彼の笑顔が誰より可愛い。

勇が教室でクラスメイトの男子に告白されているのを優作が見てしまってから一ヶ月が過ぎた。
季節は六月下旬。制服は夏服になり、爽やかだった空や風は、梅雨のじめじめとした湿気のある空気へと変わっていた。
「うわ。なんか空が暗くなってきたわ」
「マジか、朝あんなに晴れてたのになぁ」
教室の窓から空を見上げた生徒は、全員「げっ」と声を漏らした。
今朝はあんなに綺麗な青空が広がっていたのに、現在は灰色の雲が空一面を覆っている。
おまけに開いた窓からはいやに冷たい風が室内に流れこんでくる。
「優作は傘、持ってきたか?」
数名のクラスメイトにつられ空を見上げていた優作は、隣から聞こえた勇の声の方を見た。
並木高校の夏服である半袖の白いカッターシャツが、勇の濃紺の髪とシャープな顔に似合っていて、優作の心臓が一瞬ドキッと跳ねる。
「お前は忘れっぽいから心配なんだよ」
「今日はちゃんと持ってきたから大丈夫だよ」
優作は柔らかく微笑みながら、スポーツバッグの紐を肩に掛けた。
「今日は部活に行くのかい」
「いや、今日は自主練だから出ないつもりだ」
「そっか。じゃあ帰ろうか……って、ああ!」
教室の傘立ての前で優作が絶句する。肩が小刻みに揺れていた。
「どうした優作?」
勇は優作の肩越しに傘立てを見た。傘は三本ほどしか残っておらず、ピンク色や赤色の傘ばかりで、男子が使用するであろう色合いの傘は無さそうだ。
勇は嫌な予感がした。彼の額に汗が浮かぶ。
「僕の傘、また間違えて持っていかれた……」
泣き出しそうな情けない声音で言いながら優作は、隣の勇を見る。
勇は彼の肩に手をポンと置いた。
「これからはもう折りたたみ傘にしろ……」