それは十一月中旬のある日のこと。静まり返って誰一人いない図書室に茜色の日差しが射し込んでいる。日差しが届かない窓際とは反対側の、図書室の半分は薄暗く肌寒さを感じさせる。
一番奥の窓際の席で優作は日差しの中、一人で本を机の上に広げていた。 一時間前に図書室に来た彼は四角い茶色の机に分厚くて重みのある辞典を開き、黙々と見ている。時折ページをめくる音だけが静寂に響く。
今日は部活動やクラブがないから図書委員がくることがない。見回りの教師が鍵を閉めに巡回するまで、あと一時間はある。
優作が小さく息を吐き出した、その時。
「おぅ、ここにいたのか優作」
男子高校生にしては少し高めの聞き慣れた声がして、彼は顔を上げて声の主を見た。
「やあ勇。先生との進路相談の話は終わったのかい?」
「ああ。って言っても進路相談ってほどの話じゃねえよ」
紺色の短髪に三白眼だが小ぶりの唇に逆三角形の小顔と整った容姿の男子学生ーー華月勇が、優作を真っ直ぐに見下ろしている。
勇は桜寺優作の幼なじみであり親友で、一番の理解者だ。
「志望校、変えたんだったよな。僕らももう三年かぁ」
「お前は小さい頃から変わらねえけどな」
勇は苦笑いしながら、机を挟んで向かいの椅子に腰を降ろした。そして机の上の辞典を指さす。
「小学生の頃からこういうの好きだよな」
勇の指の影がページに落ちる。紙面には薔薇の写真とその種類が書かれていた。
優作は小学校の高学年の頃から休み時間は図書室で樹花の辞典を読んでいた。それが見つかり時にはからかわれたこともあったが、彼にとって図書室と辞典を始め本は心の安らぎになっていた。
「辞典や本を読むと心が落ち着くんだ。だから僕は年齢とか他人の目とか関係なく、辞典や本を好きな気持ちが大切だと思うんだ」
穏やかに柔らかく微笑む優作に、勇もつられてフッと口角を上げた。
「優作らしいな。だが俺はお前のそういうところに惚れたんだ」
「えっ……!」
熱く絡まる視線。二人の頬が茜色に染まるのは、きっと夕日のせいにして。
おわり
一番奥の窓際の席で優作は日差しの中、一人で本を机の上に広げていた。 一時間前に図書室に来た彼は四角い茶色の机に分厚くて重みのある辞典を開き、黙々と見ている。時折ページをめくる音だけが静寂に響く。
今日は部活動やクラブがないから図書委員がくることがない。見回りの教師が鍵を閉めに巡回するまで、あと一時間はある。
優作が小さく息を吐き出した、その時。
「おぅ、ここにいたのか優作」
男子高校生にしては少し高めの聞き慣れた声がして、彼は顔を上げて声の主を見た。
「やあ勇。先生との進路相談の話は終わったのかい?」
「ああ。って言っても進路相談ってほどの話じゃねえよ」
紺色の短髪に三白眼だが小ぶりの唇に逆三角形の小顔と整った容姿の男子学生ーー華月勇が、優作を真っ直ぐに見下ろしている。
勇は桜寺優作の幼なじみであり親友で、一番の理解者だ。
「志望校、変えたんだったよな。僕らももう三年かぁ」
「お前は小さい頃から変わらねえけどな」
勇は苦笑いしながら、机を挟んで向かいの椅子に腰を降ろした。そして机の上の辞典を指さす。
「小学生の頃からこういうの好きだよな」
勇の指の影がページに落ちる。紙面には薔薇の写真とその種類が書かれていた。
優作は小学校の高学年の頃から休み時間は図書室で樹花の辞典を読んでいた。それが見つかり時にはからかわれたこともあったが、彼にとって図書室と辞典を始め本は心の安らぎになっていた。
「辞典や本を読むと心が落ち着くんだ。だから僕は年齢とか他人の目とか関係なく、辞典や本を好きな気持ちが大切だと思うんだ」
穏やかに柔らかく微笑む優作に、勇もつられてフッと口角を上げた。
「優作らしいな。だが俺はお前のそういうところに惚れたんだ」
「えっ……!」
熱く絡まる視線。二人の頬が茜色に染まるのは、きっと夕日のせいにして。
おわり
