庭園は多くの招待客で賑わい、立食型のパーティーを楽しんでいた。今日の主役である美月は、多くの招待客に囲まれ、忙しない様子だ。青紫と目が合うと、美月はニコッと笑う。大人になっても、向けてくる人懐っこい笑みは変わらない。青紫もそっと笑みを返した。
「美月くん、人気者ですね」
「昔から、愛嬌もあって社交的ですから、目上の者にも可愛がられるタイプです」
美月の周りには、同じ歳くらいの女の子たちもいる。その様子を横目に、優子はそっと青紫に耳打ちをする。
「それに、女性にもモテるみたいですね」
美月も年頃の男の子。好きな人くらいいてもおかしくはない。
視線を感じ、ふと庭園の隅の方を見ると、何人かの一門の者が、こちらを見ていた。彼女たちは哀れみと忌々しさを含んだ視線を青紫に向け、ヒソヒソと話している。
「どうして青紫様がいるの」
「美月様が呼んだそうよ。美月様、お優しいから」
「今日は次期頭首の発表もあるし。まあ、次の頭首は美月様に決まっているようなものだけど」
「青紫様も不運なものよね、名門一族である黒羽家の血を引いて、祓い屋としても美月様と肩を並べるぐらいご優秀なのに、お父上が妖怪であるばかりに……」
自分を見た者が口を開けば出てくる言葉は、半妖、異端、忌まわしい、可愛そう。そんな蔑みは、物心ついた時から影のように付き纏っていた。だが、それはもう過去の話だ。
彼女たちの会話は、優子の耳にも入っているだろう。その証拠に、少しだけ眉間に皺が寄っている。そんな優子に、青紫は密かにクスリと笑みをこぼす。優子は思ったことがすぐに顔に出るし、発言に澱みがない。素直な人なのだろう。
(そこも、好きなんだ)
隣にいる優子は、背筋を伸ばし前を向いている。気後れせず、堂々としているその自信のある姿に、青紫はいつも助けられている。
「どうかされましたか?」
青紫の視線に気づき、優子がこちらを見上げる。首を傾げる優子に、青紫は優しい笑みを浮かべる。
「いえ、なんでもありませんよ」
幼き日、孤独を感じていたこの場所、今、この場所は、夫婦の美しい人生の一ページとなる。青紫が想像していた以上に、優子の存在は、青紫を強くしてくれている。
「私、飲み物、とってきますね」
「ええ」
青紫の側を離れる優子。入れ違いで、一縷がやって来る。後ろには鶴岡も一緒だ。
「パーティーは楽しんでいるかい?」
「それなりに」
「そうかいそうかい」
穏やかな笑みを浮かべる一縷。
「お前は優子さんの前では、優しく笑うのだな」
「……」
(ずっと見てたんだな)
冷めた青紫の視線に、一縷はおかしそうに笑う。
「あなたが帝都に行くなんて、珍しいこともあるんですね。ミミとお屋敷で過ごすのが、何よりも穏やかな時間でしょうに」
微笑みを浮かべるだけで、何も答えない一縷に、青紫は核心をつく。
「優子さんに会いに来たのでしょう?」
「バレたかい?」
いたずらがバレた子供のような笑みを浮かべる一縷。その素直すぎる態度に、青紫は面食らう。
「まったく……あなたと言う人は……」
青紫は頭に片手を当て、小さくため息をついた。
「お前が結婚したと聞いて、相手がどんな人なのか、見てみたかったんだ」
「それで、彼女を調べたんですね」
「まさか、見える側のお嬢さんとは、思わなかったけどね」
飲み物を取りに行った優子は、妖怪たちと談笑している。
「でもだからこそ、お前の苦しみも悲しみも、理解してくれるのかもしれないと思った」
妖怪を恨み、憎悪と虚無だけだった青紫は、表面上にはいつも屈託のない笑みを浮かべ飄々としていたが、その心は悲鳴を上げ、どうにかなってしまうそうだった。だが、そんな青紫を優子の純粋な愛が癒してくれた。
「……それで? あなたの目に、彼女はどう映ったのですか」
優子を見つめたまま、懐かしそうに目を細める一縷。
「そうだね……強気で、物怖じしない。それでいて、脆く繊細な一面もある。お前の母親に、よく似ている」
母のことは、写真でしか見たことがないが、言われてみれば、優子の面影を感じる。青紫の母も優子と同じで、妖怪を友人のように大切に想う人だったという。それは時に、祓い屋としては危険な場面に遭遇してしまうこともあったというが、青紫の母は自分の信念を曲げない人だった。そして優子も、人と妖怪を区別しない。命はみな平等であるべきで、妖怪も人間と同じように尊い存在であると認識している。そんな母だったから、妖怪の父を愛した。そんな優子だから、半妖である自分を愛してくれているのかもしれない。
「私はずっと……自分が生まれた意味を探し求めていました。彼女に出会って、それがようやく何か分かった。きっと私は、彼女を愛するために、生まれてきたのでしょう」
青紫に言葉に、一縷の目は大きく見開かれる。
「青紫……」
一縷の目に、光るものがある。快晴の空を見上げた一縷は、ある決心をした。
「美月くん、人気者ですね」
「昔から、愛嬌もあって社交的ですから、目上の者にも可愛がられるタイプです」
美月の周りには、同じ歳くらいの女の子たちもいる。その様子を横目に、優子はそっと青紫に耳打ちをする。
「それに、女性にもモテるみたいですね」
美月も年頃の男の子。好きな人くらいいてもおかしくはない。
視線を感じ、ふと庭園の隅の方を見ると、何人かの一門の者が、こちらを見ていた。彼女たちは哀れみと忌々しさを含んだ視線を青紫に向け、ヒソヒソと話している。
「どうして青紫様がいるの」
「美月様が呼んだそうよ。美月様、お優しいから」
「今日は次期頭首の発表もあるし。まあ、次の頭首は美月様に決まっているようなものだけど」
「青紫様も不運なものよね、名門一族である黒羽家の血を引いて、祓い屋としても美月様と肩を並べるぐらいご優秀なのに、お父上が妖怪であるばかりに……」
自分を見た者が口を開けば出てくる言葉は、半妖、異端、忌まわしい、可愛そう。そんな蔑みは、物心ついた時から影のように付き纏っていた。だが、それはもう過去の話だ。
彼女たちの会話は、優子の耳にも入っているだろう。その証拠に、少しだけ眉間に皺が寄っている。そんな優子に、青紫は密かにクスリと笑みをこぼす。優子は思ったことがすぐに顔に出るし、発言に澱みがない。素直な人なのだろう。
(そこも、好きなんだ)
隣にいる優子は、背筋を伸ばし前を向いている。気後れせず、堂々としているその自信のある姿に、青紫はいつも助けられている。
「どうかされましたか?」
青紫の視線に気づき、優子がこちらを見上げる。首を傾げる優子に、青紫は優しい笑みを浮かべる。
「いえ、なんでもありませんよ」
幼き日、孤独を感じていたこの場所、今、この場所は、夫婦の美しい人生の一ページとなる。青紫が想像していた以上に、優子の存在は、青紫を強くしてくれている。
「私、飲み物、とってきますね」
「ええ」
青紫の側を離れる優子。入れ違いで、一縷がやって来る。後ろには鶴岡も一緒だ。
「パーティーは楽しんでいるかい?」
「それなりに」
「そうかいそうかい」
穏やかな笑みを浮かべる一縷。
「お前は優子さんの前では、優しく笑うのだな」
「……」
(ずっと見てたんだな)
冷めた青紫の視線に、一縷はおかしそうに笑う。
「あなたが帝都に行くなんて、珍しいこともあるんですね。ミミとお屋敷で過ごすのが、何よりも穏やかな時間でしょうに」
微笑みを浮かべるだけで、何も答えない一縷に、青紫は核心をつく。
「優子さんに会いに来たのでしょう?」
「バレたかい?」
いたずらがバレた子供のような笑みを浮かべる一縷。その素直すぎる態度に、青紫は面食らう。
「まったく……あなたと言う人は……」
青紫は頭に片手を当て、小さくため息をついた。
「お前が結婚したと聞いて、相手がどんな人なのか、見てみたかったんだ」
「それで、彼女を調べたんですね」
「まさか、見える側のお嬢さんとは、思わなかったけどね」
飲み物を取りに行った優子は、妖怪たちと談笑している。
「でもだからこそ、お前の苦しみも悲しみも、理解してくれるのかもしれないと思った」
妖怪を恨み、憎悪と虚無だけだった青紫は、表面上にはいつも屈託のない笑みを浮かべ飄々としていたが、その心は悲鳴を上げ、どうにかなってしまうそうだった。だが、そんな青紫を優子の純粋な愛が癒してくれた。
「……それで? あなたの目に、彼女はどう映ったのですか」
優子を見つめたまま、懐かしそうに目を細める一縷。
「そうだね……強気で、物怖じしない。それでいて、脆く繊細な一面もある。お前の母親に、よく似ている」
母のことは、写真でしか見たことがないが、言われてみれば、優子の面影を感じる。青紫の母も優子と同じで、妖怪を友人のように大切に想う人だったという。それは時に、祓い屋としては危険な場面に遭遇してしまうこともあったというが、青紫の母は自分の信念を曲げない人だった。そして優子も、人と妖怪を区別しない。命はみな平等であるべきで、妖怪も人間と同じように尊い存在であると認識している。そんな母だったから、妖怪の父を愛した。そんな優子だから、半妖である自分を愛してくれているのかもしれない。
「私はずっと……自分が生まれた意味を探し求めていました。彼女に出会って、それがようやく何か分かった。きっと私は、彼女を愛するために、生まれてきたのでしょう」
青紫に言葉に、一縷の目は大きく見開かれる。
「青紫……」
一縷の目に、光るものがある。快晴の空を見上げた一縷は、ある決心をした。
