「····って、いやいや、そうじゃなくて!」
ひそひそ話をするように囁き声でツッコミ、朔夜はこの変な空気を散らそうと、無駄に大きく手を上下に動かした。未だに左手は握られたままで、それが余計に朔夜を動揺させる。
しかし陽からは悪意の一切を感じられず、なんなら自分を守ってくれているのだとわかる。朔夜が認識して触れなければ、おそらく誰も陽の存在には気付かなかっただろう。あのみのりにも見えるくらいの強い存在。であれば、悪いモノならすぐにわかる。
「事実だが、」
「いや、だからなんで? って話で····」
「君だけがこちらに気付いていたから、こちらも注意しなければと思っていた。だが、まさか認識していただけでなく、触れることができるとは思ってもみなかった。あれはもはや事故だ」
確かに。その言葉がしっくりくる。
「む、無視すれば良かったのでは?」
「····したはずが、このザマなんだ。君が俺を認識しこの身に触れた時、存在が確実なものとなった。あの瞬間、君はすごく"変な子"だと知ったよ」
「こんなの、ハル先輩がはじめてだって····あんた、何者? 絶対普通の幽霊じゃないだろ?」
幽霊、怪異、不可思議な現象。
昔からずっと悩まされていたこと。子どもの頃は嘘つきだの妄想だのと誰も信じてはくれなかった。そう、あのふたり以外は。
けれども、自分の言っていることを信じてくれていたふたりも、影で嘘つき呼ばわりされていることを知り、あれは全部嘘でそんなものは存在しないと言うことにした。
彼らと目が合っても知らないフリをし、動揺しつつも平静を保つ。目の前にはなにもいないし、声も聞こえない。これは存在しないモノ。なにも見えていない。なにも無い。
図書室で本を読んでいた陽は、彼らのように透けてもいなければ、執拗に自分を認識させようともしてこなかったこともあり、朔夜は普通にいつも同じ場所にいるな〜くらいの感覚だった。
触れられたこともその要因のひとつだ。みのりも普通に話していたし、あの時はまったく気付きもしなかったのだ。ではなぜ突然それだと気付いたのか。
それは、その血の通っていないかのような手の冷たさ。握られている、その手の違和感から。
「そもそも幽霊などではないからな、」
「····だよなぁ。じゃあ日上陽って名前は思い付き? 偽名? ここから出る方法は知ってる? 」
「名と姿は譲り受けた。経緯は話す義理がない。ここから出るのは容易ではないが、方法がないわけでもない」
陽ははぐらかすところはしっかりはぐらかしたので、朔夜はそれ以上は問わないことした。知ったところで、どうとなるわけでもない。
かといってまったく気にならないかといえば、嘘になるけど。


