入学式から一週間。
僕は今日もラノベを開きつつ教室を見まわした。
先週まではよかった。入学直後のあわただしさで毎日何かしらすることがあって、僕はただそれに流されればよかったから。だが、今日から通常授業になる。なんとなく投げ出されて自由度の高い……チュートリアルの終わった日常が始まったなというように感じる。
クラスでは、それぞれ気の合いそうな人同士が集まって話をしていた。そういうのが、もう見えるようになってきた。
僕は……。
「おう、おはよう」
僕が静かに教室を考察していると、声をかけてきたのは隣の席の佐伯君だ。
「……おはよう」
僕が藤野知生で、彼は佐伯駿太郎。たまたま、席が隣同士になってよく声をかけられる。多分彼は陽キャだ。朝から笑顔がまぶしいし。僕に「おはよう」を言う前に、いろんな人から「おはよう」と言われているし。
佐伯君は席に座ると、僕のほうに体を向けた。今日の授業の話や、昨日見たテレビの話をしている。僕はそれに「ふむ」とか、「うん」とか、返事をしつつ持っていたラノベを閉じた。こうして僕が教室で浮かずにいられるのは、彼のおかげだ。
彼は僕の何が気に入ったのか。いつも話しかけてくれるし、昼ご飯も一緒に食べてくれる。多分、いいやつだ。
そうしていると、朝のホームルームが始まった。一時間目は、クラスの委員会や係決めだ。
「藤野は前は何委員だったの?」
「……僕は美化委員だった」
佐伯君は、体育委員!とか学級委員!とか、元気にやりそうだ。
「え?そんな委員会あるの?」
僕はうなずき、黒板を見た。どうやらこの学校にはないようだ。
「うん。美化委員は、学校の花を育てる委員会だよ。夏休みには水やりとかあって、割と大変だった。他のクラスがさぼると枯れちゃうから、気づいたら僕が水やりしてた」
佐伯君は驚いた顔をした後、にっこり笑った。
「花、好きなん?」
「うん。おばあちゃんが好きだから」
委員会決めは、皆が黒板に自分のやりたい委員会の下に名前を書いていく方式だった。書き込まなければ、委員会を引き受けなくていい。だから僕は、やらない方向で席に座ったままだ。
大方決まっていたが、学級委員のところだけ空白だ。
「誰か、学級委員長」
先生がクラスを見まわすが、誰も目を合わせようとしない。目立つ係は大変だもんな……と、僕はひっそりクラスを見た。僕よりも適任はまだたくさんいる。
静まり返った教室で、ふいに椅子がきしむ音がした。
「はい」
元気な声。佐伯君がまっすぐ手を上げていた。確かに、彼にはお似合いだ。順当に決まってほっとしようとしたのだが。
「俺、推薦いいですか」
予想外の発言だった。
「お、佐伯。誰だ?」
先生が言うより早く、嫌な予感が背筋を走る。
まさか。いや、でも――。
「藤野」
即答だった。
「へゃ」
思わず変な声が出た。
「どうだ? 藤野」
先生とクラスの視線が集まり、思考は停止した。眼鏡のブリッジを中指で上げ、うなずくしかなかった。
クラス中からまばらな拍手が起こる。断り方が分からない。
「じゃあ、俺が副委員長するよ」
隣で佐伯君が言うと、今度はさっきよりも大きな拍手が起こった。
「そうだな、二人になら任せられる」
先生はいい加減な信頼で僕と佐伯君に委員長を任せ、ほっとした表情を浮かべた。
佐伯君はにっこり笑って、親指を立てている。
――これ、おばあちゃんに何て報告しよう。
僕は今日もラノベを開きつつ教室を見まわした。
先週まではよかった。入学直後のあわただしさで毎日何かしらすることがあって、僕はただそれに流されればよかったから。だが、今日から通常授業になる。なんとなく投げ出されて自由度の高い……チュートリアルの終わった日常が始まったなというように感じる。
クラスでは、それぞれ気の合いそうな人同士が集まって話をしていた。そういうのが、もう見えるようになってきた。
僕は……。
「おう、おはよう」
僕が静かに教室を考察していると、声をかけてきたのは隣の席の佐伯君だ。
「……おはよう」
僕が藤野知生で、彼は佐伯駿太郎。たまたま、席が隣同士になってよく声をかけられる。多分彼は陽キャだ。朝から笑顔がまぶしいし。僕に「おはよう」を言う前に、いろんな人から「おはよう」と言われているし。
佐伯君は席に座ると、僕のほうに体を向けた。今日の授業の話や、昨日見たテレビの話をしている。僕はそれに「ふむ」とか、「うん」とか、返事をしつつ持っていたラノベを閉じた。こうして僕が教室で浮かずにいられるのは、彼のおかげだ。
彼は僕の何が気に入ったのか。いつも話しかけてくれるし、昼ご飯も一緒に食べてくれる。多分、いいやつだ。
そうしていると、朝のホームルームが始まった。一時間目は、クラスの委員会や係決めだ。
「藤野は前は何委員だったの?」
「……僕は美化委員だった」
佐伯君は、体育委員!とか学級委員!とか、元気にやりそうだ。
「え?そんな委員会あるの?」
僕はうなずき、黒板を見た。どうやらこの学校にはないようだ。
「うん。美化委員は、学校の花を育てる委員会だよ。夏休みには水やりとかあって、割と大変だった。他のクラスがさぼると枯れちゃうから、気づいたら僕が水やりしてた」
佐伯君は驚いた顔をした後、にっこり笑った。
「花、好きなん?」
「うん。おばあちゃんが好きだから」
委員会決めは、皆が黒板に自分のやりたい委員会の下に名前を書いていく方式だった。書き込まなければ、委員会を引き受けなくていい。だから僕は、やらない方向で席に座ったままだ。
大方決まっていたが、学級委員のところだけ空白だ。
「誰か、学級委員長」
先生がクラスを見まわすが、誰も目を合わせようとしない。目立つ係は大変だもんな……と、僕はひっそりクラスを見た。僕よりも適任はまだたくさんいる。
静まり返った教室で、ふいに椅子がきしむ音がした。
「はい」
元気な声。佐伯君がまっすぐ手を上げていた。確かに、彼にはお似合いだ。順当に決まってほっとしようとしたのだが。
「俺、推薦いいですか」
予想外の発言だった。
「お、佐伯。誰だ?」
先生が言うより早く、嫌な予感が背筋を走る。
まさか。いや、でも――。
「藤野」
即答だった。
「へゃ」
思わず変な声が出た。
「どうだ? 藤野」
先生とクラスの視線が集まり、思考は停止した。眼鏡のブリッジを中指で上げ、うなずくしかなかった。
クラス中からまばらな拍手が起こる。断り方が分からない。
「じゃあ、俺が副委員長するよ」
隣で佐伯君が言うと、今度はさっきよりも大きな拍手が起こった。
「そうだな、二人になら任せられる」
先生はいい加減な信頼で僕と佐伯君に委員長を任せ、ほっとした表情を浮かべた。
佐伯君はにっこり笑って、親指を立てている。
――これ、おばあちゃんに何て報告しよう。
