あの日、君は黄昏空の下で微笑んだ。



 みんなが椎菜のことをひそひそと話している。いい気味だ。広い教室。みんなグループごとに休み時間を楽しく過ごしている中、自分の席で俯いたままひとりでいる椎菜。

 口々に「身の程知らず」とか「すごい大胆〜」とか、彼女を貶めるような言葉が飛び交う。そんな中、少しも便乗しないグループがあった。もしかしたら、今まで様子を窺っていただけだったのかもしれない。

「なあ、みんなしてなんで佐々木さんのことそんな風に言うんだ? 他の子だって優羽に告白してたじゃん。別に人の恋愛のことなんて関係なくないか? 誰が誰を好きでも良くね?」

 相澤(あいざわ)(すなお)は思ったままを素直に口にするガキだ。声変わりが遅いのか周りの男子より少し声が高めで、なによりでかくて響く。ノリが良くて元気な男子という印象が強く、ムードメーカーでもある。

 なにかイベントがあれば必ず先頭を歩くような、明るく正義感の強い主人公タイプだ。バスケ部で、三枝優羽とは一番仲が良く、いつも大概一緒にいるイメージだ。

「なにが面白くてそんな不快なことをしているのか。理解不能だな」

 口数は少ないが言いたいことははっきり言う。自分は自分スタンスの、五十嵐(いがらし)拓海(たくみ)。中学一年生にしてこの落ち着き。科学部所属で、他の男子にはない不思議な魅力がある。遠回しに『くだらない噂話』でよく盛り上がれるな、と言われている気がした。

「人の悪口で盛り上がるより、もっと楽しいことあるのにね〜? 優羽くんはそもそも、当事者としてどう思ってるの?」

 同じく科学部の鳥海(とりうみ)真白(ましろ)。背の高い三人の中で唯一男子の平均身長を下回る低さ。顔も仕草もとにかくあざと可愛い。女子より女子な男子でマスコット的な存在でもあるが、頭がすごく良い反面、運動は苦手というか嫌いらしい。

「俺を悪くいうならわかるけど、頑張って告白してくれた子がそんな風に言われるのはちょっと複雑。誰がはじめたのか知らないし、俺がなにか言うのも違うけど……それで佐々木さんが肩身の狭い思いをするのはやっぱりおかしいと思う」

 バスケ部と科学部。ここのグループは爽やか系と元気系とクール系と可愛い系男子という一見個性的なメンツが集まっており、密かに彼らを推している女子たちにとって、四人の言葉は耳が痛かった。

 その日から、ひそひそ話の矛先は噂をはじめた奈々に向けられるようになった。しかもあの四人のいないところで、それは繰り返された。

(なんであの子は守られてるのに、私のことは誰も守ってくれないの?)

 あんなのただの遊びじゃん。
 どうせすぐに新しい噂で盛り上がるんでしょ?

(あの子も、陰で私の悪口を言って笑ってるに決まってる!)

 自分がそうしていたように。
 友だちなんて口だけ。

 裏切り者。

 みんな大っ嫌い。
 みんなの視線が気持ち悪い。

 椎菜の、憐んでいるようなあの目がムカつく!

 だんだん学校に行くのが嫌になって、休みがちになった。そんな中、最後の登校日となったあの日。

「絶対に赦さないから」

 吐き捨てるように、石でも投げるように攻撃的な態度と言葉で。

 赦さない。

 だってこんなの不公平だ。
 私はなにも悪くないのに!

 あの子も。
 クラスの連中も、全員。
 不幸になればいい。

『私を馬鹿にしたクラスの連中に悪いことが起こりますように』
『三枝優羽が片想いをしている好きなひとに嫌われますように』
『佐々木椎菜はこの世から消えろ』
『みんな呪われろ!』

 みんな呪われてしまえばいい。
 夏休みが終わったら、様子を見に学校に行くつもりだ。どうせみんな、その頃には忘れているのだ。自分たちがなにをしたか。だってただの暇潰し。噂なんてすぐに違うものに変わる。

 これはただの遊び。
 呪い、なんて。
 そんなのあるわけないし。
 ノートに怨み事を書いたからって、なにか起こるわけでもない。そんなの最初から知っている。これは気持ちの問題なのだ。

 呪い。
 まじない。

 ただの遊び、だったのに······。