そばにいたのはキミだった



2人で屋上に来ると、他には誰もいなかった。まだ2月で寒いからかもしれない。でも晴れてる日は昼間だけポカポカしてて心地いいのに勿体ない。


日当たりのいい場所に横並びで座り、フェンスにもたれた。

「はい、これ交換日記」
「…おぉ!ありがとう!これが!!」
「もう最初のページ書いたらしいから、読んでみたら?」
「あ、う、うん!」


渡されたものは手帳のような大きさで濃い緑色の表紙。しおり代わりの茶色い紐がついている、オシャレなビンテージ感のある日記帳だ。

中をめくると、1ページ目にあの綺麗な文字で文章が書かれていた。

“返事ありがとう。とても嬉しいです。これからこの日記を書いていくね。香夜くんのことや、その日あったこととか何でもいいから書いてほしい。君のことがもっと知りたいです。香夜くんの好きな食べ物とか好きな漫画とか教えてほしいな”といった内容だ。


「おぉ、おぉ…!俺のこと知りたいって…!」

嬉しくてつい声に出してしまっていたことに気付き、ハッと口を手で覆った。チラリと隣にいる宵衣くんを見てみたら、三角座りをしながら俺を見つめている。その顔はなぜかニコニコしてて嬉しそうだ。


「いいことが書いてあったみたいだね」
「あっ、う、うん…。ごめん、声に出てた」
「いいよ。返事書くんでしょ?放課後付き合おうか?」
「えっ、いいの…?」
「いいよ」
「ありがとう…!うわー、女の子と交換日記なんて初めてでドキドキしてきた!」

俺が日記を掲げて喜んでいると、宵衣くんは小さなトートバッグから弁当箱を出して蓋を開けた。すると美味しそうな匂いがこちらまで漂ってきて、ついくんくんと鼻を鳴らしてしまった。


「…どれか食べる?」
「えっ!?あっごめん、つい…美味しそうだなって。でも大丈夫!俺はパンとおにぎりあるし!」
「それだけだと栄養足らないでしょ?卵焼きとか野菜炒めとか…好きなのあげる」
「え…」

突き出されたお弁当の中身は色鮮やかな野菜炒めと卵焼き、それにウインナーとトマト、炊きごみご飯が入っていた。どれも美味しそうで涎を飲み込んだ。

ここまで言ってくれてるのに断るのも申し訳ないな…せっかくだし一つだけもらおうかな。

「じゃ、じゃあ…卵焼きもらおうかな」
「どうぞ」
「いただきます!」

何となく気まずいが、卵焼きをつまんで口に放り入れた。すると、噛んでからすぐ卵と出汁の味が口の中に広がった。

「えっ…うまぁ!!」
「ほんと?よかった」
「うん!めちゃ美味い!俺、出汁巻き玉子好きなんだよね〜」
「もうひとついる?」
「えっ、でも宵衣くんの分が減っちゃうよ」
「今日ちょっと作りすぎたから。さっきお菓子も食べちゃってお腹も微妙だし、食べていいよ」
「じゃあ…、ありがとう!」

お言葉に甘えて、もうひとついただいた。味付けが好みで何個でも食べたいくらいだ。

「ん〜!うまぁ…!てか、作りすぎたってことは自分で弁当作ってるの?」

「そうだよ。大したもの作れないけどね」

「えっすご!料理できるんだ…。俺全然ダメなんだよなぁ。父さんと2人暮らしだから、男だけだと飯とか適当になっちゃうし」

「香夜くん、お父さんと暮らしてるの?」

「そーそー。母さんはちょっと前に出て行っちゃってさ。あっ、そんなしんみりしなくていいからね!?もう仕方ないって割り切ってるし…俺父さんと仲良いからさ」