「え? さっくん帰ってないの? いつもと同じあそこの十字路までは一緒だったよ。確かに家に入って行く姿までは私も見ていないけど、」
他にどこかに行くような様子もなかった。行くとも言っていなかったし。みのりは急に不安に駆られた。いつもと違っていたことも余計に重なって、「私のせいかもしれない」と自分を責めずにはいられなかったのだ。あの時。朔夜の姿が見えなくなった時に、もっと気にしてあげていたなら。
「お母さん、私、私のせい? さっくん、誘拐されたとかじゃないよね? 私、私も捜しに行く! 行きたい!」
大人たちも集まって警察と一緒に町を捜索することになったらしい。ただの迷子か、それとも誘拐か。
「子どもがこんな時間に外に出たら危ないわ。朔夜くんは大丈夫だから、みのりはここで待っていようね? お父さんたちがきっと見つけてくれるから、信じて待ちましょう」
この会話の少し前。夜の八時過ぎ。家の中が慌ただしかった。お風呂に入ろうと廊下を歩いていた頃に電話が鳴っていた気がする。お風呂から出て、両親におやすみなさいを言おうとリビングにやって来たみのりは、母親がスマホで誰かと話している会話の内容を聞き、朔夜が帰って来ていないということを知ったのだ。
(さっくん、どこに行っちゃったの? ちゃんと帰って来るよね? もしかして、公園で言ってた子に連れて行かれちゃったんじゃ……っ)
自分には見えていなかったけれど、朔夜には視えていた誰か。朔夜はお化けに連れて行かれたのかもしれない。
(でも大人はきっと信じてくれない……みんなもさっくんのこと、冗談はよせとか嘘つきとか言うし。きっと、違うのに)
朔夜の目にはなにが視えているのだろう。お化けは本当にいるのだ。少なくとも、朔夜の周りには存在している。誰も信じてあげないのなら、自分だけでも信じてあげよう。
(さっくんは、嘘つきなんかじゃないもん)
嫌なことばかりが頭の中をぐるぐると駆け巡って、みのりは怖くなってしまう。朔夜はきっと神隠しに遭ったのだ。前にテレビでやっていた怖い話を思い出す。子どもが忽然と消えてしまい、行方不明になるお話。別のセカイに閉じ込められてしまったその子は、今も帰って来ていない……という終わり方だった。
真夜中、一本の電話が鳴り響いた。さすがにうとうととしていたみのりは、その音ではっと飛び起きる。同じタイミングで優羽も目を覚ましたようで「お姉ちゃん、トイレ……」と言う声が聞こえてきた。みのりは優羽を連れて子ども部屋を出ると、まだ明かりのついているリビングの前を通った。
「え⁉︎ 本当に⁉︎ うん、うん、そう、良かった……大きな怪我もなくて。みのりもすごく気にしていたから。ええ。何事もなくて本当に良かったわね」
電話をしていた母親はみのりと優羽の姿を目にすると、話しながらにっこりと笑みを浮かべた。電話を切った後、母親が教えてくれた。朔夜は裏山で見つかったらしく、少し擦り傷などはあったものの、大きな怪我もないという。
後に知ることになるのだが、朔夜は行方不明になっていた数時間の記憶が曖昧で、捜し出された際も、みのりたちと別れた後、どこにいたのか、なぜ裏山に行ったのかさえ、「なにも憶えていない」と言って、集まった大人たちを困惑させたらしい。


