あの日、君は黄昏空の下で微笑んだ。



 グラウンド。
 午前十時五十分。

「水分補給は各自自由にしてくれ。なるべく日陰を歩くように。もし体調が悪くなったら、遠慮なく言ってくれ。好きなようにグラウンドを調べて、三十分後にここに集合な〜」

 久保田は日陰になっている体育館の前の渡り廊下に寄りかかり、生徒たちを前に注意事項を簡易的に伝える。無理なく楽しんで、と最後に付け加えた。

「じゃあ、まず初めに情報共有だね。グラウンドの噂はみんな知ってるかな?」

 オカルト探求部は四人で円になって、葉桜の下で会議中だ。春には綺麗な桜が咲くこの木陰は、風が吹くと少しだけ涼しかった。朔夜はしおりを捲り、【その二、グラウンドの噂について】というページに視線を落とした。

「そもそも七不思議があったことすら知らないんだけど?」

 (はる)の夏服の半袖シャツを右手でつまんで立っている優羽(ゆう)が、みのりに訊ねる。朔夜もよく知らなかったため、気にならないと言えば嘘になるだろう。嘘か本当かはさておき、七不思議というのはどこにでもある。ある意味学園モノのテンプレといえよう。

「優羽くんの疑問はここにいるみんなの疑問だと思う。さっくんも日上先輩も知らないでしょ? この学校の七不思議はさっきの理科室のみたいに微妙なものばっかりだから」
「微妙……確かにここに書いてあるのもありきたりというか」

 依頼箱からの依頼を解決するのが、今のオカルト探求部の活動になっているわけだが、その中に七不思議の内容がひとつもないというのが、まさに生徒の認識度の低さを物語っている。それ以上に町や学校内の不思議な噂が多いというのもある。

「ちなみに、グラウンドの噂はこうだよ」

 グラウンドの噂。部活動や体育の授業をしている生徒たちに混ざる幽霊少年。誰もその少年を知らない。しかしいつの間にか輪の中にいて、一緒に部活や授業をしているらしい。誰も気付かない。誰もが誰かの知り合いだと勘違いするくらい、生徒たちの中に溶け込んでいるのだとか。所謂、あれ? ひとり多くね? というやつだ。

「ふ、ふーん。そーなんだー……」
「え……なにその反応。さっきありきたりって言ってたのに」

 朔夜は目を泳がせて、じとっと見上げてきたみのりから視線を外す。

「もしかして心当たりある? グラウンドの噂はホンモノ?」
「いや、一年の時にまさにそれを体験したという……、双方に対して誤魔化したけど」

 朔夜は一年の体育の授業で、何度かその子に遭遇していた。途中までまったく気付かず、他の生徒たちも気付いてなかったこともあり、幽霊少年には幽霊だと気付いていないフリをし、クラスの連中には幽霊少年が幽霊だということに途中から気付いたことに対して、気付いていないフリをしていた。ややこしい話だが。

「あれが七不思議だとは知らなかったけど、」
「さっくん……なんで言ってくれなかったの!」
「言えるか! みのりに言ったら、絶対面倒なことになるだろ⁉︎ そもそも一年の時はこのクラブなかったし、俺もオカルト完全否定人間だったし」

 みのりはむぅと頬を膨らませて訴えてくる。

「今もあの中にいるようだが?」

 え? と優羽は隣でぽつりと抑揚のない声で呟いた陽の方を勢いよく向いた。

「ああ……やっぱりあの子か、」

 朔夜も陽の視線の先を確認し、うーんとなんとも言えない溜息混じりの声を吐き出した。