あの日、君は黄昏空の下で微笑んだ。



 みのりは教卓に両手を置いて、改めて教室を見回す。学校の七不思議。そのどれもがよく聞く定番ばかりで、信憑性に欠ける。

「透明人間については科学部の見解で別に構いません。透明人間は存在し得ない。科学的にそう証明されてますからね。しかし、おかげでこの噂が心霊的な現象であることを肯定してくれました」

 透明人間が存在しないのなら、浮かんでいた実験器具の謎をオカルト的な観点から説明すればいいのだ。それは七不思議を証明することになるが、この勝負(あそび)はそういうものだと思っていい。

「透明人間はいない。ということは、必然的に浮いていた実験器具はポルターガイストによるもの、つまり幽霊の仕業と考えられます」

 ポルターガイスト。特定の場所において、手を触れていないのに物体が動いたり、音がしたり、光ったりする原因不明の現象のこと。精神的な問題やストレスから特定の人物の周りで発生するとも言われているが、今回は無視だ。

「透明人間というのは後付けの噂で、本来の現象はポルターガイスト。ただ物が浮いているだけだったものが、年月が経つうちに変化していったのでしょう。七不思議ではよくあることです。大勢の人間が参加する伝言ゲームの答えが、途中から別のものになってしまうように、味付けされちゃったというわけです」

 とは言っても、これだけではポルターガイストを証明したことにはならない。

「ではこれがなぜポルターガイストの仕業と言えるのか。この現象は霊的な存在や超自然的な力によるものというのが、ひとつの解釈としてあります。それを肯定するならば、この噂が夜限定ということも頷けますし、視えないなにか(・・・)が動かしているというなら、幽霊が関わっている可能性が高いでしょう」

 透明人間は存在しないが、幽霊は存在する。みのりのパワープレイに朔夜は「無茶苦茶だな」と苦笑する。

「目に見えないモノを証明はできないが、これはそういうことではないのだろう」

 陽はぽつりと朔夜の横で呟く。

「表向きはそういう不可思議な噂が、嘘か本当かを解明するためにオカルト探求部を立ち上げたわけだけど、本来の目的は朔くんだよ」

 え? と朔夜は首を傾げる。陽の横で優羽は頬杖をつき、こちらをじっと見つめてくる。

「朔くんが視ているモノを共有したくて、無理矢理クラブに誘ったの。もしかして気付いてなかった? 姉ちゃんは昔から……、」

 言いかけて、優羽は止めた。みのりがオカルトオタクになったのは朔夜がきっかけだが、あくまでもきっかけでしかない。

 そもそもオカルトに興味はあったが、なによりも朔夜が自分たちに見えないモノが視えているにも関わらず、否定して隠し始めたのが大きい。本当はそこに存在しているのに"いない"と口にする朔夜が、どこか寂しそうに思えたのだろう。

「オカルト探求部は、朔くんがいないと始まらなかったんだよ。人数合わせは俺だけ」

 昔から、朔夜の話すことをうんうん頷いて聞いてくれていたことを思い出す。優羽もそうだが、この姉弟はいつだって自分のことを疑わない。

「俺も姉ちゃんも、朔くんが昔みたいに不思議なこと話してくれるの、嬉しい」

 ふっと口元を緩めて笑う優羽に、朔夜はなんだか胸が痛んだ。

 みのりの発表が終わり、生徒たちの拍手が響く。心ここに在らずのまま、朔夜も無言で手だけ動かす。七不思議を作り話と否定したわけだが、ひとつくらいはもしかしたらホンモノが混ざっているかもしれない。それを証明できれば、オカルト探求部に対するみんなの目も変わるかも。

 今はただの物珍しいクラブだが……。

「じゃあ、この七不思議についての多数決を行うぞ〜」

 久保田の低い声が理科室に響いた。