あの日、君は黄昏空の下で微笑んだ。



 午前十一時二十五分。
 理科室。
 
 同じように科学部から発表が始まり、次にオカルト部という順番になった。グラウンドの噂に関して科学部の見解は、

「この噂の厄介なところは、集団で目撃し会話まで交わしていることだと思われる。科学的に説明するのは正直難しいことが、検証の結果わかりました。しかしそれではつまらないので、科学的観点から幽霊がなぜ視えるのか、という視点から話をすることになりました」

 一年生の五十嵐拓海が淡々と話し出す。人間の右脳は顔認識や創造的思考、視覚的イメージなどを認識するのに秀でている。ネットを調べると、超常現象を体験したことがある、という者の多くは右脳派だったという結果もあるくらいだ。

「人の脳は他人の行動を想像する、意図を理解するための脳領域があるという。みんなに視えていた少年の顔は、実はそれぞれ違っていた可能性がある。それはつまり、全員が認識していながらも誰もその少年のことを知らなかったということに繋がっているのではないか」

 限られた情報から結論を引き出すための脳の働きが見せた、幻覚。それが幽霊少年という、本来いるはずのないモノを生み出した仕組みかもしれない。

「なかなか興味深い話だったな。おつかれさん。じゃあ次、オカルト部な」

 拍手の後、朔夜が緊張した面持ちで「は、はーい」と前に出る。

「えっと……、俺は昔から人には視えないモノ、聞こえない声が聞こえてて。声をかけた子が実は幽霊だったとか、日常茶飯事だったんだけど、」

 朔夜はある日の体育の授業で体験した話を続ける。体育の授業は二クラス合同で行うこともあり顔見知りも多かったが、一年の最初の頃は全員の顔や名前を覚えているわけでもなく、そこに知らない誰かが混ざっていても誰も気付かない。

「みんなと普通に話していたし、俺は隣のクラスの子だとずっと思ってた」

 そんな曖昧な認識のまま、何回目の授業だったろうか。

「それが人間じゃないって気付いて、でもそれを口にしてしまえばどちらもショックを受けるしパニックになると思った俺は、気付かないフリをすることを決めた」

 その後、少しして幽霊少年は現れないようになった。誰もそれに気付かないのが不思議だったが、そういうモノなのだろうとひとり納得することにしたのだ。

「その子、さっきもグラウンドにいたんだけど……すごく楽しそうだった」

 朔夜が話し終えると、教室はシーンと静まり返った。いや、わかってたけどね。朔夜はあえてにっこりと笑みを浮かべて、「終わりでーす」と不自然に明るくそう言った。パチパチとみのりと優羽が拍手をし、そこに続いて他の生徒たちも手を叩いた。

「見解というか怪談話だったが、最後はなんだかほっこりだったな」

 久保田の独特の感想はさておき、第二の七不思議、グラウンドの噂の勝敗は……?

「って、ことで。科学部が良かったひと挙手〜」

 三人が手を挙げている。つまり?

「今回もオカルト部の勝利で。俺もどっちかと言えばこっちに一票だな」

 いや、オカルト大好きか!
 朔夜は嬉しいような恥ずかしいような気持ちがじわじわと湧いてくる。

「じゃあ、少し早いけどお昼にするか」

 お弁当タイムが始まった。