人形令嬢と半妖のあやかし祓い屋

季節は秋に移り変わり、森には紅葉が広がっていた。木々には柿が実り、トンボが空を飛んでいた。
見せたいものがあると言われ、優子はヨモギと共に、森を訪れていた。
「本当にこの先なのよね?」
「ああ、もう少し行った先だ」
優子の肩の上に乗ったヨモギは、なんだか張り切っている。
「ここだ。下ろしてくれ」
優子がその場にしゃがみ込むと、ヨモギは近くにあった石に飛び乗り、地面に降りると、茂みをかき分ける。優子はしゃがみ込んだまま、後ろからヨモギの様子を見守った。
「ほら見ろ!」
茂みからひょっこりと顔を出したヨモギは、茂みの中を指差し言う。優子が茂みの中を覗くと、そこには艶のある栗や、熟した木の実がどっさりあった。
「わぁ……! これ全部、ヨモギが集めたの?」
感動した様子の優子に、ヨモギは両腕を腰にあて、誇らしげにする。
「そうだ。全ておいらが一人で集めたんだ」
「すごいわヨモギ!」
優子に褒められ、ヨモギは照れくさそうにする。
「優子が植えてくれた屋敷の木の実も美味いけど、あいつに会うのは癪だからな」
あいつとは、屈託のない笑みを浮かべ、ヨモギを見下ろす青紫のことだ。二人は犬猿の仲、と言うところだろうか。主に、ヨモギが青紫を敵視している。友人である優子の夫、というところが特に気に食わないらしい。
「ふふふっ」
そんなヨモギに、優子は楽しそうに笑う。
ヨモギは今、この森を棲み家として暮らしている。時間があると優子を屋敷まで呼びに来て、こうして森で一緒に過ごしている。
「優子になら、あげてもいいぞ」
「え、いいの?」
「もちろんだ。おいらと優子の友情の証だ。好きなものをやる!」
「ありがとう。じゃあ、一ついただくわね」
「おう!」
(どれがいいかしら)
うーんと頭を悩ませる優子。
「じゃあ、この栗にするわ」
そう言い、優子が栗に手を伸ばした、その時だった。
突然、強い風が吹き、栗や木の実が吹き飛ばされる。
「あっ……! おいらの栗と木の実が……!!」
そう言った次には、ヨモギは宙に浮いた。
「うわぁぁぁぁ……!!」
「ヨモギ!」
飛ばされそうになったヨモギを、優子が両手で包み込むようにキャッチし、そのまま地面に伏せる。
しばらく地面に伏せていると風は止み、優子は安堵のため息をついた。
「ヨモギ、平気?」
両手を広げると、優子の手の中に隠れていたヨモギは、丸めていた体を戻す。
「平気だ。優子は大丈夫か?」
「ええ……それにしても、いきなりすごい風だったわね」
こんな急に風が吹くなんて、不自然だ。誰かが意図的に起こした__そう考えてしまう。
「あら? 優子さん……?」
振り向くと、そこには紅葉の姿があった。
「紅葉さん……」
「奇遇ね、こんなところで会うなんて」
紅葉は小道を抜け、優子の元へやって来る。
「__紅葉」
曇ったような声が聞こえたかと思うと、茂みから白い着物を着た男が現れた。
「奴らは消えた、もうここにはいない」
「そう……一度引き上げるしかないわね」
(あれは……翼、よね……?)
男の背には、白い翼があった。
(ということは、妖怪。あの強い風は、この妖怪の仕業)
だが、姿形はどう見ても人間だ。
あの妖怪も、人間に化けることができる妖怪なのか。
「あいつら知り合いか?」
肩に登ってきたヨモギが、耳元で聞いてくる。
「ええ……祓い屋の漆原紅葉さんよ」
ウサギは苦い顔をする。
「うげっ! 祓い屋かよ……どうりで嫌な感じがしたわけだ。こんな奴らと関わってないで、早く行こう」
「……そうね」
面倒なことになる前に、早くここを去ろう。立ち上がり、その場を後にしようとする優子だが。
「優子さん」
紅葉に声をかけられてしまい、思わず足を止める。
「無視だ、行くぞ」
そう小さく呟くヨモギに、優子は小さく頷き歩き出すが。
「うぎゃあああ……!!」
ヨモギの悲鳴が聞こえたかと思うと、いつの間にか、ヨモギが白い翼の妖怪に指で摘み上げられている。
(いつの間に……!)
「優子〜!」
ヨモギは今にでも泣き出しそうな顔をしながら、優子に助けを乞う。
「ヨモギを離して! 嫌がっているわ」
「主人を無視するからだ」
白い翼の妖怪は、泣き叫ぶヨモギを一瞥することもなく、淡々とした態度で言う。優子がヨモギを掴もうとすると、白い翼の妖怪はするりとそれをかわす。食い下がらず、優子は何度もヨモギを掴もうとするが、相手にならない。
「風早、よしなさい」
紅葉がそう言うと、風早と呼ばれた妖怪は、言われた通りにヨモギをパッと離す。ヨモギは盛大に地面に尻餅をついた。
「ヨモギ……!」
ヨモギに駆け寄り、地面にしゃがみ込む優子。ヨモギはお尻を摩り痛がっている。
「何もこんな乱暴にすることないでしょう」
「最初から止まっていればよかったんだ」
「なんですって?」
風早を睨む優子。そんな優子を、風早は冷めた目で見下ろす。
(なんて冷淡な妖怪なの)
優子は負けじと風早を睨み続ける。
「もうやめなさい。すぐ人に突っかかるのは、おまえの悪いところよ」
紅葉がそう言うと、風早はプイッと優子から顔を背ける。
「ごめんなさいね、優子さん。風早は私のためとなったら、手段を選ばないところがあって」
「……野蛮ですね」
優子の言葉に、紅葉は納得したように笑う。そっぽを向く風早。紅葉以外のことはどうでもいいのか、すでにこちらには興味を失っている様子だ。
「ねぇ、よかったら、お茶でもどうかしら?」
気兼ねなくそう言う紅葉だったが、優子はそんな気にはなれない。
「すいません、今日はちょっと」
「私のことを好いていないのは分かるわ。何せ、私はあなたの夫の婚約者だったのだから」
硬い優子の表情を見て、紅葉はクスリと笑う。
「でも、話をすれば、そうでもなくなるはずよ」
「そうでしょうか」
「ええ」
引く気はないという感じだ。断りたいが、祓い屋をする青紫のために、誘いは受けた方がいいのかもしれない。
(……仕方がないわ)
優子は小さくため息をついた。
「夕飯の支度があるので、少しだけなら」
優子がそう言うと、紅葉はにっこりと笑う。
「よかった。じゃあ行きましょう」
歩き始める紅葉、そのすぐ後ろを風早が歩く。優子はヨモギを肩に乗せると、後に続いた。