あの日、君は黄昏空の下で微笑んだ。



 午前十一時五十分。
 調理室。

 理科室から移動し、オカルト部と科学部は調理室で少しだけ早いランチタイムとなった。本日のスケジュールはほぼしおりに書かれた時間通りで、ランチタイムの後は三つ目の七不思議が待っている。

 各々好きな席に座り、持ってきたお弁当を長い机の上に広げ始める中、朔夜たち四人に加え、科学部の一年生であり優羽(ゆう)の友だちであるふたりが合流したことで、オカルト部側の人数が逆転していた。科学部は二年生が三人と三年生がひとりで、元々仲が良いらしく和気藹々としている。

「先輩たちはいつもの思い出話で盛り上がってるから、こっちはこっちで楽しも〜」
「お邪魔します」

 拓海(たくみ)は先に座った真白(ましろ)の右横に並んで座ると、みのりに頭を下げた。全然いいよ! とみのりは笑顔で迎える。これを機にオカルト部に引き抜こうとでも思っているのかもしれない。朔夜は愛想笑いを浮かべつつ、ふとすぐ左隣にいる(はる)とそのさらに横にいる優羽の方に視線を向けた。

「優羽、平気か? 体調悪かったらちゃんと言うんだぞ?」
「朔くんは大丈夫? もっと離れた方がいいんじゃない? 俺は日上センパイが近くにいれば大丈夫だし。無理して近くにいなくてもいいよ」

 朔夜は表面上は笑顔を作ったまま、心の中で「うわぁ……めちゃくちゃ不貞腐れてる〜」と思わず呟く。人のことは言えないが、仮面が張り付いたみたいな笑みを浮かべて、優羽が不自然なほど優しい声で口調でそんな風に答えたため、朔夜はどうしたものかと頬をかく。

「無理なんてしてないって。隣にハル先輩がいるからかな? 俺も平気みたい。だからこの距離でも全然問題ないけど?」
「ふーん。それは良かったね」
「優羽くん、機嫌わる……もごっ」

 茶化すな、と拓海は真白の口にハムサンドを突っ込んだ。

「まだまだ子どもなのよ、優羽くんは」

 呆れた様子でみのりは肩を竦めた。朔夜にべったりだった小学生の時となんら変わらない。自分の思うようにならないと、ああやって「全然気にしてないよ」とか言いつつ、めちゃくちゃ根に持っているのだ。

「はいはい、質問〜。日上センパイは、お弁当食べないんですか?」
「確かに。ハル先輩、お弁当忘れたのか?」
「……忘れた、と言うのは正しくない」
「じゃあなんで持ってきてないんだ?」
「俺には構わなくていい」

 みんなそれぞれお弁当を目の前にしているが、陽の前はなにもない。外に出た時も、飲み物も用意していないようだった。朔夜たちが水分補給をしている時も、ひとり涼しい顔をして「気にしなくていい」と言っていた。

「あ、だったら、私の卵焼きあげますよ」
「遠慮しておく」

 みのりの提案はすぐさま却下される。あとでお腹空いても知りませんよ〜? と、差し出した卵焼きをそのまま自分の口に持っていった。

「本当に腹減ってない? 夏バテ? 卵焼きが嫌いってこと? じゃあ俺のおにぎりひとつあげようか? パックのお茶もあるよ?」
「……君がくれるものなら、もらう」

 え? とみんなの視線が朔夜に注がれる。逆に「?」となっている朔夜は、陽と視線が重なった。その先に見える優羽の超不機嫌そうな顔はとりあえず置いておいて、じっとこちらを見てくる陽に、宣言どおりおにぎりと紙パックのお茶を手渡した。

「なんでさっくんのはよくて、私のはだめなの⁉︎ さっくんばっかりずるい! 私も日上先輩に餌付けしたい!」
「君のは、いらない」

 すん、と陽はわかりやすく表情を無にする。

「なんか面白いね、オカルト部って」

 真白は弾むようにそう言って、ひとくちサイズの四角いタマゴサンドをひょいと口に入れた。