あの日、君は黄昏空の下で微笑んだ。



「だって、こんなのみんなやってることでしょ?」

 なにかを察している(はる)が彼女を一瞥したすぐ後に、わかりやすくびくりと肩を揺らして自身の言い分を訂正した。

「私は悪くない! 早くここから出して!」

 大柄な態度の椎菜に、優羽は理解が及ばない。

「他人を呪っておいてこの程度で済むとでも?」

 陽の淡々としたまったく熱のない言葉に、椎菜は唇を噛み締め眉を寄せた。暗い床の上に座り込み、項垂れている石井奈々とは違い、自身の過ちを認める気もないようだ。それどころか、顔を歪めて怒りの眼差しをこちらに向け、身体の横で拳を握りしめて震えだす始末。

「どうして……どうしてどうしてどうして! 私がこんな目に遭わなきゃならないの!!」
「当然の報いというやつだ。自分の胸に手を当てて訊いてみるといい」

 そもそも彼女の強い思い込みと勘違いからはじまったことで、それに対して"思い通りにならないなら"と素人が禁呪に手を出したこと自体、行き過ぎである。誰かの心を自分の思い通りになどできないと、知っていたはずだ。

 それでも。自分は正しい、間違っていないなどと本気で思っているのだろうか。結果、優羽は怪我をしたし、オカルト部だけでなく科学部も巻き込まれた。優羽や直たちは百歩譲って関わりがあるとしても、たまたまそこにいただけの、この件と関係のない先輩たちにも同じことが言えるのだろうか。

「きっかけをつくったのは確かに私だけど。でもだからなに? 奈々ちゃんだっておんなじことやってたんでしょ? 私ばっかり責めないでよ!」

 きっかけは石井奈々ではない?

 つまり、意図的にあの状況を佐々木椎菜の方がつくりあげたということ? なんのために? あのまま自分たちが動かなかったら······いや、動くとわかっていて、あえて?

 自分が悲劇のヒロインになって、みんなから注目を浴びるために?

 なんとなく答えが見えた気がしたが、話を聞いていても彼女が反省しているとは思えず、なんなら開き直っているようにさえ見えた。

「······応報。善いことをすれば善いことが。悪いことをすれば悪いことが返ってくる。つまりは、そういうことだ」
「そんな……嘘でしょ? どうして……? いつも私ばっかり。ひどいよ……」
「それは違うでしょ? 石井さんは佐々木さんと違って、ちゃんと自分のしたことを後悔してるように見えるよ。佐々木さんは誰かのせいにしたいんだろうけど、それはただの責任転嫁ってやつじゃん」

 優羽の言葉に俯いて黙りこんだのも束の間、震える声で絞り出すように吐き出した言葉。まるで自分が被害者かのような。

「私は悪くない」

 ぽつり。
 ぽつり、と零れる本音。
 もう、とっくに狂っていたのかもしれない。
 
「そもそも三枝くんが私を見てくれないから悪いのよ。私がこんなに想ってるのに、遠くからずっと見ていたのに、気付いてさえくれないから」

 どうあっても、自分はなにも悪くないと。
 そうだと認めたくないのだろう。

「奈々ちゃんも、私より下のくせになにもわかってないんだもの。あんなことしなければ、こうはならなかったのに。ホント、馬鹿だよね」

 佐々木椎菜の足もとが歪む。
 影が大きく膨らんで。

「もう、いいよ。あんたも、奈々ちゃんも、三枝くんも。私以外全員、消えて!」

 その瞬間、ゆらりと煙のように現れた大きな影が背後で口を広げたのも束の間、頭の天辺から爪先まで、そこに立っていた者をぱくりと丸呑みした。