日が暮れる前に、妖怪を呼び出し祓う。広々とした庭園で、陣を書く青紫。優子は邪魔になりそうな小石や木の葉を拾い端に寄せていた。
そこに車が到着し、運転席から庵が降りてくる。
「若、言われた通りのものを持ってきました」
庵は手に持っていた風呂敷を青紫に渡す。
「ご苦労様です」
青紫は風呂敷から小さな花瓶のようなものを取り出した。
「それは?」
「妖怪を封印する壺です」
「封印? 祓うのでは?」
「一度で祓うことができればいいですが、姿が見えない妖怪が相手だと、まずは壺に入れて、妖力を弱らせる。そして祓う方が確実かと。その際に、優子さんの目眩しの札を使います」
青紫は風呂敷から五つの石板を取り出した。手に乗るくらいの小さな石板には、妖怪の妖力を吸い取るために、あらかじめ術が仕込まれていると言う。
「この石板を星形になるように、陣の上に置いてください」
「分かりました」
青紫に差し出された石板を受け取り、優子は言われた通り、陣の上に星形になるよう石板を置く。隣から片手が伸びてきたかと思うと、庵が優子の手にある石板を掴み取る。どうやら、石版を置くのを手伝ってくれるようだ。
「ありがとう。助かるわ」
笑みを浮かべる優子に、庵は仏頂面だ。
「別に……。若のためだから」
相変わらず素っ気ない態度の庵、だが、嫌な気など全くしない。むしろ、そんなところが愛おしく感じてしまう。
「ふふっ」
思わず笑みがこぼれてしまう優子。口元に手を当て、控えめに笑うが、そんな優子に庵は気に食わなさそうに眉を吊り上げた。
「何笑ってるんだよ」
「庵くんって、青紫さんのこと、大好きなんだなって思って」
優子の言葉に、庵は恥ずかしそうに頬を赤く染めた。
「……勝手に言ってれば」
図星をついた優子に庵は怒ったのか、石板を持ち、足早に優子から離れっていった。その姿に、また愛おしさが増す。
「優子さん」
石板を置き終わったところで、青紫に呼ばれ振り向く。陣はすでに書き終えられている。
「札の準備は?」
優子は懐から札を取り出し見せる。
「ここに」
「妖怪の姿が見えたら、躊躇することなく、その札を妖怪の額に貼ってください。いいですね?」
「はい」
壺を片手に持ち、陣の中心に青紫が立ち、そのすぐ後ろには優子が立つ。庵はいつでも対応できるように、二人のすぐ近くの低木に身を潜め、待機している。
「誠一郎さん、私が合図したら、護符を剥がしてください」
「分りました」
誠一郎は玄関扉の前に立つ。各々が持ち場についたことを確認すると、片手を胸の前に構えた青紫が、呪文を唱え始める。呪文と共に、屋敷の窓ガラスが、風が吹いているかのように、ドタバタと音を立て出す。音は徐々に大きくなり、花々と木々が不規則に揺れ出す。
(近い……来る__!!)
「今です! 剥がして!!」
青紫の合図で、誠一郎が玄関の護符が一気に剥がす。すると、何か大きな物体が移動したかのように、強い風が、優子と青紫の前に吹く。
「強まりなかれ強まりなかれ……」
青紫の呪文と共に、陣が青く光だす。星型に置かれていた石板はカタカタと音を出し揺れ始め、妖怪がこの陣の中にいるのを感知し、その妖力を吸い取ろうとしているようだ。
「__汝、姿を現したまえ」
稲妻のように青い光が陣の中に落ちたかと思うと、目の前に、恰幅の良い妖怪が姿を現した。
恰幅の良い妖怪を見上げた青紫は、「フッ」と口の端を上げる。
「……あなたでしたか。__彷玉」
(これが、あの妖怪の姿……!)
丸い体に、顔の中心にある目は一つで、大きくぎょろっとしている。両手は小さいのに、両足は異様に大きい。なんともアンバランスな妖怪だ。
「優子さん……!」
「はっ、はい……!」
一発でやらなければ、余計な苦しみを与えてしまう。優子は勢いよく手に持っていた札を彷玉の額に貼る。
「グアッ……!!!」
目眩しの光で、彷玉は悲鳴を上げる。青紫は壺を彷玉の前に差し出し、呪文を唱える。
「さあ、この壺に入りなさい」
吸い込まれるように壺に入る彷玉。成功か__と思ったが、勢いよく壺が割れる。怒った彷玉が暴れ出し、青紫に襲い掛かろうとする。
「青紫さん……!!」
叫んだ優子が両手で青紫を押し退け、陣の中から追い出す。青紫は尻もちをついて倒れ込んだ。
「優子……!!」
庵の危機迫った声に、優子が彷玉を見上げると、彷玉は優子目掛けて大きな片足を振り下ろそうとする。
__潰される。
優子は咄嗟に目を瞑った。だが、足が振り下ろされる気配はない。ゆっくりと目を開けると、霧のようなものが辺りを包み込み、視界が曖昧になっていた。
(っ……寒い)
寒さで体が身震いを起こす。これは霧ではなく、冷気……? 息を顰めていると、曖昧だった視界が徐々に開け、目の前に人が立っていることに気づく。
「えっ……誠一郎、さん……?」
優子の声に、誠一郎が顔だけ後ろに振り向かせる。両手を広げ、優子の前に立っている誠一郎。身を挺し、妖怪から優子を守っていたのだ。
「よかった。君が無事で……」
言いながら、誠一郎の体がふらふらと横に揺れる。
「誠一郎さん……!!」
そのまま後ろに倒れ込む誠一郎を、優子は両手を伸ばし受け止める。誠一郎は気を失っていた。
「ウッ……ウゴケナイ……」
彷玉は片足を上げたまま、動けなくなっていた。よくみると、彷玉の下半身は氷で覆われていたのだ。
(一体、何が起きて……)
消え去っていく冷気。視界が鮮明になり、青紫の姿が見える。
「青紫さん__っ!」
優子は驚いた。地面につけられた青紫の両手から、氷が放たれていたのだ。それは地面を通し、彷玉へと続いていた。青紫の体からは冷気が出ていて、肩で息をして辛そうだ。
「ハァ……ハァ……ハァッ」
立ち上がった青紫。その片手から、ピキピキと音を立て、氷の剣が造り出される。
「青紫、さん……?」
冷たい冷気が、優子の頬を掠める。
__これは、異能。
前に薊が言っていた。妖怪の血を引く青紫も異能を持っていると。おそらく、これが青紫の異能の力なのだ。
「これで終わりだ」
そう言い、黒い翼を羽ばたかせた青紫は上空に飛んだ。そして、彷玉を目掛け、一直線に氷の剣を振るう。
「グァァァァァァァ……!!!」
氷の剣は彷玉の頭上に刺さり、彷玉は悲鳴を上げると、眩い青い光に包まれ、祓われた。優子は唖然とし、その様を見ていることしかできなかった。
そこに車が到着し、運転席から庵が降りてくる。
「若、言われた通りのものを持ってきました」
庵は手に持っていた風呂敷を青紫に渡す。
「ご苦労様です」
青紫は風呂敷から小さな花瓶のようなものを取り出した。
「それは?」
「妖怪を封印する壺です」
「封印? 祓うのでは?」
「一度で祓うことができればいいですが、姿が見えない妖怪が相手だと、まずは壺に入れて、妖力を弱らせる。そして祓う方が確実かと。その際に、優子さんの目眩しの札を使います」
青紫は風呂敷から五つの石板を取り出した。手に乗るくらいの小さな石板には、妖怪の妖力を吸い取るために、あらかじめ術が仕込まれていると言う。
「この石板を星形になるように、陣の上に置いてください」
「分かりました」
青紫に差し出された石板を受け取り、優子は言われた通り、陣の上に星形になるよう石板を置く。隣から片手が伸びてきたかと思うと、庵が優子の手にある石板を掴み取る。どうやら、石版を置くのを手伝ってくれるようだ。
「ありがとう。助かるわ」
笑みを浮かべる優子に、庵は仏頂面だ。
「別に……。若のためだから」
相変わらず素っ気ない態度の庵、だが、嫌な気など全くしない。むしろ、そんなところが愛おしく感じてしまう。
「ふふっ」
思わず笑みがこぼれてしまう優子。口元に手を当て、控えめに笑うが、そんな優子に庵は気に食わなさそうに眉を吊り上げた。
「何笑ってるんだよ」
「庵くんって、青紫さんのこと、大好きなんだなって思って」
優子の言葉に、庵は恥ずかしそうに頬を赤く染めた。
「……勝手に言ってれば」
図星をついた優子に庵は怒ったのか、石板を持ち、足早に優子から離れっていった。その姿に、また愛おしさが増す。
「優子さん」
石板を置き終わったところで、青紫に呼ばれ振り向く。陣はすでに書き終えられている。
「札の準備は?」
優子は懐から札を取り出し見せる。
「ここに」
「妖怪の姿が見えたら、躊躇することなく、その札を妖怪の額に貼ってください。いいですね?」
「はい」
壺を片手に持ち、陣の中心に青紫が立ち、そのすぐ後ろには優子が立つ。庵はいつでも対応できるように、二人のすぐ近くの低木に身を潜め、待機している。
「誠一郎さん、私が合図したら、護符を剥がしてください」
「分りました」
誠一郎は玄関扉の前に立つ。各々が持ち場についたことを確認すると、片手を胸の前に構えた青紫が、呪文を唱え始める。呪文と共に、屋敷の窓ガラスが、風が吹いているかのように、ドタバタと音を立て出す。音は徐々に大きくなり、花々と木々が不規則に揺れ出す。
(近い……来る__!!)
「今です! 剥がして!!」
青紫の合図で、誠一郎が玄関の護符が一気に剥がす。すると、何か大きな物体が移動したかのように、強い風が、優子と青紫の前に吹く。
「強まりなかれ強まりなかれ……」
青紫の呪文と共に、陣が青く光だす。星型に置かれていた石板はカタカタと音を出し揺れ始め、妖怪がこの陣の中にいるのを感知し、その妖力を吸い取ろうとしているようだ。
「__汝、姿を現したまえ」
稲妻のように青い光が陣の中に落ちたかと思うと、目の前に、恰幅の良い妖怪が姿を現した。
恰幅の良い妖怪を見上げた青紫は、「フッ」と口の端を上げる。
「……あなたでしたか。__彷玉」
(これが、あの妖怪の姿……!)
丸い体に、顔の中心にある目は一つで、大きくぎょろっとしている。両手は小さいのに、両足は異様に大きい。なんともアンバランスな妖怪だ。
「優子さん……!」
「はっ、はい……!」
一発でやらなければ、余計な苦しみを与えてしまう。優子は勢いよく手に持っていた札を彷玉の額に貼る。
「グアッ……!!!」
目眩しの光で、彷玉は悲鳴を上げる。青紫は壺を彷玉の前に差し出し、呪文を唱える。
「さあ、この壺に入りなさい」
吸い込まれるように壺に入る彷玉。成功か__と思ったが、勢いよく壺が割れる。怒った彷玉が暴れ出し、青紫に襲い掛かろうとする。
「青紫さん……!!」
叫んだ優子が両手で青紫を押し退け、陣の中から追い出す。青紫は尻もちをついて倒れ込んだ。
「優子……!!」
庵の危機迫った声に、優子が彷玉を見上げると、彷玉は優子目掛けて大きな片足を振り下ろそうとする。
__潰される。
優子は咄嗟に目を瞑った。だが、足が振り下ろされる気配はない。ゆっくりと目を開けると、霧のようなものが辺りを包み込み、視界が曖昧になっていた。
(っ……寒い)
寒さで体が身震いを起こす。これは霧ではなく、冷気……? 息を顰めていると、曖昧だった視界が徐々に開け、目の前に人が立っていることに気づく。
「えっ……誠一郎、さん……?」
優子の声に、誠一郎が顔だけ後ろに振り向かせる。両手を広げ、優子の前に立っている誠一郎。身を挺し、妖怪から優子を守っていたのだ。
「よかった。君が無事で……」
言いながら、誠一郎の体がふらふらと横に揺れる。
「誠一郎さん……!!」
そのまま後ろに倒れ込む誠一郎を、優子は両手を伸ばし受け止める。誠一郎は気を失っていた。
「ウッ……ウゴケナイ……」
彷玉は片足を上げたまま、動けなくなっていた。よくみると、彷玉の下半身は氷で覆われていたのだ。
(一体、何が起きて……)
消え去っていく冷気。視界が鮮明になり、青紫の姿が見える。
「青紫さん__っ!」
優子は驚いた。地面につけられた青紫の両手から、氷が放たれていたのだ。それは地面を通し、彷玉へと続いていた。青紫の体からは冷気が出ていて、肩で息をして辛そうだ。
「ハァ……ハァ……ハァッ」
立ち上がった青紫。その片手から、ピキピキと音を立て、氷の剣が造り出される。
「青紫、さん……?」
冷たい冷気が、優子の頬を掠める。
__これは、異能。
前に薊が言っていた。妖怪の血を引く青紫も異能を持っていると。おそらく、これが青紫の異能の力なのだ。
「これで終わりだ」
そう言い、黒い翼を羽ばたかせた青紫は上空に飛んだ。そして、彷玉を目掛け、一直線に氷の剣を振るう。
「グァァァァァァァ……!!!」
氷の剣は彷玉の頭上に刺さり、彷玉は悲鳴を上げると、眩い青い光に包まれ、祓われた。優子は唖然とし、その様を見ていることしかできなかった。
