年末、佐伯君と初詣に行った。お揃いで買った御守りは大事に身に着けている。
共通テストは無事終わった。佐伯君は総合型選抜という形での入試で、この共通テストの点数で合格が決まる。一方、僕は一般入試で受けるために、ここからが本番だ。
郵便局で必要書類を出す時、思わずお賽銭を入れた時みたいに柏手を打ってお辞儀してしまったのを、郵便局員さんに笑われてしまった。でもついてきていた佐伯君も同じように拝んでいたので、どちらが笑われたのかは……たぶん、二人ともか。
思い立って帰り道に神社に寄った。ここは正しく柏手を打って神頼みをする。
「どうか、佐伯君が受かりますように」
「どうか、藤野が受かりますように」
びっくりして隣を見る。「え、自分のこと祈ろうよ」僕がそう言うと、佐伯君が「それは藤野もだろ」って言われて声を合わせて笑った。
二月初め、受験票が届いたので、学校へ行った。教室にはもうほとんど人がいなかった。あともう少しでこの学校ともお別れか、と思いながら校内を歩いていると、旧校舎の陰に三好君がいた。久しぶりに会えたから声をかけようと近づいたのだが、三好君はキスをしていた。
「え」
相手は女性ではない。
「あ」
クラスメイトで、三好君といつも一緒にいる三人のうちの一人、白石君だった。早くこの場から去らなきゃって思っているのに、足が動かない。それで、三好君と目が合った。
彼は驚いた顔をした後、ふっといつもの通りに笑った。
「よう、藤野」
三好君はいつも通りだけど、白石君は慌てているようだ。三好君は彼をぎゅっと抱きしめて、頬にキスした。彼はその衝撃でしゃがみこんでいる。一瞬でおとなしくなった。何だろう扱いに慣れている感じがする。
(友達……じゃない。友達……なの。友達同士でも……キスするの?)
三好君は白石君の手を引いて、こちらに来た。
「見られちゃったなあ。なんで見てるの?」
なんて、悪びれずに言う。
「ごめん、見ちゃった」
「藤野を責めるのはおかしい。学校なんだから」
白石君は三好君をたしなめている。が、握っている手が恋人つなぎだ。それを視線で感じ取った三好君はその握った手を僕に見せつけるように掲げてにっこりと笑う。
「佐伯にはカミングアウトしてたんだ」
え、佐伯君はこの二人の関係を知ってたの。いつからだろう、だってずっと、休み時間とか。家で勉強してる時だって何も言ってなかったし。すごく仲のいい友達だった。
男同士だよ? そんなの、今まで考えたこともなかった。
「世の中にはね。いろんな愛があるんだよ」
三好君は僕の思考を見透かすようにそう言った。
「あ、え」
僕は何も言えずに、二人を見つめた。すると、もう一人の森川君が手に飲み物を持って走ってくる。いつも一緒にいる三人組のもう一人。
三好君はにっこりと出迎えて、森川君にもちゅっとキスをした。破廉恥すぎて、血がカッと上った。
「おい、やめろ。藤野が真っ白になってる」
すかさず、白石君が三好君をたしなめた。彼は森川君が買ってきた飲み物から、いちご牛乳をとって、僕に押し付けた。
「もう帰れ」
僕は押し付けられるがまま受け取った。三好君は不思議な表情で僕を見ている。
「……おめでとう」
口を突いて出たのはそんな一言。三好君たちは自然で、白石君も、森川君も照れてるけど優しい顔をしている。愛ならそれはそれでいい……のかな。
「なんだよ、それ」
三好君が笑う。
気付いたら家の前で、机に向かったものの瞬きをしている間にもうお昼になっていた。
「藤野。チャイム鳴らしたんだけど?」
佐伯君が呆然としている僕の顔を覗き込む。眼前いっぱいに佐伯君の顔があった。
「ひゃあ」
情けない声が出て口を押える。唇に手が当たってどきりとした。その瞬間、またさっき見た光景がフラッシュバックして顔に血が上る。
え?佐伯君は知っていた?
『世の中にはね。いろんな愛があるんだよ』
三好君の声が……唇が重なったときのリップ音が……耳の奥に響いて目をぎゅっとと閉じた。
知らなかった世界が急に目の前に開いただけだ。森川君は、嬉しそうに笑ってたし、三好君はとてもやさしい顔をしていた。愛か……。
「え? まじでどうした? 藤野」
熱くなった頬に、佐伯君の冷えた手のひらが当たる。
「世の中にはね。いろんな愛があるらしいんだ」
僕はそう言うしかできなかった。
頬に当てられた佐伯君の手が強張っている。ああ、困った。
佐伯君が来たのは、総合選抜の合格発表を二人で確認しようということだった。
気を取り直して、ベッドに座った佐伯君の隣に座り、スマホ画面をのぞき込む。
スマホ画面には「合格」の文字。
「おめでとう」と言うと、「ありがとう」とハグが返ってきた。
ぎゅっと背中に回る手はいつもどおり力強くて、背中に手を回すと佐伯君って案外、厚みがあるんだよなって思う。いつも三好君たちを見て、こういう距離感はおかしくないって思ってたけど。あれ?
僕はきっと、四月までには「いろんな愛」について、ちゃんと知る必要がある。
共通テストは無事終わった。佐伯君は総合型選抜という形での入試で、この共通テストの点数で合格が決まる。一方、僕は一般入試で受けるために、ここからが本番だ。
郵便局で必要書類を出す時、思わずお賽銭を入れた時みたいに柏手を打ってお辞儀してしまったのを、郵便局員さんに笑われてしまった。でもついてきていた佐伯君も同じように拝んでいたので、どちらが笑われたのかは……たぶん、二人ともか。
思い立って帰り道に神社に寄った。ここは正しく柏手を打って神頼みをする。
「どうか、佐伯君が受かりますように」
「どうか、藤野が受かりますように」
びっくりして隣を見る。「え、自分のこと祈ろうよ」僕がそう言うと、佐伯君が「それは藤野もだろ」って言われて声を合わせて笑った。
二月初め、受験票が届いたので、学校へ行った。教室にはもうほとんど人がいなかった。あともう少しでこの学校ともお別れか、と思いながら校内を歩いていると、旧校舎の陰に三好君がいた。久しぶりに会えたから声をかけようと近づいたのだが、三好君はキスをしていた。
「え」
相手は女性ではない。
「あ」
クラスメイトで、三好君といつも一緒にいる三人のうちの一人、白石君だった。早くこの場から去らなきゃって思っているのに、足が動かない。それで、三好君と目が合った。
彼は驚いた顔をした後、ふっといつもの通りに笑った。
「よう、藤野」
三好君はいつも通りだけど、白石君は慌てているようだ。三好君は彼をぎゅっと抱きしめて、頬にキスした。彼はその衝撃でしゃがみこんでいる。一瞬でおとなしくなった。何だろう扱いに慣れている感じがする。
(友達……じゃない。友達……なの。友達同士でも……キスするの?)
三好君は白石君の手を引いて、こちらに来た。
「見られちゃったなあ。なんで見てるの?」
なんて、悪びれずに言う。
「ごめん、見ちゃった」
「藤野を責めるのはおかしい。学校なんだから」
白石君は三好君をたしなめている。が、握っている手が恋人つなぎだ。それを視線で感じ取った三好君はその握った手を僕に見せつけるように掲げてにっこりと笑う。
「佐伯にはカミングアウトしてたんだ」
え、佐伯君はこの二人の関係を知ってたの。いつからだろう、だってずっと、休み時間とか。家で勉強してる時だって何も言ってなかったし。すごく仲のいい友達だった。
男同士だよ? そんなの、今まで考えたこともなかった。
「世の中にはね。いろんな愛があるんだよ」
三好君は僕の思考を見透かすようにそう言った。
「あ、え」
僕は何も言えずに、二人を見つめた。すると、もう一人の森川君が手に飲み物を持って走ってくる。いつも一緒にいる三人組のもう一人。
三好君はにっこりと出迎えて、森川君にもちゅっとキスをした。破廉恥すぎて、血がカッと上った。
「おい、やめろ。藤野が真っ白になってる」
すかさず、白石君が三好君をたしなめた。彼は森川君が買ってきた飲み物から、いちご牛乳をとって、僕に押し付けた。
「もう帰れ」
僕は押し付けられるがまま受け取った。三好君は不思議な表情で僕を見ている。
「……おめでとう」
口を突いて出たのはそんな一言。三好君たちは自然で、白石君も、森川君も照れてるけど優しい顔をしている。愛ならそれはそれでいい……のかな。
「なんだよ、それ」
三好君が笑う。
気付いたら家の前で、机に向かったものの瞬きをしている間にもうお昼になっていた。
「藤野。チャイム鳴らしたんだけど?」
佐伯君が呆然としている僕の顔を覗き込む。眼前いっぱいに佐伯君の顔があった。
「ひゃあ」
情けない声が出て口を押える。唇に手が当たってどきりとした。その瞬間、またさっき見た光景がフラッシュバックして顔に血が上る。
え?佐伯君は知っていた?
『世の中にはね。いろんな愛があるんだよ』
三好君の声が……唇が重なったときのリップ音が……耳の奥に響いて目をぎゅっとと閉じた。
知らなかった世界が急に目の前に開いただけだ。森川君は、嬉しそうに笑ってたし、三好君はとてもやさしい顔をしていた。愛か……。
「え? まじでどうした? 藤野」
熱くなった頬に、佐伯君の冷えた手のひらが当たる。
「世の中にはね。いろんな愛があるらしいんだ」
僕はそう言うしかできなかった。
頬に当てられた佐伯君の手が強張っている。ああ、困った。
佐伯君が来たのは、総合選抜の合格発表を二人で確認しようということだった。
気を取り直して、ベッドに座った佐伯君の隣に座り、スマホ画面をのぞき込む。
スマホ画面には「合格」の文字。
「おめでとう」と言うと、「ありがとう」とハグが返ってきた。
ぎゅっと背中に回る手はいつもどおり力強くて、背中に手を回すと佐伯君って案外、厚みがあるんだよなって思う。いつも三好君たちを見て、こういう距離感はおかしくないって思ってたけど。あれ?
僕はきっと、四月までには「いろんな愛」について、ちゃんと知る必要がある。
