愛なんか、知らない。 ~1/12の孤独と、十年の旅~

 あなたが、本当に欲しいものは何?
 もし、誰かにそう聞かれたとしたら、私は迷わず、真っすぐに答える。
 今も昔も、欲しいものは、たった一つだけ。
 それは――。
 

「葵ちゃん、すごいね」
 私は、友達の言葉に照れ笑いで返した。
 クラスメイトはみんな、教室の後ろのランドセルロッカーに殺到していた。
 棚の上には、夏休みの自由研究が飾ってある。
 真ん中に飾ってあるのは、私の自由研究。発泡スチロールやボール紙で作った、小さな家だ。

 私たち家族は、それまで同居していたおばあちゃんの家から引っ越すことになった。
 小学1年のころから住んでいた、おばあちゃんの家。畳の部屋があったり、縁側があったり、お友達の家とは明らかに違う古い感じが、私には居心地よかった。
 大好きなおばあちゃんと一緒に暮らせなくなるのが寂しくて、記念に残すために、おばあちゃんの家を作ろうと思ったんだ。

 珍しく、お父さんがすごく乗り気になって、家をあらゆる角度から撮影して、設計図まで作ってくれた。
 床の間に掛け軸が飾ってあるような、昔ながらの日本の家。二人で手をボンドでベタベタにしながら家を組み立てて、アクリル絵の具で色を塗って……そうそう、屋根瓦をどうやって再現するかが難題だった。

 確か、三週間ぐらいかかったのかな。
 どんどん手を加えたくなって、庭の芝生や塀も作ることにした。お母さんは、「夏休みの宿題で、そこまでする必要ある?」って呆れてたっけ。
 縁側におばあちゃんに似せて作った紙粘土の人形を座らせて、遊びに来た近所のネコにエサをあげてる様子を再現した。

「すっげえ、ホンモノの家みてえ」
「二階にベランダもあるよ」
「洗濯物が干してあるのも、かわい~」

「想い出の家」と名前を付けて提出したその小さな家は、クラスのみんなから絶賛された。
 先生も目を丸くして、「すごくリアルにできてるわねえ。窓ガラスはガラスを入れてるの?」としげしげと見つめている。

「ううん、アクリル板です」
「へえ~。庭の水道とジョウロまで再現してるのね、芸細~」
「げいこま???」
「芸が細かいってこと。後藤さん、プロになれるんじゃない?」
「プロ?」
「こういう小さな家を作るプロって、いそうよね。後藤さん、向いてそう」

 先生の何気ない一言が、たぶん、私の歩むべき道を決めた。
 その小さな家は県のコンクールに出品されることになり、優秀賞に選ばれた。

 その小さな家を「ミニチュアハウス」と呼ぶことを知ったのは、もっとずっと後の話。
 それからの私の人生は、ミニチュアと共にあるんだ。