屋敷に戻ってからも、優子と青紫は口を聞かなかった。次の日の食事の席でも、口を聞かなかった。そんな二人に気を遣った多江が話題を振ってくれたが、場の雰囲気が和むことはなく、今日の朝食も終始静まり返っていた。多江には申し訳ないと思ったが、今は青紫とどんな風に接していいのか分からなかった。
気持ちが晴れない日々を過ごしていた、ある午後の日、裏庭の縁側に薊の姿があった。薊は上体を倒し、だらしなく伸びている。
「よお」
薊は何食わぬ顔で優子に声をかけてくる。
「今日も来てたんですか」
足を止め自分を見下ろす優子に、薊は「フッ」と笑みをこぼす。
「そのむくれっぷり、青紫とはまだ仲直りできていないみたいだな」
「ええ、夫婦生活は理想とは程遠く、波乱の幕開けです」
「ハハッ、そりゃそうだろうな。あいつと普通の生活を送れるわけがない」
「……それ、どういう意味ですか」
薊は少しの間を空けて優子を見上げると、その厳しい顔つきを見て、おかしそうに口の端を上げた。
「あいつは人にもなれず、妖怪にもなれない哀れな存在。どちらからも忌み嫌われる半妖は、異端な存在なんだよ。もっとも、その存在を生み出したあいつの両親こそ、異端者だがな。それを選んだあんたも変わりもんだ」
そう言い、蔑むように鼻で笑う薊。
(何よそれ……)
青紫の存在を否定する薊に、優子は腹の底から苛立ちを感じたが、そこでハッとした。
「……あんたも?」
優子の問いに、薊は思い出したかのように口を開く。
「あ、いや……あいつの母親も、人間の女だったなっと思って」
母親が人間……ということは。
「では、お父様が八咫烏……」
「ああ……お前も知っての通り、黒羽家は祓い屋の名門一族。そんな一族の跡取りだったのが、あいつの母親だ」
青紫の母親が、黒羽家の跡取り……。
「現頭首であるあいつの祖父は、青紫を後取り候補として見てくれているようだが、一族はあいつを認めていない」
「それは、黒羽さんが半妖だからですか」
「それもそうだが、理由は他にもある」
薊は上体を起こすと、あぐらをかき優子に向き合う。
「そもそも、人間と妖怪が恋愛関係になるのは禁忌とされている。妖怪である青紫の父親も、他の妖怪から非難されただろうが、母親は一族からの破門は免られなかった。
禁忌を犯した者の子供。青紫も同等の罪を背負う必要がある。それが一門の考えなのだと、薊は言った。人間と妖怪は相違る存在。結ばれることのなかった二人が恋に落ち、青紫が生まれた。
それは、決して許されないことだった。
「黒羽さんのご両親は、今どちらに」
「さあな。俺もそれは知らない。だが、もしかしたら……」
その先の続きを薊は言わなかった。それはきっと、青紫に対する薊なりの配慮なのだろう。
(嫌なところもあるけど、悪い人ではないのね)
部屋に戻ろうとして、優子は足を止め、薊に振り向く。
「一つだけ言っておきますが、青紫さんは異端な存在なんかじゃありません。彼は私の良き夫です」
冷酷にヒトツメ鬼を祓った青紫、それは紛れもない事実で、冷酷無慈悲な青紫は確かに存在する。だが、それだけが青紫の全てではない。
「ふーん……あんた、いい女だな」
「は?」
眉間に皺を寄せる優子に、薊は「フッ」っと笑うと、優子から顔を背け、また上体を倒しだらしなく伸びた。
気持ちが晴れない日々を過ごしていた、ある午後の日、裏庭の縁側に薊の姿があった。薊は上体を倒し、だらしなく伸びている。
「よお」
薊は何食わぬ顔で優子に声をかけてくる。
「今日も来てたんですか」
足を止め自分を見下ろす優子に、薊は「フッ」と笑みをこぼす。
「そのむくれっぷり、青紫とはまだ仲直りできていないみたいだな」
「ええ、夫婦生活は理想とは程遠く、波乱の幕開けです」
「ハハッ、そりゃそうだろうな。あいつと普通の生活を送れるわけがない」
「……それ、どういう意味ですか」
薊は少しの間を空けて優子を見上げると、その厳しい顔つきを見て、おかしそうに口の端を上げた。
「あいつは人にもなれず、妖怪にもなれない哀れな存在。どちらからも忌み嫌われる半妖は、異端な存在なんだよ。もっとも、その存在を生み出したあいつの両親こそ、異端者だがな。それを選んだあんたも変わりもんだ」
そう言い、蔑むように鼻で笑う薊。
(何よそれ……)
青紫の存在を否定する薊に、優子は腹の底から苛立ちを感じたが、そこでハッとした。
「……あんたも?」
優子の問いに、薊は思い出したかのように口を開く。
「あ、いや……あいつの母親も、人間の女だったなっと思って」
母親が人間……ということは。
「では、お父様が八咫烏……」
「ああ……お前も知っての通り、黒羽家は祓い屋の名門一族。そんな一族の跡取りだったのが、あいつの母親だ」
青紫の母親が、黒羽家の跡取り……。
「現頭首であるあいつの祖父は、青紫を後取り候補として見てくれているようだが、一族はあいつを認めていない」
「それは、黒羽さんが半妖だからですか」
「それもそうだが、理由は他にもある」
薊は上体を起こすと、あぐらをかき優子に向き合う。
「そもそも、人間と妖怪が恋愛関係になるのは禁忌とされている。妖怪である青紫の父親も、他の妖怪から非難されただろうが、母親は一族からの破門は免られなかった。
禁忌を犯した者の子供。青紫も同等の罪を背負う必要がある。それが一門の考えなのだと、薊は言った。人間と妖怪は相違る存在。結ばれることのなかった二人が恋に落ち、青紫が生まれた。
それは、決して許されないことだった。
「黒羽さんのご両親は、今どちらに」
「さあな。俺もそれは知らない。だが、もしかしたら……」
その先の続きを薊は言わなかった。それはきっと、青紫に対する薊なりの配慮なのだろう。
(嫌なところもあるけど、悪い人ではないのね)
部屋に戻ろうとして、優子は足を止め、薊に振り向く。
「一つだけ言っておきますが、青紫さんは異端な存在なんかじゃありません。彼は私の良き夫です」
冷酷にヒトツメ鬼を祓った青紫、それは紛れもない事実で、冷酷無慈悲な青紫は確かに存在する。だが、それだけが青紫の全てではない。
「ふーん……あんた、いい女だな」
「は?」
眉間に皺を寄せる優子に、薊は「フッ」っと笑うと、優子から顔を背け、また上体を倒しだらしなく伸びた。
