みのりの質問に対して、顧問の久保田ではなく科学部の現役部長である櫻井誠が眼鏡をくいとあげて答える。
「怪異や超常現象が夜に起こりやすいというのは確かにその通りだと思うが、そもそもそんなものは存在しないと証明するのが我々科学部視点なので、逆に科学では証明できないことが真っ昼間から起こってくれたら信じざるを得ないだろう。つまり、そちらに不利という言葉は正しくないと言える」
ぐぬぬ……とみのりは部長の返しに言葉を詰まらせ、「さっくんもなんか言って!」と肘で腕を突かれる。朔夜に言わせれば怪異に昼も夜もなく、視えるモノは明るかろうが暗かろうが視えるという理屈なので、うんうんと頷いてしまう。
「いや、別にいいんじゃないか? 七不思議とかそもそも作り話の可能性も……、」
「もう、さっくん! どっちの味方なの!」
むぅと頬を膨らませて見上げてくるみのりに、いつもの癖でまた否定から入ったことに「ごめんて」と苦笑い。どうでもいいけど、みんなに見られててめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……と周りの視線に目を泳がす。
「夜の学校で検証は確かにロマンがあるが、現実的に無理だったので申し訳ない」
久保田がボサボサの髪をポリポリとかきながら申し訳程度に謝罪する。
まあ、そんなことだろうとは思ったが。
「わかってますよ……先生は一応中立の立場ってことでいいんですよね?」
「それはもちろんだ。俺はどちらも興味があるからな。君たちの論争次第だ。ちなみに現象に対してそれぞれの意見を話し合い、どちらがより納得できたかで多数決で決める」
はーい、と生徒たちは各々ルールを把握した。つまりは、七不思議の是非は関係なく、いかに証拠を集め相手を言いくるめるかが論点といえよう。
「よし、じゃあ早速始めるぞ〜。まずはこの理科室の噂からだ」
旅のしおりもとい資料を手に久保田が【その一、理科室の七不思議について】のページを開く。薄い手帳サイズの資料を捲り、みのりは真剣に聞き入る。理科室の七不思議。それは『夜な夜な透明人間が実験を繰り返している』というものだった。
なぜ透明人間なのか。それは実験器具が真夜中にふわふわと宙に浮いていたからだ。
(って、これは夜限定なんだな……というか、それを目撃したのって誰だよ……もうすでに嘘っぽいんだけど?)
そんな朔夜の心の声を察したのか、みのりが自信満々に親指を立てて片目を閉じ、こちらを見上げてきた。いったいどうやって証明するつもりなのか……嫌な予感しかない。
「では準備運動がてら、この噂についてそれぞれの考えをまとめて、三十分後に発表してくれ。その間、好きに見て回っていいぞ。あ、薬品棚には危ないから近づくなよ?」
科学部とオカルト探求部はそれぞれ教室の端に分かれ、気になることをグループで話し合ったり、実際に実験器具を手に取ったりして現象の検証を行うことになった。
「まさか優羽くんも参加してるなんてね。友だちだからって手は抜かないからね?」
鳥海真白は可愛らしく笑って、宣戦布告をしてきた。その隣で五十嵐拓海は優羽と陽を交互にゆっくりと眺めた後、
「……あえてなにも言わないが、誤解されるようなことはしないことだ」
そう言って目を逸らした。
完全に誤解されている!
「部活中に怪我しちゃって、これは腕を貸してもらってるだけだから」
「ただの介抱だ。深い意味などない」
ふたりはほぼ同時に答えた。
「怪我? 大丈夫? なんか最近ツイてないよね〜、優羽くん」
真白は小首を傾げて、直とまったく同じセリフを口にした。これが【呪い】のせいだと言ったところで笑われるだけだ。誰も本気にはしないだろう。それこそ非科学的な出来事、あり得ない現象が目の前で起こっているわけだが。
「本当にな。で、練習も数日休まなきゃだし、やることないからこっちに参加してるんだ」
「まあ、たまにはいいんじゃないか? 気晴らしになるかはさておき、」
「そうそう。せっかくだから勝負しようよ〜」
こんな機会ないんだし、と真白はどこか楽しそうだ。拓海も珍しく口元が緩んでいる。普段科学部は実験をしたり、テーマを決めて研究をしたりしているらしい。
ふたりがこのクラブを選んだ理由は知らないが、性格も全然違うのに気が合うのだから不思議だ。
「で、どう思う、さっくん」
「どう思うもなにも……噂の出どころがそもそも曖昧っていうか」
明らかにとってつけたような典型的な七不思議。この理科室には人体模型も骨格標本もない。
そういうのが好きな誰かが、『透明人間が実験している』というただのポルターガイストでもない微妙なラインの噂を流したのでは? というのが、朔夜の本音だ。
「この教室からは特に嫌な気配は感じないしな〜。なんで透明人間なんだ? 生徒とか先生の幽霊じゃなくて? っていうか、透明人間って怪異?」
「透明人間は人間でしょ?」
すん、とみのりが真面目な顔で言う。
「それこそ、あっちの専門分野だと思うけど」
「じゃあこれはオカルトじゃないってこと?」
優羽はふたりの会話から結論を口にする。
「いい? この遊びは、七不思議が科学で証明できるかオカルトだと言い切れるか、というものよ。私たちはオカルトの観点からこの噂を証明すればいいのよ」
みのりはふふっと悪い顔で、魔女のような怪しい笑みを浮かべた。


