目の前にある光景に、薊は訝しげに首を傾げていた。おぼんに湯呑みを乗せた優子が、青紫が座るデスクの前に立つ。
「青紫さん、お茶です」
「ありがとございます。ちょうど休憩がしたいなと思っていたところです。さすがは優子さん」
そう言い、優子ににっこり微笑む青紫。微笑み返した優子は、青紫が座るデスクの上に湯呑みを置く。
「今日は、紅葉さんからいただいた緑茶を淹れました。秋の和栗を彷彿させる、優しくまろやかな味わいですよ」
青紫は緑茶を一口飲むと、頬を緩ませる。
「うん、美味しいですね。今度、紅葉さんにお礼の品を送らなくてはなりませんね」
青紫がそう言うと、優子はパッと華やかな笑みを見せる。
「青紫さんなら、そう言ってくださると思っていました。午後から、多江さんと帝都にお買い物に行くのですが、その時、紅葉さんへのお礼の品を買ってもいいでしょうか?」
「もちろんです。優子さんはセンスがいいでしょうし任せても?」
「はい!」
笑みを浮かべて見つめ合う二人。そんな二人に、薊は引いてた。
「なんだお前ら、いつにも増してキモチわりーな。それに、いつの間に下の名前で呼び合う仲になったんだ」
優子はくるりと反対に体の向きを変えると、大きな態度でソファに座る薊を睨む。
「失礼な人ですね、気持ち悪いなんて。大体、あなたはここに入り浸りすぎです。先週だって、来たばかりではありませんか」
「友人の家に来て茶を飲んで何が悪いんだ」
「お茶ならここでなくとも飲めるではありませんか」
「分かってねぇーな。ただの茶ほど美味いものはねーんだよ」
そう言って、ニヤリとした笑みを優子に向け、湯呑みに口をつける薊。
(まったくもう……)
優子は呆れて言い返す言葉もない。
「では、私はお買い物に行く準備をしてきます」
「ええ、気をつけて」
書斎を出る優子。それを横目で見送ると、薊はスラックスのポケットから一枚の封筒を取り出した。
「そういえば、これが届いてたぜ」
指先で挟んで青紫にひらひらと掲げ見せる薊。真ん中には、黒刻印が押されていて、すでに開封済みになっている。青紫は封筒を一瞥すると、すぐに手元の書類に視線を戻した。
「お前にも届いてんだろ? 美月のバースデーパーティーの招待状」
「ええ、きてましたよ。すでに返事は出しています。不参加と」
薊はやれやれと言った様子でソファから立ち上がると、デスクの前に立つ。
「おい、正気か? 弟の誕生日だろ? 行ってやれよ」
「私が言っても、あの子は喜ばないでしょう」
「そんなことねぇーだろ。お前たち、仲良かっただろ? 青紫兄さんって呼ばれて、懐かれてただろ」
「子供の頃の話です。もう随分と家にも帰っていませんし、あの子も私のことなど忘れているでしょう」
「んなわけねぇーだろ」
動かしていた片手を止めると、青紫は小さく息をつく。
「……薊。私があの家からよく思われていないことは、あなたも知っているはずです」
「それは……分かってっけどよ……」
薊はバツが悪そうに俯く。
「私が行ったところで、せっかくのパーティーを台無しにするだけです。大切な弟の誕生日。だからこそ、そんなことはしたくない」
そう言うと、青紫は椅子から立ち上がる。
「この話はもう終わりにしましょう。私はこれから仕事がありますから、あなたも帰りなさい」
青紫は羽織を着ると、書斎から出ていく。一人書斎に残った薊は、パーティーの招待状を見つめると封筒を開け、中の紙を取り出す。
「……カッコつけやがって」
薊はデスクの上に叩きつけるように紙を置くと、近くにあったペンを乱暴に取り、出席の欄に丸をつけ、封筒の中に紙を戻す。そしてデスクにペンを投げ捨てると、荒々しい足取りで、書斎を出て行った。
「青紫さん、お茶です」
「ありがとございます。ちょうど休憩がしたいなと思っていたところです。さすがは優子さん」
そう言い、優子ににっこり微笑む青紫。微笑み返した優子は、青紫が座るデスクの上に湯呑みを置く。
「今日は、紅葉さんからいただいた緑茶を淹れました。秋の和栗を彷彿させる、優しくまろやかな味わいですよ」
青紫は緑茶を一口飲むと、頬を緩ませる。
「うん、美味しいですね。今度、紅葉さんにお礼の品を送らなくてはなりませんね」
青紫がそう言うと、優子はパッと華やかな笑みを見せる。
「青紫さんなら、そう言ってくださると思っていました。午後から、多江さんと帝都にお買い物に行くのですが、その時、紅葉さんへのお礼の品を買ってもいいでしょうか?」
「もちろんです。優子さんはセンスがいいでしょうし任せても?」
「はい!」
笑みを浮かべて見つめ合う二人。そんな二人に、薊は引いてた。
「なんだお前ら、いつにも増してキモチわりーな。それに、いつの間に下の名前で呼び合う仲になったんだ」
優子はくるりと反対に体の向きを変えると、大きな態度でソファに座る薊を睨む。
「失礼な人ですね、気持ち悪いなんて。大体、あなたはここに入り浸りすぎです。先週だって、来たばかりではありませんか」
「友人の家に来て茶を飲んで何が悪いんだ」
「お茶ならここでなくとも飲めるではありませんか」
「分かってねぇーな。ただの茶ほど美味いものはねーんだよ」
そう言って、ニヤリとした笑みを優子に向け、湯呑みに口をつける薊。
(まったくもう……)
優子は呆れて言い返す言葉もない。
「では、私はお買い物に行く準備をしてきます」
「ええ、気をつけて」
書斎を出る優子。それを横目で見送ると、薊はスラックスのポケットから一枚の封筒を取り出した。
「そういえば、これが届いてたぜ」
指先で挟んで青紫にひらひらと掲げ見せる薊。真ん中には、黒刻印が押されていて、すでに開封済みになっている。青紫は封筒を一瞥すると、すぐに手元の書類に視線を戻した。
「お前にも届いてんだろ? 美月のバースデーパーティーの招待状」
「ええ、きてましたよ。すでに返事は出しています。不参加と」
薊はやれやれと言った様子でソファから立ち上がると、デスクの前に立つ。
「おい、正気か? 弟の誕生日だろ? 行ってやれよ」
「私が言っても、あの子は喜ばないでしょう」
「そんなことねぇーだろ。お前たち、仲良かっただろ? 青紫兄さんって呼ばれて、懐かれてただろ」
「子供の頃の話です。もう随分と家にも帰っていませんし、あの子も私のことなど忘れているでしょう」
「んなわけねぇーだろ」
動かしていた片手を止めると、青紫は小さく息をつく。
「……薊。私があの家からよく思われていないことは、あなたも知っているはずです」
「それは……分かってっけどよ……」
薊はバツが悪そうに俯く。
「私が行ったところで、せっかくのパーティーを台無しにするだけです。大切な弟の誕生日。だからこそ、そんなことはしたくない」
そう言うと、青紫は椅子から立ち上がる。
「この話はもう終わりにしましょう。私はこれから仕事がありますから、あなたも帰りなさい」
青紫は羽織を着ると、書斎から出ていく。一人書斎に残った薊は、パーティーの招待状を見つめると封筒を開け、中の紙を取り出す。
「……カッコつけやがって」
薊はデスクの上に叩きつけるように紙を置くと、近くにあったペンを乱暴に取り、出席の欄に丸をつけ、封筒の中に紙を戻す。そしてデスクにペンを投げ捨てると、荒々しい足取りで、書斎を出て行った。
