彼の笑顔が誰より可愛い。

校舎を出ると案の定、風が強かった。
二人は校門を出て住宅街の細い道を歩いて行く。この時間は車はあまり通らず、同じ高校の生徒は前後に何人か歩いているが皆一人でスマートフォンを黙々と見ているため、静かな通学路に二人の足音が木霊していた。
会話もなく、二人は並んで暫く歩いて行く。こんなことは以前から何度かあったはずだろ、今が始めじゃない。
そう分かっていても優作は妙な緊張感をおぼえた。
「今日の数学はちょっと難しかったな。お前はあの数式の問題、ちゃんと解けたか?」
「僕は数学はさっぱりだよ。勇の方こそ古典はどうだい。最近の授業は少し難しいよね」
優作は首の後ろに片手をやり、苦笑いを浮かべた。
へニャリと崩れた表情は、べース型の顔のラインに沿うこげ茶色のふわふわのくせ毛、アーモンド型の茶色に虹彩の瞳、愛情深そうな唇が愛らしさを醸している。
優作のそんな様子は当たり前のはずなのに、勇はむず痒さを覚え、思わず彼を真似するように首の後ろを片手で掻いた。
「あー、俺は古典が苦手だしな。今度また勉強会やろうぜ」
「勉強会か……。たしかに最近は全然やっていないからね」
優作が言った、ちょうどその時。二人は住宅街の中にある大きな十字路に着いた。 
勇が左を指差しながら爽やかに微笑む。
「じゃあ俺、こっちだから。また明日な、優作」
「今日も一緒に帰ってくれてありがとう。気を付けて帰ってね」
彼につられて優作も微笑む。穏やかで爽やかな初夏の風が、二人の前髪を静かに揺らした。