そして希望通り、僕は二年から理系のクラスになった。もちろん、佐伯君も希望通り文系のクラスだ。やっぱりクラスは離れてしまった。しかも、二組の佐伯君と六組の僕で学年のほぼ端と端に……。それだけじゃない。
新学年に入ってすぐ、佐伯君に彼女ができた。そう本人から報告された。
佐伯君の彼女は、短い髪が健康的な可愛い人だった。廊下で二人は親しげに話していた。僕がいた場所はもう違う誰かが埋めていた。
そんな風に思ってしまう僕は、二人でいる彼らに声をことができなかった。二人の邪魔をする理由がどこにもなかったからだ。それからは、遠慮するようになった。佐伯君からも話しかけてくることが少なくなった。物理的な距離は、僕らをあっけなく離した。
もう帰りも一緒にならなくなったし、勉強会も開かなくなった。そもそも、文系と理系だと時間割も違う。
おばあちゃんが、「最近、静かだね」って僕に言うけど。「そうだね」としか返せなかった。
二年生になって部活に後輩ができるのを、期待したけど、こっちも奮わなかった。部活勧誘で、メダカの発表したのがダメだったのかなと、あとからそんな反省をした。一人でいる理科準備室は本当に静かだ。
佐伯君のサッカー部はなんと、新入部員が五人も入ったみたいだ。しかも、マネージャーまでいる。
佐伯君は相変わらず、ボールを追いかけているときは犬みたいだ。
「元気だな」
僕は外が観察できる窓側に向かってノートを広げ、勉強するのが癖になっている。メダカも明るいほうに向かうから、ペットに似ちゃったんだ。飼い主はペットに似るっていうもんな。でもそんな風に勉強しているおかげか、佐伯君がいなくても、一学期の中間テストは一桁をキープできている。勉強ってわかるようになると楽しい。
ふとカバンからノートを出していると、先日配られたプリントが出てきた。
「修学旅行のお知らせ」と書いてあった。バスの移動などは、クラス単位だけど。自由行動はクラスの垣根を越えていいらしい。去年の僕なら迷わず、佐伯君を誘っていたけど。今はちょっと誘いづらいな。僕はそのプリントをカバンに押し込んだ。
部活終わりのチャイムが鳴って、いつも通り部室の扉を閉めて、下駄箱に向かった。すると、久しぶりに半径一メートル以内に佐伯君がいた。
「おう、久しぶり」
佐伯君はジャージのままだった。
「あ、佐伯君だ。久しぶり……」
でも次の言葉が続かなかった。
「じゃあね」
その横を通り過ぎようとすると、腕を引っ張られた。驚いて見上げる。だが何かを言うでもなく、じっと思いつめたように見てくる。何も言わないのなら離してほしい。困っていると、佐伯君の彼女が「お待たせ」と言って。佐伯君に声をかけた。
彼女は僕と佐伯君を交互に見ている。僕は思わず首を横に振った。佐伯君は手を放して、彼女の隣に歩いて行った。立ち止まっている僕の横を、二人が歩いていく。
すれ違いざま佐伯君が小さな声で囁いた。
「今日、連絡するから」
僕が振り返っても、見えたのは佐伯君の背中だけだった。
僕はどう感情を出していいかわからず、ドスドスと歩くことにした。ドスドス……でも、佐伯君たちを追い越したくなかったから、あわててのんびり歩く。でもさっきの佐伯君の言葉や、態度が甦ると、またドスドス歩いた。
『今日、連絡するから』を聞いたせいで、夕飯もお風呂も、勉強の時間もふわふわしてしまった。いつもならどこにあるか、わからなくても気にならないスマホを、脱衣所に持ち込んでまで待ってしまったのは、あの言葉があったからだ。そして、そのまま歯磨きをしてベッドに入って……いつもなら早く過ぎる時間が、ゆっくりだなと感じた頃。
やっとスマホが鳴った。
僕は深呼吸を三回して電話に出る。
「もしもし?」
「俺だけど……」
胸の奥がきゅうっと締め付けられる。僕、なんでこんなにドキドキしてるんだろう。
「あのさ、修学旅行……もう決まった?」
やっぱりその話題だった。僕はパジャマのズボンをぎゅっと握って、電話なのに首をぶんぶん振った。
「まだ」
「そ……っかー、じゃあ。一緒に回る?」
「え?いいの?」
「ああ」
素直にうれしくて、電話越しだから見えないのに僕はベッドに正座をしていた。
「よかったら、明日、部室で話そう」
僕がそう言うと、佐伯君は一拍おいて「うん」と答えた。
電話を切った後も、なぜかスマホを見つめてしまった。
どうして誘われたのかは聞けなかった。
だけど、事情は次の日あっさりとわかってしまった。
新学年に入ってすぐ、佐伯君に彼女ができた。そう本人から報告された。
佐伯君の彼女は、短い髪が健康的な可愛い人だった。廊下で二人は親しげに話していた。僕がいた場所はもう違う誰かが埋めていた。
そんな風に思ってしまう僕は、二人でいる彼らに声をことができなかった。二人の邪魔をする理由がどこにもなかったからだ。それからは、遠慮するようになった。佐伯君からも話しかけてくることが少なくなった。物理的な距離は、僕らをあっけなく離した。
もう帰りも一緒にならなくなったし、勉強会も開かなくなった。そもそも、文系と理系だと時間割も違う。
おばあちゃんが、「最近、静かだね」って僕に言うけど。「そうだね」としか返せなかった。
二年生になって部活に後輩ができるのを、期待したけど、こっちも奮わなかった。部活勧誘で、メダカの発表したのがダメだったのかなと、あとからそんな反省をした。一人でいる理科準備室は本当に静かだ。
佐伯君のサッカー部はなんと、新入部員が五人も入ったみたいだ。しかも、マネージャーまでいる。
佐伯君は相変わらず、ボールを追いかけているときは犬みたいだ。
「元気だな」
僕は外が観察できる窓側に向かってノートを広げ、勉強するのが癖になっている。メダカも明るいほうに向かうから、ペットに似ちゃったんだ。飼い主はペットに似るっていうもんな。でもそんな風に勉強しているおかげか、佐伯君がいなくても、一学期の中間テストは一桁をキープできている。勉強ってわかるようになると楽しい。
ふとカバンからノートを出していると、先日配られたプリントが出てきた。
「修学旅行のお知らせ」と書いてあった。バスの移動などは、クラス単位だけど。自由行動はクラスの垣根を越えていいらしい。去年の僕なら迷わず、佐伯君を誘っていたけど。今はちょっと誘いづらいな。僕はそのプリントをカバンに押し込んだ。
部活終わりのチャイムが鳴って、いつも通り部室の扉を閉めて、下駄箱に向かった。すると、久しぶりに半径一メートル以内に佐伯君がいた。
「おう、久しぶり」
佐伯君はジャージのままだった。
「あ、佐伯君だ。久しぶり……」
でも次の言葉が続かなかった。
「じゃあね」
その横を通り過ぎようとすると、腕を引っ張られた。驚いて見上げる。だが何かを言うでもなく、じっと思いつめたように見てくる。何も言わないのなら離してほしい。困っていると、佐伯君の彼女が「お待たせ」と言って。佐伯君に声をかけた。
彼女は僕と佐伯君を交互に見ている。僕は思わず首を横に振った。佐伯君は手を放して、彼女の隣に歩いて行った。立ち止まっている僕の横を、二人が歩いていく。
すれ違いざま佐伯君が小さな声で囁いた。
「今日、連絡するから」
僕が振り返っても、見えたのは佐伯君の背中だけだった。
僕はどう感情を出していいかわからず、ドスドスと歩くことにした。ドスドス……でも、佐伯君たちを追い越したくなかったから、あわててのんびり歩く。でもさっきの佐伯君の言葉や、態度が甦ると、またドスドス歩いた。
『今日、連絡するから』を聞いたせいで、夕飯もお風呂も、勉強の時間もふわふわしてしまった。いつもならどこにあるか、わからなくても気にならないスマホを、脱衣所に持ち込んでまで待ってしまったのは、あの言葉があったからだ。そして、そのまま歯磨きをしてベッドに入って……いつもなら早く過ぎる時間が、ゆっくりだなと感じた頃。
やっとスマホが鳴った。
僕は深呼吸を三回して電話に出る。
「もしもし?」
「俺だけど……」
胸の奥がきゅうっと締め付けられる。僕、なんでこんなにドキドキしてるんだろう。
「あのさ、修学旅行……もう決まった?」
やっぱりその話題だった。僕はパジャマのズボンをぎゅっと握って、電話なのに首をぶんぶん振った。
「まだ」
「そ……っかー、じゃあ。一緒に回る?」
「え?いいの?」
「ああ」
素直にうれしくて、電話越しだから見えないのに僕はベッドに正座をしていた。
「よかったら、明日、部室で話そう」
僕がそう言うと、佐伯君は一拍おいて「うん」と答えた。
電話を切った後も、なぜかスマホを見つめてしまった。
どうして誘われたのかは聞けなかった。
だけど、事情は次の日あっさりとわかってしまった。
