午前十二時三十分。
音楽室。
十五分前くらいに部活が終わり、各々後片付けをしていたわけだが、佐々木椎菜は最後のひとりになってしまった。十二時三十分から他のクラブが使用するので、それまでには出るようにと先生に言われていたのだが……。
(三枝くん、まだいるかな? 遠くからちょっと覗くくらいならいいよね?)
扉に手をかけようとしたその時、椎菜は思わず声を上げた。
「あ、」
「え、」
自動で勢いよく開いた扉の先。相手側からしたら、誰もいないと思って勢いよく入った場所に誰かがいたら、当然驚くに決まっている。お互いに前にも後ろにも進めなくなり、ぴたりと数秒動けなくなった後、男子生徒の方から声をかけてきた。
「ごめん、大丈夫⁉︎ って、あれ? 佐々木さん?」
「えっと、相澤くん?」
扉の先にいたのは相澤直だった。予想もしなかった人物の登場に椎菜は目を丸くし、それから首を傾げた。なぜ彼が音楽室にいるのか。吹奏楽部に知り合いでもいるのだろうか? それとも誰かと待ち合わせでもしている?
「佐々木さんも見学するの? オカルト部と科学部のやつ」
ドキッと椎菜は心臓が一瞬飛び出そうになった。確かにこっそり遠くから見てみようかなぁと思っていたわけだが、面と向かってそう言われるとものすごく恥ずかしい気持ちになる。
動揺してなにを言えばいいかわからなくなってしまった椎菜を気遣ってか、直は「あれ? 聞いてないの?」と訊ねてきた。
「俺もついさっき真白から誘われたんだけど。これから音楽室で七不思議の検証をするんだってさ。面白そうだから俺も見学しようと思って」
「そ、そう、なんだ……」
他のクラブが使うというあれは、オカルト部と科学部のことだった。椎菜はそうと知っていてわざとゆっくり片付けをしていたのだ。もしかしたら、好きなひとに会えるかもしれない。そう思ったから。
しかし七不思議なんてはじめて聞いた気がする。この学校にもあるんだ……と椎菜はぼんやりとそんなことを考えていた。ここでやるということは、音楽室の七不思議ということだろうか?
「あ、いたいた〜。直くん、おつかれ〜……って、佐々木さん?」
気付けば、ぞろぞろと扉の奥に生徒たちが集まってきていた。先頭にいるのは久保田先生で、その後ろから顔を覗かせた鳥海真白が先に着いていた直を見つけて声をかけたが、そこに椎菜の姿も見つけてあからさまに声色が変わる。
「そういえば、吹奏楽部だっけ? 他の人たちはもう帰ったみたいだけど、」
直の後ろに移動し、怪訝そうに真白はこちらを見据えている。警戒しているのだろうか? もしかして待ち伏せしていたとでも思われている?
椎菜は慌てて「片付けが終わらなくて」と残っていた理由を話すが、ふーんとこちらを観察してくる真白。自分とあまり変わらないか少し小さいくらい。背も周りに比べて低く、童顔で可愛らしい顔の真白だが、あの一件があってから椎菜に対しての態度がなんだか冷たい気がした。
(あの時は相澤くんたちと一緒に私を助けてくれたのに……ただ話を合わせてくれただけだったのかな?)
助けてくれた、だなんて。
椎菜は自分で言って自分で恥ずかしくなった。自分ごときが彼らに助けてもらったことが奇跡すぎて、夢みたいで、まるで恋愛小説のヒロインにでもなったつもりでいたのかもしれない。
「なんだ? 見学したいなら別にいいぞ〜」
久保田は入り口で立ち止まっている直の頭に手を置いて、固まったままの椎菜に対してそう提案してくれた。椎菜は真白の後ろに優羽の姿を見つけ、思わず息が止まりそうになったのも束の間、気付いたらこくりと頷いていた。


