抱きしめる…
…抱きしめる…
…想ゐ出すあなたヲ…
常しゑの桜の花
あなたは、そう…想ふのに、
…てふてふのように…
…この手ヲ、すり抜けてユク…
…つかみそねた、桜ノ火…
…わたし、だけのもの…
‐…あなただけヲ想ゐ描いて、
いて…そう、いて ほしい…‐
…つかまえた…ててふヲ、
…抱きしめた…
…楠の落ち葉の舞い散るなか…
…はらはら。
…母木の枝先が葉を絡めとる…
…塵取りでかき集めては…
…桜の花の舞い散るなか…
…出会った頃のことを、想ゐ出す…
…らん。…らん。
…カラン。…コロン。
…らん。…らん。
…カラン。…コロン。
…二人が出会った頃…
花衣が舞い降りたように、
春風とともに
舞い込んできた、出会った
あの頃と同じ…花衣。
…花衣のそなた…
…入る桜夕日のそなたよ…
…そなたに焚きしめられる…
…焚きしめられる…
…どうか、このままでいて…
…あなたに、つかまる…
…そなた…
…そなた…
…桜火のそなた…
〈花夢火の夕守り〉
❀❀❀
5円や10円のいくらかの古銭を
うろの木の切り株のところに置くと、
玲斗はランタンを持って、
月郷神社の社務所まで帰って行った。
楠に灯った桜火だけが
いつまでも玲斗の傍を離れないでいた。
❀❀❀
「…こっち、来ないで!」
…カン!
って、彼女の目が覚めてからというもの
玲斗の頭めがけて桜乃(ははの)は
缶チューハイの器を放り捨てた。
…投げうった缶チューハイの心地の良い音がする…
絡まったしばらくあててない
パーマが髪に残ったロングヘアに
月郷神社の社務所の近くに
椿の生け垣があって、椿の枝で
引っ掛けたときに破けた
berryのワンピースを着てたけど、
みるからにその子は…ボロボロだった…。
「…やめてって、言ってるでしょ?!」
悲しそうな瞳をした梟がケェケェ鳴いている。
桜乃の周りを歩き回って、心配そうに
何度も顔を覗き込んでいる。
(…やめたほうがいいケポ‐。)
楠木の祈念道から社務所まで帰ってきて、
居間にどさっと彼女をおろすと
玲斗はちょっと冷たく言い放った。
「…重いんだけど。」
「…ちょっとは、自分で歩けばッ?!」
…座敷童子が桜乃をなじる。
桜乃は玲斗の両腕のなかでぐったりしてる
自分の体をムリに起こして、立ち上がった。
「…あっかん、べ‐だッ♥!」
まだ温かかった玲斗の手のひらが
夜の闇が辺りを覆う心細い桜乃の心のなかを
ランタンが森を照らすように、
桜乃の心に火を灯していた。
「…そんなこと、言われたッて!」
…甘くて優しい玲斗さんが好きだった…
「…あなたじゃないと、ダメだった…♥わら」
…萌ぐ若草色の楠の葉が春風に
揺らめいて、涼し気な玲斗の心のなかに
…新しいゐ吹が吹き揺らしていた。
一筋の光が差し込んで、夕風がかけてゆく…
椿の生け垣の並木道を抜けて、小川を渡ると、
夕の火明かりのなか、木々の影を揺らし、
大きな1本の楠木が立つ場所に玲斗は来た。
夕月と夕日の傾く雲の隙間、月草色の袖を
揺らし、玲斗は彼女を抱きしめて…
階段を降りると、うろのなかに入った。
…木々に明かりを灯す、蛍の森のなか…
雨上がりの水たまりに子ども達の影が映る。
…帰り道に子ども達の笑い声が響くと、
大きな神樹の楠木の切り株に小鬼が座って
ケタケタ話しかけてきた。
「…はやく帰らないと、とって食うぞ。」
「…うるさい!」
子鬼を手で追い払い、走り回る子ども達の
そばを抜けて、谷風の吹く蛍の杜に
…楠木の垂縄が揺れる。
玲斗は楠木のうろのなかに入ると、
蝋燭に火をつけて、楠木の切り株に
腕に抱いた彼女を眠らせると、
正座をして座った。
うろのなかに蝋燭の煙が立ち込めて、
瞳を瞑ると、花泡にまかせた
花のわたつみのなかを歩いて行く。
…うろで眠る、彼女の夢をみる…
❀❀❀
……私を、みないで……
…由良ゆら…由良ゆら…
…由良ゆら…由良ゆら…
桜の花が舞い咲る薄紅色の野のなかを
〈火ノ由良〉がたゆたふ…。
…由良ゆら…由良ゆら…
…あなたヲ想い浮かべる…
…閉じた瞳 描く君恋
…魂由良ノ君…
…由良ゆら…由良ゆら…
…由良ゆら…由良ゆら…
…由良ゆら…由良ゆら…
…栗の木の丘を越えて、
小花の咲き乱れる山野道を行くと…
八重に続く桜花ははかノ野に出る。
…桜灯籠の並木道に…ほぅほぅと
瞬く玉の緒が桜花ははかの花に
…結わえられている。
…千に、千に…揺れる桜の花に結んだ桜火…
…蜂蜜で練った蜜燭に、この夢火が揺れて、
桜の花の枝にたわわになった結んだ花紐の鈴
は憂えた横顔に彼の綺麗な輪郭を映した。
「…ねぇ、魂って、あると想う?」
玲斗は不思議そうにそう言った。
「…うん。あると想うよ?」
「…この体は、病に蝕まれている。」
「…花に変えたら、」
桜乃は桜の花にふれて、言い淀んだ。
もしも、神様というものがあるのなら、
…流行り病を、桜の花に変えて…
花野に絵の具で彩をおくってことを、
するってゆ‐ことを、
してもいいんじゃないかってッ♥!
彼女は優しそうにそう言った。
「…大丈夫なんて、いえない。」
…玲斗が静かにそう言った。
「…?」
「…綺麗ね。」
桜乃(ははの)が桜の花を押し分けて、
下から見上げる。
「…ケポ‐ッ!」
コノハズクが一振りの花枝ノ上で相槌を打つ。
「…村に邪レゐが襲いかかってくる…。」
「…この月夜未ノ村に。」
「…ふぅん‐。」
「…人に取り憑いて、
獣みたいな奇病にさいなまれる…。」
「…気をつけるッ!」
…話を聞いていた座敷童子は
いたたまれなくなって、突然そう言った。
でも…いつからか、出会った人だった…。
「…大好き、だよ。」
…忘れてしまったのかも、しれない。
…玲斗を愛していたことを…。
…その人だった、ことを。
「…僕もだよ。」
…桜の花が舞い咲るなか、
あなたがかけてユク…。
…春風が舞い込むように…
飛び込んできた、花衣も。
…花風をふわり、と抱きしめる。
桜花ははかノ木に誰そ彼れる
…夕宵夜(ゆうよいみや)
…桜花ははかノ野で二人は出会う…
…出会う…
…出会う…
…出会う…
…出会う…
…桜の花に桃色に薫る
…おかげヲ…
花わたごと、抱きしめて…
…あなたのことを、想ふ…。
「…歌を歌いましょう。」
人の形をした人魚が言う。
桜コードの有線を引いて、JAMで歌う。
「…お‐ッ♥!!!」
座敷童子が嬉しそうにマイクを持って叫ぶ。
「…歌っちゃお♥!」
〈… 桜らん乃ぉ花Bell …〉
…ころん。ころん。
…ころ。ころ。ころン。
…ころン。ころん。
…ころ。ころッ。ころン。
…花鈴。…花鈴。…鈴が なル。
…こロん。ころん。
…ころ。こロ。ころン。
…ころん。コろん。
…ころ。こロ。ころン。
…夕鈴。…夕鈴。
…桜らん乃ぉ花Bell。
…ユ夕ふ。誰ソ彼れとのTell。
…鈴。…鈴。
ユ夕ふ…彼れだケの、
〈… 霊花イ〈レイカイ〉てんヮ …〉
✿✿✿
ぞろぞろと出てきた妖たちが
マイクを持って、歌を歌っている。
座敷童子の高い声が響く。
玲斗はマイクを持って、歌い続ける。
✿✿✿
…桜らん。…桜らん。
…桜らん乃ぉ花Bell。
…ふゎっと、
手に取って。桜ノ花を…
…花の鈴ヲ ころコろ。
…夕の鈴ヲ ころコろ。
…Bell。Bell。…琴と花菊。
卯タふ。…りりり。
…虫の音。
ならして…
小さな鈴の花が
…ぽぅぽぅと仄のあかる。
…そッと、耳に届ケた。
…花の…lave.coll..
ぉかげの花畑ケで 花を
摘む…誰ソ彼れ乃君に想ふ…
…りりり。
…細ぃ花ノ枝を 手に取って。
…鈴。…鈴。
…鈴ノ数だケ 花を摘む。
…君だけの花ヲ 摘む数ゎ…
… 霊花イ〈レイカイ〉てんヮ …
…ころ。コロ。
…花鈴ヲならして…。
…ころん。ころん。
…ころ。ころん。
…ころん。…ころん。
…ころ。コロっ。ころん。
…花乃lave.collぃんぐ。
…ーーーッ。
「…2~3日ぶりッ。
ぉかげの花畑。…たくさん
はたらィてたから…おかげ。
たくさん持ってきたョ!
って すごく 嬉しかったコトっ。」
…あなたがぎューーー…って
してくれタこと。
…あなたがちューーー…って
してくれタこと。
…この世界乃中で
あなただケが…
この瞳にぅっルこと…ッ。
…今ゎ昔の。
永遠の彼名タのコトっ。
…桜らん。…桜らん。
…桜らん乃ぉ花Bell。
…桜の花乃ぉまじなぃ。
…ころ。コろ。…ころン。
…ひ1と。ふ2タ。ミ3。ょ4。
…と、数ヲかぞゑて…
花乃ぉみくじヲ添ぇて。
…開ぃた 花文。恋乃係。
…lave.le.t-t.er.
…その日までに。
…その日までに。
その日が楽しみって
…結ってくれタこと。
…ゐ二し古ゑより ずっと
同じ彼名タに 恋してる。
…ずっと。…ずっと。
その後も妖たちと夢のなかでカラオケを
してて、玲斗のいる楠のうろの奥まで
みんなでいつまでも歌い合ったあとが残っていた。
✿✿✿
春風の匂いがして、村の軒差しの
干し物がひらひらはためく。
幼い頃の玲斗が母親の膝の上で
寝息を立てていた。
…花梅の衣から春の香りがして…
…夢からさめて、ゆく…
…常磐色に染まる楠木の森で…
溢れ落ちた、陽だまりのなか
…母木をもって、
玲斗が掃除をする音が聞こえる…。
…さぁ…さァら…らんらん。
…さぁ…さァら…らんらん。
…夢を、みる…まろ夢を…
✿✿✿
…誰そ彼れの夕野から梅の花の香りが
春風に乗って、刻が〈昔〉にtimeslipする…。
2月14日(土) valentine♥day
…春空を彩る〈花ユ夢めノわたッ海〉…
どこまでも続く桜色の空に
…夢海が広がっている…。
夢に沈んだ電車の線路道はつながっていて
この切符を買えば、あの森に行ける…。
…玲斗はこの
〈花ユ夢めノわたッ海〉を、歩いて行く…
…ちゃぷ…ちゃぷ…
…ちゃぷ…ちゃぷ…
…さぁ…さァら…らんらん。
…さぁ…さァら…らんらん。
しばらく行くと、一宮がある。
一宮はUruさんのCDの
パッケージにある挿絵のなかに
あって、小さな御魂の
鳥居が透けてみえると…
そこから、桜乃のいる
可愛いお部屋につながっていた。
お部屋の赤いチェックのカーテンが揺れる
小窓から太陽の光が差し込んで、そこから
薔薇の花の咲くガーデンがみえる。
窓際には白いレースのbed♥が
置いてあって、茶色いチェスターが、
ドレッサーにかけたミントグリーンの
ドレスの傍にあった。
机のうえには仕掛けの裁縫道具が
使ったままになってて、針の通った
青いスカートを縫ったミシンが置いてあった。
熊の人形のリュックサックが
bedの柱にかけてあって、
小鳥と花カゴのパッチワークキルトがかけてある。
…部屋のbedの上に猫クッション
を置いて、その隣にクッキー缶の
…プレゼントがあった。
玲斗はbedの上に飛び乗ると、
プレゼントの包装をといて
桜乃からお菓子の箱をもらうと、
アイシングクッキーを食べた。
ハートマークのクッキーに
アイシングペンで〈愛してる〉
って、描いてある…。
クッキー缶と一緒に梅桃の花と
添えられてたのが桜桃色ノ夢鈴飾りだった。
…玲斗が首飾りをつける…
…玲斗がネックレスをつけては
月草色の着物に由良ゆら揺れてる…。
…夢のなかで、君を想う…
優しかった彼の琴ノ花(ことのは)を
…想ゐ描いて、花結愛(ゆめ)空をみる…。
………ドンッ!!!
〈花夢火の夕守り〉
…白いしろい火のなかを
ぽたぽた落ちる海月を食べる。
……私を、みてはいけない……
桜火の影から手が伸びてきて
…ばぁ!
…子ども達がかけてゆく…
お揃いの月草色の着物に
魂の二人は、
…楠木の下で花夢火を灯す…
「…わぁ。綺麗ね…」
「…俺、だけでしょ?」
「…え?」
…それって、ど‐ゆうことなんだろう…
「…嘘。」
「…どうして…」
…どうして、そんなこと聞くの…?
…って、そんなことが
いいたいわけじゃないのに…。
「…玲斗さん…」
…そんなこと、想わないでほしい…
(…結局、言えなかったな…)
いつも肝心なことは言えないままなのに
玲斗さんは、なんでか…なんでも、
分かってるみたいに、そ‐ゆう…。
そうして、玲斗は桜乃を抱きしめた。
「…僕じゃないと、
ダメって言ったでしょ?!」
玲斗は桜花ははかノ野に舞う妖艶な
…この鬼火を夢接ぎ火する。
…ぱちぱちと火が燃える。
…〈火ノ由良〉の焦がす香ばしい匂いがする。
うろのなかで眠る彼女の
…夢が覚めないかと、
その横顔をみては想った。
…なぜだったか、想ゐ出せない…
…ただ、玲斗は素直に
彼女が…愛しい、と…そう想った。
…ふわっと、玲斗は夢火を楠木に灯す…
…髪の毛から桜火の薫りがして…
玲斗は桜乃に甘い口づけを落とした。
マッチ1本を擦るごとに、
楠木に灯る鬼火は海のなかで
…揺らめいた。
蛍の火は次々と楠木の森を
照らして、木ノ葉に咲ってゆく…。
空を彩る海月の夜を結愛(ゆめ)みては、
……ドンッ♥!!!
…由良ゆら…由良ゆら…
…由良ゆら…由良ゆら…
…由良ゆら…由良ゆら…
…夢からさめて…mon ami…♥
…瞬いた瞳をつむると、あなたの手を引いて
誘った夕火のカゲに、君を想ゐ出す…。
…そなた…
…そなた…
…そなた…
…夢からさめて…
…夢を、みる…
…たもろ木。桜木に舞ふ花衣。
…月草に白。桜ヲ合わせて、花の
よい枝ヲ…たろみては、ほもち…
…よく、すゐるなれ…
…たもれ。…たもれ。
…花つもりけれ。
…若葉よ、つもりけれ。
…らん。…らん。
…カラン。…コロン。
…らん。…らん。
…カラン。…コロン。
…らん。…らん。
…カラン。…コロン。
…軽快かな母木の奏でる音がする。
…玲斗は落ち葉を拾い集めては
楠木のふもとで夕守りをしていた。
…はらはら。…はらはら。
…木ノ葉が舞い落ちると共に…
夢でみた桜花ははかノ野に花が咲き乱れてく。
…由良ゆら。…由良ゆら。
…由良ゆら。…由良ゆら。
…由良ゆら。…由良ゆら。
…楠木に咲いた白い桜花ははかノ花を
見上げては、灯した夢火を摘みとってゆく。
千歳に咲うその花笑みは
妖しいほど美しく可憐に満ちていた。
…由良ゆら舞う春のソナタの桜花ははかノ野…。
…桜の花が舞い散るなか、野にかぎろふ…
…永久(とこしえ)の花夕宵宮。
…てふてふを、追いかけて…
…さぁ…さァら
…らんらん。
…さぁ…さァら
…らんらん。
…母木の揺すふる音がする…
…花夢火の咲く…
…つかもふか…
…むすほふか…
…つかもふか…
…むすほふか…
‐…あなたに、会いたくて…‐
…仄かに匂ふ香のかほり…
…楠木に…
…桜木に…
かけよる私は、
…つかもふか…
…むすほふか…
…つかもふか…
…むすほふか…
…そうしたら…
…ててふが舞い込んでくる…
…パっ!と、花が咲く…
…そうしたら…
…そうしたら…
…つかまえた…
‐…抱きしめた…‐
…まみえた…
…両手を広げて抱きしめた、あなた…
…私を、ててふを、
…抱きしめる…
…抱きしめる…
…抱きしめる…
…抱きしめる…
…抱きしめる…
…想ゐ出すあなたヲ…
常しゑの桜の花
あなたは、そう…想ふのに、
…てふてふのように…
…この手ヲ、すり抜けてユク…
…つかみそねた、桜ノ火…
…わたし、だけのもの…
‐…あなただけヲ想ゐ描いて、
いて…そう、いて ほしい…‐
…つかまえた…ててふヲ、
…抱きしめた…
…楠の落ち葉の舞い散るなか…
…はらはら。
…母木の枝先が葉を絡めとる…
…塵取りでかき集めては…
…桜の花の舞い散るなか…
…出会った頃のことを、想ゐ出す…
…らん。…らん。
…カラン。…コロン。
…らん。…らん。
…カラン。…コロン。
…二人が出会った頃…
花衣が舞い降りたように、
春風とともに
舞い込んできた、出会った
あの頃と同じ…花衣。
…花衣のそなた…
…入る桜夕日のそなたよ…
…そなたに焚きしめられる…
…焚きしめられる…
…どうか、このままでいて…
…あなたに、つかまる…
…そなた…
…そなた…
…桜火のそなた…
〈花夢火の夕守り〉
❀❀❀
5円や10円のいくらかの古銭を
うろの木の切り株のところに置くと、
玲斗はランタンを持って、
月郷神社の社務所まで帰って行った。
楠に灯った桜火だけが
いつまでも玲斗の傍を離れないでいた。
❀❀❀
「…こっち、来ないで!」
…カン!
って、彼女の目が覚めてからというもの
玲斗の頭めがけて桜乃(ははの)は
缶チューハイの器を放り捨てた。
…投げうった缶チューハイの心地の良い音がする…
絡まったしばらくあててない
パーマが髪に残ったロングヘアに
月郷神社の社務所の近くに
椿の生け垣があって、椿の枝で
引っ掛けたときに破けた
berryのワンピースを着てたけど、
みるからにその子は…ボロボロだった…。
「…やめてって、言ってるでしょ?!」
悲しそうな瞳をした梟がケェケェ鳴いている。
桜乃の周りを歩き回って、心配そうに
何度も顔を覗き込んでいる。
(…やめたほうがいいケポ‐。)
楠木の祈念道から社務所まで帰ってきて、
居間にどさっと彼女をおろすと
玲斗はちょっと冷たく言い放った。
「…重いんだけど。」
「…ちょっとは、自分で歩けばッ?!」
…座敷童子が桜乃をなじる。
桜乃は玲斗の両腕のなかでぐったりしてる
自分の体をムリに起こして、立ち上がった。
「…あっかん、べ‐だッ♥!」
まだ温かかった玲斗の手のひらが
夜の闇が辺りを覆う心細い桜乃の心のなかを
ランタンが森を照らすように、
桜乃の心に火を灯していた。
「…そんなこと、言われたッて!」
…甘くて優しい玲斗さんが好きだった…
「…あなたじゃないと、ダメだった…♥わら」
…萌ぐ若草色の楠の葉が春風に
揺らめいて、涼し気な玲斗の心のなかに
…新しいゐ吹が吹き揺らしていた。



