夏休み。
県の大会でベスト8という結果はだせたものの、選ばれし上位校には残れなかったため、全国への道は閉ざされてしまった。
今日は夏休み最初の練習日で、朝から全力で暑い。夏休み中もいつもと同じで土日以外の五日間が練習日。基本的にレギュラーは強制参加で、他の部員は自由参加。合宿は一応全員参加となっている。
「はよ〜、今日も頑張ろうぜ」
クラスも一緒で、小学校からの友人でもある相澤直が、優羽の後ろ姿を見つけるなり駆け寄ってきて、ポンと肩を叩く。自分よりも十センチほど背の低い直は優羽と同じで一年生レギュラーだったため、一緒に行動することが多かった。お互いに気を遣わなくてもいい関係性で、コンビとしても申し分ない存在。
「おはよ。調子に乗って飛ばしすぎて、後でヘタレるなよ?」
「わかってるって! それより、今日は先輩と姉ちゃんは一緒じゃないんだ? なんだっけ? オカルト研究部? クラブ? は休み?」
「オカルト探求部な。今日は町の噂を探して回るんだってさ」
「なんか面白そう! 最近変な噂多いからなぁ」
やめとけって、と優羽は肩を竦める。正直、あまり手放しに応援できないところがある。あの神隠し騒動以来、朔夜が心配すぎて気が気ではなかった。なによりも"あの先輩"の存在が余計にそうさせている。気付けばいつも朔夜の横にいて、優羽はそれを後ろから眺める側になっていた。
(あそこは俺の場所だったのにな……)
暗い気持ちが顔に出てしまったようで、直が「どした?」と横で首を傾げていた。靴を履き替えて、「なんでもない」といつもの笑顔で返すと、ふたりで体育館に足を向けた。更衣室で練習着に着替えて、少しずつ集まりはじめた部員たちに混ざって適当に会話を合わせる。
二面あるコートの片面が男子バスケ部、もう片面を女子バスケ部が利用しており、外のグラウンドからは野球部や陸上部の掛け声が聞こえてくる。
今日は初日ということもあってほとんどの部員が参加していた。コーチが入って来て簡単な挨拶を交わした後、本日の練習メニューをホワイトボードに貼って説明し始めた。
二人一組の練習が多く、優羽と直はいつものようにメニューをこなしていく。三十分の休憩を挟んだ後、四チームに分かれてそれぞれ試合をすることになった。バランスを考えてチーム編成がされ、総当たり戦で行われることに。
二試合目。優羽と直は同じチームで、順調に試合をこなしていた。そんな中、起こった出来事。試合の後半、残り一分。直からのパスでフリーの優羽が同点となるシュートを打ったその時、皆がゴールを見守っていた。
ボールが音もなく綺麗にネットを通って床に落ちた瞬間、目の前で起こった熱い展開にチームメイトが盛り上がる。そんな中、直は目の前に飛び込んできた光景に思わず叫んだ。
「優羽⁉︎」
その声に皆が「どうした?」と驚き視線をゴールからコートへと移した。先に気付いた直が駆け寄ったことで、コーチや他の部員たちも次々に駆け寄ってきた。床に倒れ込んでいた優羽は横たわったまま蹲っていて、右足首を押さえたまま苦痛に顔を歪めていた。
チームメイトたちに囲まれてることに気付き、不安にさせないようにといつもの笑みを浮かべるが、どこか不自然なせいで余計に心配をかけてしまったようだ。
「……へーき、少し休めば大丈夫、かも?」
「いや、全然平気じゃないって」
「誰か、手を貸してくれ。とりあえず保健室に運ぶ。しばらくしても戻らない時は、時間が来たら上がっていいからな。神谷、あとは任せたぞ」
コーチは部長である二年生の神谷亮介に指示を任せると、力のありそうな体格の良い部員と共に優羽を連れて行ってしまった。残された部員たちは「大丈夫かな?」と口々に囁いていて、一年生にしてチームのエースでもある優羽を本気で心配しているようだった。
「……やっぱり、俺も行って来てもいいですか?」
「ああ、いいよ。もうすぐ十二時だし、どっちにしてもこのままクールダウンして今日は終わりそうだからね」
「ありがとうございます!」
直は部長に許可をもらい、更衣室で素早く着替え、隣に置いてあった優羽の荷物を持って保健室へと急いだ。


