陸上部の短距離走に参加している生徒のひとり。
目立つような子ではなく、どこにでもいそうな普通の子だ。特に悪いモノではないらしく、ただ一緒に走りたいだけなのだろう。陽は表情を変えることなく、じっとその様子を見ていたが、そのまま朔夜の方に視線を戻す。
「ハル先輩、あの子って昔からいる感じ?」
「……そうだな。話したことはないが、いるな」
そっか、と朔夜は逆にふっと小さく笑った。
「……なぜ笑う?」
不思議そうに目を細めて、陽は訊ねる。
「いや、まさかこんな話を誰かとするとは思ってなかったっていうか。ハル先輩がここにいてくれて良かったっていうか。俺だけだったら、また誤魔化すところだった」
優羽はそんなふたりの会話に対して、なんだかモヤモヤしていた。朔夜に視えるモノたち。それは自分たちには見えないモノ。それを共有できる陽に対して、嫉妬のような感情が渦巻く。シャツをつまむ指先に無意識に力が入った。
「これからは俺たちに隠し事するのなしだからね? 日上センパイと内緒話するのもダメ」
「してないしてない」
優羽が真面目な顔でそんなことを言ってくるので、朔夜は否定する。
「ハル先輩はなに考えてるか全然わかんないけど、悪いひとじゃないし。なんなら可愛いところもあるから、この機会に優羽も仲良くなれるといいな」
「……朔くんの鈍感」
「さっくんのアホ」
「……君は目が悪いのか?」
三人は各々思ったことをそのまま口にしたが、朔夜はその反応に対して「?」となっているようだった。そうこう無駄話をしているうちに、すでに二十分近く経っていた。雑談に夢中になり、みのりはここから一歩も動いていないことに気付いて、慌てて科学部の動向を探る。
「もう、さっくんのせいでグラウンドの噂をなんにも検証できてないよ!」
「なんでだよ」
「今回はさっくんの実体験をそのまま話すで決まり! 盛るのはナシ。リアルが一番」
「さんせー」
みのりと優羽は結託して朔夜に発表させることを決める。そうすることでオカルトを否定してきた朔夜に、少しでも自身を肯定できるようになればと思ったのだ。科学部がそれを信じるかどうかはまた別の話だが。
三十分後、午前十一時二十分。
渡り廊下前。
生徒たちは集合場所にわらわらと集まってきた。発表は理科室に戻ってすることになり、廊下が自然と会話で賑わう。
「オカルト部は木の下から全然動いてなかったけど、大丈夫なの?」
真白が拓海の後ろを歩きながら、首だけこちらに向けてにこやかに訊ねてくる。声音から心配しているのでなく、どこか面白がっているようだった。
「うちは霊感少年がふたりもいるから、ホンモノとわかれば説明なんて必要ないんだよ」
みのりが自分のことのように自信満々に答えた。
「ふーん。幽霊ってホントにいるんだ? でも見えなきゃいないのと同じだよね?」
「そうだな。その通り。それが一番の問題なんだよなぁ」
なぜか朔夜がうんうんと大きく頷いた。優羽はそんな中、
「俺は朔くんが言ったこと、ぜんぶ信じてる。見えなくても、信じてたよ」
そう言って、ふっと微笑を浮かべた。それを目の当たりにした朔夜は、なんだか恥ずかしくなって耳が赤くなる。みのりも優羽も昔からそうだった。自分の言うことを疑うことなく信じてくれていた。どんなあり得ないことも、妄想のような出来事も、ぜんぶ。
「そ、そっか〜……優羽は小さい頃から純粋だったもんな!」
「違うよ。朔くんを信じてただけ。幽霊も怪異も朔くんが視えてるモノなら、ホンモノだって。小さい頃、話を聞くたびにワクワクしてた」
そっか、と真白は意外とあっさりした反応で、どこかスッキリした顔をしていた。
「拓海! 幽霊ってホントにいるんだねっ」
「……いや、そうはならんだろ、」
背中に投げかけるようにかけられた声に対して、拓海は呆れた声で静かにツッコんだ。


