漆黒の妖気は禍々しさを放っていた。
「ついに邪気が出てきてしまったか」
紫苑は険しい顔をして言う。
そこで優子は何かに気づく。
「あれ……!」
優子が指差した先、そこには異能を使い、一人、厄の妖怪に立ち向かう青紫の姿があった。
「あそこか」
紫苑は慎重に厄の妖怪に近づく。
「そうだ。優子、これを紅葉から預かってきたんだ!」
ヨモギは懐から、折り畳まれた小さな札を取り出すと、優子の着物の袖から出てくる。優子の肌着に捕まりながら、腕をよじ登り肩までくると、札を広げ、優子の額に貼る。
札は赤く光ると消え、優子の額に連なった黒い文字が浮かぶ。
「魔除けの術が施されている。優子はおいらたち妖怪と同じくらい妖気が強いから、妖気に当てられやすい。だから、紅葉が札に術を書き記して、優子に使えって言ってくれたんだ。紅葉、自分はここには来られなけど、せめてもって」
「紅葉さん……」
(ありがとうございます)
「いくら術があるとはいえ、大丈夫な訳じゃない。それを忘れるなよ」
紫苑は釘を刺すように優子に言う。
「……ええ」
「おそらく、あの子は異能を使いすぎている、私が代わってやるから、その間、お前は少しでもあの子を休ませろ。だが、妖怪も人間同様、邪気の影響は受ける、お前も私も、触れてしまえば終わりだ」
優子は肩にそっと触れる。そこには、いつもあるはずのお守りのスカーフがなかった。
不安が募り、弱気になりそうになる優子だったが、自分を鼓舞する。
(しっかりするのよ。青紫さんが頑張っているのに、私がここでヘタれるわけにはいかない)
優子は身をかがめ、紫苑に顔を近づける。
「紫苑、私は覚悟はできてる。できる限り、青紫さんに近づいて。私が、青紫さんを無理矢理にでも、あの妖怪から引き離すわ」
横目で優子を見る紫苑。
(一点の濁りもない、真っ直ぐな瞳……この小娘は、今までいったいどれだけのことに耐え、努力してきたのだろうか)
紫苑は優子の覚悟を感じ取ると、青紫へ一気に近づく。
「青紫さん……!!」
優子を見た青紫は大きく目を見開く。
「優子さん……どうして」
近づいてくる優子に、青紫は動揺する。
優子は青紫に片手を差し出す。
「捕まって……!!」
青紫は言われるがまま、優子の片手を掴むと、そのまま紫苑の背の飛び乗る。紫苑は一気に厄の妖怪から離れ、地上に降り立った。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
(酷い……)
青紫のその姿に、優子は唖然としてしまった。
顔や体に霜が出て、息も白く冷え切っている。呼吸は今まで見たことないくらいに荒くなり、青紫は息をするのもやっとだった。
血のように赤い両目はそのままだが、力を使いすぎているせいか、姿は半分人間の姿に戻っている。
「はぁっ……はぁ……くっ!!」
「青紫さん……!!」
苦しそうにする青紫に、優子はその背に手を回す。
「っ……!」
その尋常でない冷たさに、優子は反射的に青紫から手を離す。
(……これは、かなりまずい状態だわ)
「小娘、青紫を連れて私から降りろ!」
紫苑の緊迫した声に、優子は青紫の肩に腕を回し、紫苑から降りる。
「おいらはお前と一緒に行く」
「いいのか小物。命がどうなるか分からんぞ」
「おいらだって妖怪だ。ここで立ち向かわなきゃだろ」
紫苑は満足げに鼻で笑うと、そのままヨモギを背に乗せ、厄の妖怪に向かっていく。
「どうして来たんですかっ……!!」
決死に叫ぶ青紫。
「あなたを守るために、あの場を離れたというのに……ゲホォゲホォッ……」
「青紫さん……!」
咳き込む青紫の背中を摩る優子。
地面にボタボタとと青紫の血が落ちる。吐血しながらも、青紫はなんとか息を整える。
「ごめんなさい……でも、青紫さんが命懸けで戦っているのに、ただ見ているだけなんて、できなかったんです」
青紫の体はどんどん霜が増えていき、それは青紫の体を覆うように美しい結晶へと変わっていく。
異能は、着実に青紫の体を蝕んでいた。
(このままでは、本当に青紫さんが死んでしまう)
優子は咄嗟に青紫を抱きしめる。
「何をしている離れて……!」
突き飛ばす勢いで、両手で優子を押しのける青紫。
「嫌!! 離れないわ! 絶対に離れない……!!」
青紫が突き放そうとするほどに、優子は抱擁を強める。
優子の体にも霜ができはじめ、息が苦しくなる。
「うっ……! っ……」
(肺が……凍ったように冷たい……)
それでも、苦しさに耐え、優子は必死に青紫を抱きしめ続ける。
「っ……私のことはいいから! このままでは、あなたも死んでしうまう!」
「それでも構わないっ……!!」
優子の決死の叫びに、青紫の体がぴたりと止まる。
「あなたと一緒なら、死ぬことなんて怖くない」
息をするのが苦しくなっても、優子は必死に言葉を紡ぐ。
「だって……私はっ……あなたを愛しているんだもの……」
笑みを浮かべて青紫にそう言う優子。
唇を紫色いし、ガタガタと体を震わせながらも、優子は力の限り、青紫を抱きしめ続ける。
「っ……私たちは……何があっても、最後まで、一緒でしょ……?」
優子の揺るぎない愛に、青紫の視界は涙でぼやけ、涙が溢れる。
ボロボロと涙を流す青紫。ゆっくりと、優子の背中に両腕を回すと、弱々しくも、抱きしめた。
優子の体の霜が結晶へと変わり始めた、その時だった。
優子の体から黄金色の光が放たれる。
(何、これ……)
光はどんどん強さを増し、二人を包み込む。太陽のように温かい光は、二人に生命力を漲らせてゆく。
「これは……まさか、治癒の力?」
目を疑うような光景に、青紫は言う。
「治癒……?」
「優子さん、あなた、巫女の血を引いていられたのですね」
優子は自分から発せられる黄金色の光に驚き、両手を見つめる。
体を覆っていた結晶が、嘘のようにが消えている……それに、息もしやすい。
青紫を見ると、青紫の体にあった結晶も消え、顔色が良くなっている。
(これが、私にあった特別な力……?)
大地を揺らすような大きな物音が聞こえ、空を見上げると、結界から出ようとしている厄の妖怪に、紫苑が体当たりをし食い止めようとしている。邪気に触れてしまい、紫苑の体には黒いモヤのようなものが染み込んでいる。
思わず、立ち上がる優子。
「あのままでは紫苑が……!」
焦る優子の片方を青紫が握る。
「優子さん、意識を集中させて、イメージするんです。守りたいものを、救いたい人たちを。大丈夫、あなたならきっとできる」
優子は頷くと、目を閉じる。
まずは紫苑に意識を集中させる。
(紫苑……)
心の中で、紫苑を思い浮かべる。すると、優子から少しずつ黄金色の光が放たれ、橋をかけるように紫苑まで届く。
徐々に紫苑から邪気が消えていき、弱っていた体が力を取り戻す。
目を開け、パッと明るい笑みを浮かべ、青紫を見る優子。
「その調子です」
優子はさらに紫苑に意識を集中させる。紫苑の体を守るように優子の黄金色の光が包み込む。
青紫はその光景に圧巻されていた。
(すごい……あの力は治癒だけではなく、盾にもなるのか。優子さん、あなたは、本当にすごい力をお持ちだったのですね)
紫苑の力に押され、厄の妖怪は帝都から引き離され、結界の中に戻っていく。
もっと、もっとこの力を広げなければ。
優子は体に力を込め、黄金色の光は強さを増す。光は厄の妖怪を包み込み、巨大な厄の妖怪の体は少しずつ小さくなる。
「今ならいける」
立ち上がる青紫。そこに薊がやって来る。
「青紫……!!」
薊は、全速力で青紫の元へ駆け来た。
「薊! いいところに来ましたね」
薊は優子を見て驚く。
「あいつ、こんな力を隠し持ってやがったのか」
「今のうちに、あの妖怪を封印します」
薊はポケットから壺を取り出し、青紫に投げる。
「じゃあ、これが必要だろ」
壺を受けとった青紫は、口元に面白がるような笑みを浮かべる。
「お祖父様、ご立腹なさるのではないですか。お気に入りだったでしょうに」
「まあーな。でも、世界の一大事だ。ここで使わないで、どこに使うんだよ」
薊が渡してきたこの壺は、薊の祖父が大切に保管していた封印専門の強力なもの。呪物コレクターでもある薊の祖父は、蔵に多くの呪物を保管しているのだ。
「ありがとう、薊」
「……ああ」
青紫は壺を手に、優子の隣に並ぶと、強く握られている行この拳に手を添える。
優子が青紫を見上げると、青紫は「一緒に」と言うように、優しい笑みを浮かべ、頷いた。優子が頷き返すと、二人は手を握り合う。黄金色の光が二人を包み込む。
青紫は壺を片手に、胸の前に突き出し構えると、目を閉じ呪文を唱える。
「__汝、我が声に耳を傾けよ」
青紫の呪文に、厄の妖怪は悲鳴を上げる。封印に抵抗し、邪気を飛ばしてくるが、優子の黄金の盾に跳ね返される。
青い光が放たれ、厄の妖怪は壺に吸い込まれていく。
「っ……!!」
厄の妖怪の力に押されそうになる青紫。優子は青紫の手をぎゅっと握り、青紫の持つ壺に片手を添える。
青紫も優子の手をぎゅっと握り返す。
優子は目を閉じ、意識を青紫だけに集中させる。
「静まりたまえ静まりたまえ……!!」
青紫の青い光と優子の黄金色の光が重なり合い、これまでにない強い光が放たれる。
厄の妖怪は壺の中に吸い込まれる。
「……やったか」
力が抜け、青紫はその場に崩れ落ちる。
「青紫さん!」
かがみ込んだ優子は青紫の背中に片手を置く。
青紫は優子を見上げると笑う。
優子は今にでも泣き出しそうな顔をしながら、青紫を見つめる。
どんよりとしていた雲は晴れ、夕暮れ時の太陽が顔を出し、温かい日差しが二人に降り注ぐ。
優子が青紫の体を支えながら、二人は立ち上がる。
「帰りましょう青紫さん、私たちの家に。みんなが待つあの場所に」
「ええ……帰りましょう」
微笑み合う二人、そこに、ヨモギを乗せた紫苑が優子たちの元へやってくる。
紫苑から降りると、優子の足に飛びつくヨモギ。
「優子……!!」
泣きながら、擦り寄ってくるヨモギを、優子はかがみ込むと両手で掬い取り、視線を合わせた。
「おいら、もうダメかと思ったぞぉぉぉぉ……!」
大粒の涙を流し、泣きじゃくるヨモギ。
そんなヨモギに、優子と青紫を顔を合わせ、笑い合う。
「青紫」
紫苑は体を丸め、青紫を囲うように抱きしめた。
「無事でよかった……」
「紫苑……」
少し震えている紫苑の声。心からの安堵がこもったその言葉に、青紫の目には光るものがあった。
青紫は何も言わず、紫苑に身を寄せた。
そんな様子を見守っていた薊は、腕を組み満足げに言う。
「一件落着だな」
「ついに邪気が出てきてしまったか」
紫苑は険しい顔をして言う。
そこで優子は何かに気づく。
「あれ……!」
優子が指差した先、そこには異能を使い、一人、厄の妖怪に立ち向かう青紫の姿があった。
「あそこか」
紫苑は慎重に厄の妖怪に近づく。
「そうだ。優子、これを紅葉から預かってきたんだ!」
ヨモギは懐から、折り畳まれた小さな札を取り出すと、優子の着物の袖から出てくる。優子の肌着に捕まりながら、腕をよじ登り肩までくると、札を広げ、優子の額に貼る。
札は赤く光ると消え、優子の額に連なった黒い文字が浮かぶ。
「魔除けの術が施されている。優子はおいらたち妖怪と同じくらい妖気が強いから、妖気に当てられやすい。だから、紅葉が札に術を書き記して、優子に使えって言ってくれたんだ。紅葉、自分はここには来られなけど、せめてもって」
「紅葉さん……」
(ありがとうございます)
「いくら術があるとはいえ、大丈夫な訳じゃない。それを忘れるなよ」
紫苑は釘を刺すように優子に言う。
「……ええ」
「おそらく、あの子は異能を使いすぎている、私が代わってやるから、その間、お前は少しでもあの子を休ませろ。だが、妖怪も人間同様、邪気の影響は受ける、お前も私も、触れてしまえば終わりだ」
優子は肩にそっと触れる。そこには、いつもあるはずのお守りのスカーフがなかった。
不安が募り、弱気になりそうになる優子だったが、自分を鼓舞する。
(しっかりするのよ。青紫さんが頑張っているのに、私がここでヘタれるわけにはいかない)
優子は身をかがめ、紫苑に顔を近づける。
「紫苑、私は覚悟はできてる。できる限り、青紫さんに近づいて。私が、青紫さんを無理矢理にでも、あの妖怪から引き離すわ」
横目で優子を見る紫苑。
(一点の濁りもない、真っ直ぐな瞳……この小娘は、今までいったいどれだけのことに耐え、努力してきたのだろうか)
紫苑は優子の覚悟を感じ取ると、青紫へ一気に近づく。
「青紫さん……!!」
優子を見た青紫は大きく目を見開く。
「優子さん……どうして」
近づいてくる優子に、青紫は動揺する。
優子は青紫に片手を差し出す。
「捕まって……!!」
青紫は言われるがまま、優子の片手を掴むと、そのまま紫苑の背の飛び乗る。紫苑は一気に厄の妖怪から離れ、地上に降り立った。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
(酷い……)
青紫のその姿に、優子は唖然としてしまった。
顔や体に霜が出て、息も白く冷え切っている。呼吸は今まで見たことないくらいに荒くなり、青紫は息をするのもやっとだった。
血のように赤い両目はそのままだが、力を使いすぎているせいか、姿は半分人間の姿に戻っている。
「はぁっ……はぁ……くっ!!」
「青紫さん……!!」
苦しそうにする青紫に、優子はその背に手を回す。
「っ……!」
その尋常でない冷たさに、優子は反射的に青紫から手を離す。
(……これは、かなりまずい状態だわ)
「小娘、青紫を連れて私から降りろ!」
紫苑の緊迫した声に、優子は青紫の肩に腕を回し、紫苑から降りる。
「おいらはお前と一緒に行く」
「いいのか小物。命がどうなるか分からんぞ」
「おいらだって妖怪だ。ここで立ち向かわなきゃだろ」
紫苑は満足げに鼻で笑うと、そのままヨモギを背に乗せ、厄の妖怪に向かっていく。
「どうして来たんですかっ……!!」
決死に叫ぶ青紫。
「あなたを守るために、あの場を離れたというのに……ゲホォゲホォッ……」
「青紫さん……!」
咳き込む青紫の背中を摩る優子。
地面にボタボタとと青紫の血が落ちる。吐血しながらも、青紫はなんとか息を整える。
「ごめんなさい……でも、青紫さんが命懸けで戦っているのに、ただ見ているだけなんて、できなかったんです」
青紫の体はどんどん霜が増えていき、それは青紫の体を覆うように美しい結晶へと変わっていく。
異能は、着実に青紫の体を蝕んでいた。
(このままでは、本当に青紫さんが死んでしまう)
優子は咄嗟に青紫を抱きしめる。
「何をしている離れて……!」
突き飛ばす勢いで、両手で優子を押しのける青紫。
「嫌!! 離れないわ! 絶対に離れない……!!」
青紫が突き放そうとするほどに、優子は抱擁を強める。
優子の体にも霜ができはじめ、息が苦しくなる。
「うっ……! っ……」
(肺が……凍ったように冷たい……)
それでも、苦しさに耐え、優子は必死に青紫を抱きしめ続ける。
「っ……私のことはいいから! このままでは、あなたも死んでしうまう!」
「それでも構わないっ……!!」
優子の決死の叫びに、青紫の体がぴたりと止まる。
「あなたと一緒なら、死ぬことなんて怖くない」
息をするのが苦しくなっても、優子は必死に言葉を紡ぐ。
「だって……私はっ……あなたを愛しているんだもの……」
笑みを浮かべて青紫にそう言う優子。
唇を紫色いし、ガタガタと体を震わせながらも、優子は力の限り、青紫を抱きしめ続ける。
「っ……私たちは……何があっても、最後まで、一緒でしょ……?」
優子の揺るぎない愛に、青紫の視界は涙でぼやけ、涙が溢れる。
ボロボロと涙を流す青紫。ゆっくりと、優子の背中に両腕を回すと、弱々しくも、抱きしめた。
優子の体の霜が結晶へと変わり始めた、その時だった。
優子の体から黄金色の光が放たれる。
(何、これ……)
光はどんどん強さを増し、二人を包み込む。太陽のように温かい光は、二人に生命力を漲らせてゆく。
「これは……まさか、治癒の力?」
目を疑うような光景に、青紫は言う。
「治癒……?」
「優子さん、あなた、巫女の血を引いていられたのですね」
優子は自分から発せられる黄金色の光に驚き、両手を見つめる。
体を覆っていた結晶が、嘘のようにが消えている……それに、息もしやすい。
青紫を見ると、青紫の体にあった結晶も消え、顔色が良くなっている。
(これが、私にあった特別な力……?)
大地を揺らすような大きな物音が聞こえ、空を見上げると、結界から出ようとしている厄の妖怪に、紫苑が体当たりをし食い止めようとしている。邪気に触れてしまい、紫苑の体には黒いモヤのようなものが染み込んでいる。
思わず、立ち上がる優子。
「あのままでは紫苑が……!」
焦る優子の片方を青紫が握る。
「優子さん、意識を集中させて、イメージするんです。守りたいものを、救いたい人たちを。大丈夫、あなたならきっとできる」
優子は頷くと、目を閉じる。
まずは紫苑に意識を集中させる。
(紫苑……)
心の中で、紫苑を思い浮かべる。すると、優子から少しずつ黄金色の光が放たれ、橋をかけるように紫苑まで届く。
徐々に紫苑から邪気が消えていき、弱っていた体が力を取り戻す。
目を開け、パッと明るい笑みを浮かべ、青紫を見る優子。
「その調子です」
優子はさらに紫苑に意識を集中させる。紫苑の体を守るように優子の黄金色の光が包み込む。
青紫はその光景に圧巻されていた。
(すごい……あの力は治癒だけではなく、盾にもなるのか。優子さん、あなたは、本当にすごい力をお持ちだったのですね)
紫苑の力に押され、厄の妖怪は帝都から引き離され、結界の中に戻っていく。
もっと、もっとこの力を広げなければ。
優子は体に力を込め、黄金色の光は強さを増す。光は厄の妖怪を包み込み、巨大な厄の妖怪の体は少しずつ小さくなる。
「今ならいける」
立ち上がる青紫。そこに薊がやって来る。
「青紫……!!」
薊は、全速力で青紫の元へ駆け来た。
「薊! いいところに来ましたね」
薊は優子を見て驚く。
「あいつ、こんな力を隠し持ってやがったのか」
「今のうちに、あの妖怪を封印します」
薊はポケットから壺を取り出し、青紫に投げる。
「じゃあ、これが必要だろ」
壺を受けとった青紫は、口元に面白がるような笑みを浮かべる。
「お祖父様、ご立腹なさるのではないですか。お気に入りだったでしょうに」
「まあーな。でも、世界の一大事だ。ここで使わないで、どこに使うんだよ」
薊が渡してきたこの壺は、薊の祖父が大切に保管していた封印専門の強力なもの。呪物コレクターでもある薊の祖父は、蔵に多くの呪物を保管しているのだ。
「ありがとう、薊」
「……ああ」
青紫は壺を手に、優子の隣に並ぶと、強く握られている行この拳に手を添える。
優子が青紫を見上げると、青紫は「一緒に」と言うように、優しい笑みを浮かべ、頷いた。優子が頷き返すと、二人は手を握り合う。黄金色の光が二人を包み込む。
青紫は壺を片手に、胸の前に突き出し構えると、目を閉じ呪文を唱える。
「__汝、我が声に耳を傾けよ」
青紫の呪文に、厄の妖怪は悲鳴を上げる。封印に抵抗し、邪気を飛ばしてくるが、優子の黄金の盾に跳ね返される。
青い光が放たれ、厄の妖怪は壺に吸い込まれていく。
「っ……!!」
厄の妖怪の力に押されそうになる青紫。優子は青紫の手をぎゅっと握り、青紫の持つ壺に片手を添える。
青紫も優子の手をぎゅっと握り返す。
優子は目を閉じ、意識を青紫だけに集中させる。
「静まりたまえ静まりたまえ……!!」
青紫の青い光と優子の黄金色の光が重なり合い、これまでにない強い光が放たれる。
厄の妖怪は壺の中に吸い込まれる。
「……やったか」
力が抜け、青紫はその場に崩れ落ちる。
「青紫さん!」
かがみ込んだ優子は青紫の背中に片手を置く。
青紫は優子を見上げると笑う。
優子は今にでも泣き出しそうな顔をしながら、青紫を見つめる。
どんよりとしていた雲は晴れ、夕暮れ時の太陽が顔を出し、温かい日差しが二人に降り注ぐ。
優子が青紫の体を支えながら、二人は立ち上がる。
「帰りましょう青紫さん、私たちの家に。みんなが待つあの場所に」
「ええ……帰りましょう」
微笑み合う二人、そこに、ヨモギを乗せた紫苑が優子たちの元へやってくる。
紫苑から降りると、優子の足に飛びつくヨモギ。
「優子……!!」
泣きながら、擦り寄ってくるヨモギを、優子はかがみ込むと両手で掬い取り、視線を合わせた。
「おいら、もうダメかと思ったぞぉぉぉぉ……!」
大粒の涙を流し、泣きじゃくるヨモギ。
そんなヨモギに、優子と青紫を顔を合わせ、笑い合う。
「青紫」
紫苑は体を丸め、青紫を囲うように抱きしめた。
「無事でよかった……」
「紫苑……」
少し震えている紫苑の声。心からの安堵がこもったその言葉に、青紫の目には光るものがあった。
青紫は何も言わず、紫苑に身を寄せた。
そんな様子を見守っていた薊は、腕を組み満足げに言う。
「一件落着だな」
