薊が帰ってからも、青紫の表情は重苦しかった。テーブルの上を片付けながら、優子はその横顔を見ていた。
結局、夜会に行くことを承諾する以外の選択肢はなく、半ば強引にだが、明日の夜会に参加することになった。
窓辺に立ち、視線を外に向けながら何かを考え込む青紫。夜会に行くのもそうだが、自分が一緒なのが嫌なのかもしれない。優子はそう思った。自分は青紫や薊のように妖怪を祓うことはできないし、夜会に参加しても足手纏いになるかもしれない。だが、夜会に行けば、自分が持つ力のことが、何か分かるかもしれない。青紫に迷惑をかけたくない気持ちと、自分のことを知りたい気持ち。そんな二つの気持ちが、優子の心の中で混同する。
「優子さん、本当にいいのですか」
いつの間にか、青紫がこちらを向いていた。
「え?」
「明日、一緒に夜会に来てもらうなんて」
そう言った青紫は、複雑そうな顔をしている。やはり自分が行くことに反対している。
「勝手なことはしないとお約束します」
優子の言葉に、青紫は訝し気にすると、少し慌てたように口を開く。
「いえ、そうではなく。あなたを無闇に祓い屋の世界に関わらせたくないのです。それに、またいつ妖怪に襲われるか」
(心配、してくれてる……?)
てっきり、自分が足手纏いになるのが嫌なのだとばかり思っていたが、そうではなかったらしい。
「私なら平気です。黒羽さんが一緒ですから」
妖怪に関わること、そこに不安がないわけではない。だが、青紫が一緒なら、きっと大丈夫。優子はそう思えていた。
「では、これを渡しておきます」
青紫が懐から出したのは、白い札のようなもの。
「これは?」
「私の血を混ぜて作った特別な札です。明日は祓い屋の夜会ですが、あなたの力に興味をもって、何か良からぬことを企む者もいるかもしれない。身を守るためにも、持っていてください」
優子が札を受け取ると、触れた手に反応するかのように、札に黒い文字が浮かび上がった。その連なった文字に、優子は顔を近づけ目を凝らしてみるも、何が書いてあるのかさっぱり分からない。
これも、祓い屋になれば分るのだろうか。
「えっ、待って下さい。今、血って言いました……?」
優子の問いに、青紫は柔らかな笑みを浮かべるだけで、何も答えない。焦った優子は青紫の両手を掴むと、手や腕に傷がないかを確認する。
「心配ありません。私は半妖ですから、傷の治りは人より早いです」
飄々とする青紫に、優子の不安は増す。
「でも、痛いことには変わりないでしょう……?」
守ってくれるとはいえ、自分自身を傷つけるようなことはしてほしくない。
青紫だからこそ、尚更。
「黒羽さんが、私を想ってくれるのは嬉しいです。とても、嬉しい……。でも、あなたが私を想ってくれるように、私もあなたを想っている」
優子は青紫の冷たい両手を手に取ると、自分の額に寄せる。
「もっとご自分を大切にしてください」
青紫が強く、賢いことは分かっている。
(それでも、私はこの人を守りたいと思う)
「……今日、ご夫妻にお会いました」
青紫の言葉に、優子の両手から僅かに力が抜ける。青紫は支えるように、優子の両手を強く握り返した。
「もうこれ以上、あなたが傷つくことはありません。私がそうさせない。これからさき、たとえどんなことが待ち受けようとも、私の一生をかけて、あなたを守ってみせる」
「黒羽さん……」
一生をかけて守り抜く。その言葉には、揺るぎない決意を感じた。
分かっている。青紫が自分にそう言ってくれるのは、契約を守ろうとしてくれているから。それでも、この言葉に、優子がどれほど救われ、嬉しかったことか。
青紫の優しく力強い笑みに、優子の目頭は熱くなる。涙でぼやけた視界の中、優子は複雑な心境を抱えながら、青紫を見つめた。
結局、夜会に行くことを承諾する以外の選択肢はなく、半ば強引にだが、明日の夜会に参加することになった。
窓辺に立ち、視線を外に向けながら何かを考え込む青紫。夜会に行くのもそうだが、自分が一緒なのが嫌なのかもしれない。優子はそう思った。自分は青紫や薊のように妖怪を祓うことはできないし、夜会に参加しても足手纏いになるかもしれない。だが、夜会に行けば、自分が持つ力のことが、何か分かるかもしれない。青紫に迷惑をかけたくない気持ちと、自分のことを知りたい気持ち。そんな二つの気持ちが、優子の心の中で混同する。
「優子さん、本当にいいのですか」
いつの間にか、青紫がこちらを向いていた。
「え?」
「明日、一緒に夜会に来てもらうなんて」
そう言った青紫は、複雑そうな顔をしている。やはり自分が行くことに反対している。
「勝手なことはしないとお約束します」
優子の言葉に、青紫は訝し気にすると、少し慌てたように口を開く。
「いえ、そうではなく。あなたを無闇に祓い屋の世界に関わらせたくないのです。それに、またいつ妖怪に襲われるか」
(心配、してくれてる……?)
てっきり、自分が足手纏いになるのが嫌なのだとばかり思っていたが、そうではなかったらしい。
「私なら平気です。黒羽さんが一緒ですから」
妖怪に関わること、そこに不安がないわけではない。だが、青紫が一緒なら、きっと大丈夫。優子はそう思えていた。
「では、これを渡しておきます」
青紫が懐から出したのは、白い札のようなもの。
「これは?」
「私の血を混ぜて作った特別な札です。明日は祓い屋の夜会ですが、あなたの力に興味をもって、何か良からぬことを企む者もいるかもしれない。身を守るためにも、持っていてください」
優子が札を受け取ると、触れた手に反応するかのように、札に黒い文字が浮かび上がった。その連なった文字に、優子は顔を近づけ目を凝らしてみるも、何が書いてあるのかさっぱり分からない。
これも、祓い屋になれば分るのだろうか。
「えっ、待って下さい。今、血って言いました……?」
優子の問いに、青紫は柔らかな笑みを浮かべるだけで、何も答えない。焦った優子は青紫の両手を掴むと、手や腕に傷がないかを確認する。
「心配ありません。私は半妖ですから、傷の治りは人より早いです」
飄々とする青紫に、優子の不安は増す。
「でも、痛いことには変わりないでしょう……?」
守ってくれるとはいえ、自分自身を傷つけるようなことはしてほしくない。
青紫だからこそ、尚更。
「黒羽さんが、私を想ってくれるのは嬉しいです。とても、嬉しい……。でも、あなたが私を想ってくれるように、私もあなたを想っている」
優子は青紫の冷たい両手を手に取ると、自分の額に寄せる。
「もっとご自分を大切にしてください」
青紫が強く、賢いことは分かっている。
(それでも、私はこの人を守りたいと思う)
「……今日、ご夫妻にお会いました」
青紫の言葉に、優子の両手から僅かに力が抜ける。青紫は支えるように、優子の両手を強く握り返した。
「もうこれ以上、あなたが傷つくことはありません。私がそうさせない。これからさき、たとえどんなことが待ち受けようとも、私の一生をかけて、あなたを守ってみせる」
「黒羽さん……」
一生をかけて守り抜く。その言葉には、揺るぎない決意を感じた。
分かっている。青紫が自分にそう言ってくれるのは、契約を守ろうとしてくれているから。それでも、この言葉に、優子がどれほど救われ、嬉しかったことか。
青紫の優しく力強い笑みに、優子の目頭は熱くなる。涙でぼやけた視界の中、優子は複雑な心境を抱えながら、青紫を見つめた。
