集まって来た禍人たちの姿は皆違い、彼ら彼女らがここに連れて来られた時代が違うことがわかる。いったいいつから禍という存在がこの町に居座り、どれだけの人々を喰らったのか。
「考えはもちろんあるよ〜。僕はこれでもここの住人だから任せて」
「だったら最初からそうしろ」
「ここも可能性のひとつだったからね」
本当かな……と半分疑いつつも、紙袋兄さん以外に頼れるひとはいないので仕方なく作戦を聞くことに。こそこそと三人集まって内緒話をしながらも、一定の距離以上にこちらに近づいて来ない禍人たちを警戒した。
「ってことで、目的地まで臨機応変に、ね」
紙袋兄さんの合図と共に、朔夜は陽と一緒に駆け出す。その後ろを紙袋兄さんがついて来ると思いきや、禍人たちの道を塞ぐように廊下の真ん中に立つ。ふたりの後ろ姿を見送りながら、紙袋兄さんは被り物の奥で小さく嘆息する。
(禍神の目的が彼なら、なぜすぐに始末しに来ない? 今の彼は神気を失い、なにもできはしないだろう。やるなら今以上に絶好の機会はないけど……これはどういう意図だろうねぇ)
ふたりを簡単に逃す理由はなんだろうか、と考える。禍人たちはゆっくりとこちらに足を向け、再びじわじわと詰め寄ってくる。やはり命令はまだ終わっていない。
(……ふーん。そういうことか、)
腰に手を当てて、紙袋兄さんは肩を竦めた。
(僕を泳がせて、彼らを観察していたってところかな。まあ、そうだよね。気にはなるよね。彼だけでなく、あの子も特別な存在だ。この裏側のセカイに二度も囚われたあの子の体質は、なかなか興味深いものがある)
禍神もまだ不完全なのだろう。目覚めてからまだ十数年ほどだ。封じられていた数百年を考えれば、それも頷ける。
「ここからは鬼ごっこの始まりだよ。もちろん、僕が鬼でいいよね?」
紙袋兄さんはくすりと笑って、寄って来る禍人の間をすり抜けてある場所へと向かった。ひとり残って食い止める? そんな自己犠牲は無駄なだけだろう。
自分自身もまた、奴にとっては異物であり、邪魔者でもある。禍人にするために現世から連れて来た人間たちをこっそり逃しているのだから、当たり前だ。だがすべてではない。
半分望んでここに来た者たちは、異界に留まることを選択することが多い。あの女の子たちもそうだった。様子は見ていたが、ふたりはどうやら知り合いのようで、関係も深そうだった。
裏側のセカイ。異界。ここは禍と呼ばれる禍神が、遥か昔に創り出したセカイ。一度はこの地の土地神によって封じられたが、人間が彼を忘れ去ったせいで神気が弱まり、やがてあの土砂災害が起きた。
禍神はあの場所を離れ、町からひとりふたりと人間が消えていく。誰も消えた人間のことを知らず、思い出も存在も初めからなかったことにされた。
自ら望んでここに来た理由は、ただひとつ。
「教えてなんてあげないけどね?」
赤色で染まった薄暗い校舎に、真の闇が迫っていた。それは雨雲のように赤い空を覆い、辺りを深淵に引きずり込もうとしていた。


