どういう言い訳をして学校を出たのか、もう覚えていない。
気づけば私は学校の最寄り駅のベンチに座って、ぼうっと人ごみを眺めていた。
今までのことがすべて夢の中の出来事のようだ。
ふいに喉の渇きを覚えた。いてもたってもいられなくて自販機で水を買い、その場で蓋を開けて一気に飲んだ。詰まっていた喉が無理やりこじ開けられるように水が一気に流れ落ち、勢い余って何度かむせた。
カバンの中でスマホが震える。通知が一件、ロック画面に表示されていた。息を呑む。AからのLINEだった。
AとのLINE
A「今どこ? もう学校出た?」
野月「うん」
A「ごめん、びっくりしたよね」
野月「Wさんは? 大丈夫?」
A「今日は早退させたよ。教室には戻りづらいでしょ」
A「あのさ」
A「ちゃんと話すね」
A「LINEじゃなくて、ちゃんと会って話したほうがいいと思う」
野月「うん、助かる」
野月「正直、意味わかんない」
野月「あの学校、大丈夫なの?」
A「うん。ごめん。大丈夫じゃないんだ」
A「巻き込んで本当ごめん」
A「全部話す。ちゃんと説明したいから明日会えない?」
野月「OK」
A「渋谷? 新宿のほうが近いんだっけ」
野月「そのほうが助かるかな」
A「じゃあ、お昼」
(以降連絡なし)
野月「大丈夫?」
野月「おーい」
野月「とりあえず明日、お昼に新宿でいいんだよね?」
(すべて未読)
しばらく待っていても、連絡はない。もしかしたら用事があってLINEが送れないのかもしれない。
私はスマホをポケットに突っ込む。
指先がかさっとなにかに触れた。引っ張り出すと、Wさんからもらった紙の切れ端だった。
その紙をもう一度ポケットに突っ込みなおし、改札を抜けて駅のホームへと向かう。
今日はもう帰ろう。一度帰って、頭を冷やす必要がある。
ちょうど来た電車に乗り込んで、空いている席に座った。ジャケットからメモを取り出す。
逡巡したのは一瞬だった。
スマホを取り出して、LINEを開く。
ID検索欄に該当のアルファベットを入力し、ちいさくてかわいいネズミのキャラクターアイコンをタップした。
WさんとのLINE
野月「野月です。IDを教えてくれてありがとう!」
野月「Wさんであってるかな?」
W「はい」
W「連絡ありがとうございます」
野月「今日、大丈夫だった?」
野月「あ、ごめん、言いたくなかったら言わなくていいよ」
W「大丈夫です。見てたんですね」
野月「うん、ごめんね」
W「野月さんにウチの学校のことを知ってもらいたくて」
W「IDを渡しました」
W「あの、もしよければ通話できますか?」
野月「いいよ。ちょっと待って、電車降りるね」
Wさんとの通話
すみません、通話ありがとうございます。あの、どうやって話したらいいか私もわかんなくて……。
ええと、あ、い、インタビューのとき、嘘……つきました。
私、もう学校がつらいんです。野月さんはウチの学校をモデルにして小説を書くんですよね。
だから、私、その……本当のことを言えば、野月さんがなんとかしてくれるんじゃないかって思って。すみません。
ああいうことですか? はい。笑顔ランキングっていうんです。
毎週あって……みんなでポイントを入れ合うんです。
ポイントの基準は笑顔が素敵かどうか、みたいな感じで。
ちょっとでも泣いたり、落ち込んだりするとポイントが入らないんです。
そんなの、小学校の頃にはなかったから私、本当にびっくりして。最初は馬鹿にしてたんです。
だってイタいじゃないですか。学校が笑顔とか、押し付けてくるのマジなんなのって思って。
おんなじことを言ってた友だちと一緒に茶化してました。でも、その……。
最初はありえないって言ってた友だちも、その、どんどん……それが普通になっていくっていうか。
ありえないよねって言ってたのに、今は私に「笑って」って言ってくるんです。
もうほんと、私、怖くて。い……今までがんばってポイント集めてたんですけど、もう無理で。
A先生は気づいてくれてて、がんばろうって言ってくれてたんです。
A先生もおかしいって思ってたみたいで。
でも、学校でそれを言っちゃうとよくないから……なんとか三年間乗り切ろうねって、こっそり励ましてくれてたんです。
でも、私が駄目だったから、A先生に……迷惑かけちゃいました。
もうA先生、駄目だと思います。私ももう駄目です。
さっきからずっとほっぺたが痛いんです、だからもう手遅れなんです。
A先生今度友だちが来るって言ってました。
外の人からウチの学校を見てもらえば絶対問題になるはずだから、もうちょっとの辛抱だからって、それ野月さんのことですよね! だから私野月さんに直接この話をしたくってそれでID渡したんです。
お願いしますなんとかしてください私たちを助けてください
私絶対に嫌ですカウンセリング受けたくないんです
みんなあそこに行ってからおかしくなったんですA先生も私も逃げられませんあいつが――!
……。
――……あっ。どうしよう、ど、うしよう……!
ヤバいヤバいヤバい! 来る、来ちゃった、ヤバい、嫌だっ……やだやだやだやだ!
やだあああっ!
え、えひっ――……
(通話終了)
WさんとのLINE
野月「どうしたの?」
野月「大丈夫?」
野月「なにかあった?」
野月「なんでもいいよ、アクションちょうだい!」
(すべて未読)
気づけば私は学校の最寄り駅のベンチに座って、ぼうっと人ごみを眺めていた。
今までのことがすべて夢の中の出来事のようだ。
ふいに喉の渇きを覚えた。いてもたってもいられなくて自販機で水を買い、その場で蓋を開けて一気に飲んだ。詰まっていた喉が無理やりこじ開けられるように水が一気に流れ落ち、勢い余って何度かむせた。
カバンの中でスマホが震える。通知が一件、ロック画面に表示されていた。息を呑む。AからのLINEだった。
AとのLINE
A「今どこ? もう学校出た?」
野月「うん」
A「ごめん、びっくりしたよね」
野月「Wさんは? 大丈夫?」
A「今日は早退させたよ。教室には戻りづらいでしょ」
A「あのさ」
A「ちゃんと話すね」
A「LINEじゃなくて、ちゃんと会って話したほうがいいと思う」
野月「うん、助かる」
野月「正直、意味わかんない」
野月「あの学校、大丈夫なの?」
A「うん。ごめん。大丈夫じゃないんだ」
A「巻き込んで本当ごめん」
A「全部話す。ちゃんと説明したいから明日会えない?」
野月「OK」
A「渋谷? 新宿のほうが近いんだっけ」
野月「そのほうが助かるかな」
A「じゃあ、お昼」
(以降連絡なし)
野月「大丈夫?」
野月「おーい」
野月「とりあえず明日、お昼に新宿でいいんだよね?」
(すべて未読)
しばらく待っていても、連絡はない。もしかしたら用事があってLINEが送れないのかもしれない。
私はスマホをポケットに突っ込む。
指先がかさっとなにかに触れた。引っ張り出すと、Wさんからもらった紙の切れ端だった。
その紙をもう一度ポケットに突っ込みなおし、改札を抜けて駅のホームへと向かう。
今日はもう帰ろう。一度帰って、頭を冷やす必要がある。
ちょうど来た電車に乗り込んで、空いている席に座った。ジャケットからメモを取り出す。
逡巡したのは一瞬だった。
スマホを取り出して、LINEを開く。
ID検索欄に該当のアルファベットを入力し、ちいさくてかわいいネズミのキャラクターアイコンをタップした。
WさんとのLINE
野月「野月です。IDを教えてくれてありがとう!」
野月「Wさんであってるかな?」
W「はい」
W「連絡ありがとうございます」
野月「今日、大丈夫だった?」
野月「あ、ごめん、言いたくなかったら言わなくていいよ」
W「大丈夫です。見てたんですね」
野月「うん、ごめんね」
W「野月さんにウチの学校のことを知ってもらいたくて」
W「IDを渡しました」
W「あの、もしよければ通話できますか?」
野月「いいよ。ちょっと待って、電車降りるね」
Wさんとの通話
すみません、通話ありがとうございます。あの、どうやって話したらいいか私もわかんなくて……。
ええと、あ、い、インタビューのとき、嘘……つきました。
私、もう学校がつらいんです。野月さんはウチの学校をモデルにして小説を書くんですよね。
だから、私、その……本当のことを言えば、野月さんがなんとかしてくれるんじゃないかって思って。すみません。
ああいうことですか? はい。笑顔ランキングっていうんです。
毎週あって……みんなでポイントを入れ合うんです。
ポイントの基準は笑顔が素敵かどうか、みたいな感じで。
ちょっとでも泣いたり、落ち込んだりするとポイントが入らないんです。
そんなの、小学校の頃にはなかったから私、本当にびっくりして。最初は馬鹿にしてたんです。
だってイタいじゃないですか。学校が笑顔とか、押し付けてくるのマジなんなのって思って。
おんなじことを言ってた友だちと一緒に茶化してました。でも、その……。
最初はありえないって言ってた友だちも、その、どんどん……それが普通になっていくっていうか。
ありえないよねって言ってたのに、今は私に「笑って」って言ってくるんです。
もうほんと、私、怖くて。い……今までがんばってポイント集めてたんですけど、もう無理で。
A先生は気づいてくれてて、がんばろうって言ってくれてたんです。
A先生もおかしいって思ってたみたいで。
でも、学校でそれを言っちゃうとよくないから……なんとか三年間乗り切ろうねって、こっそり励ましてくれてたんです。
でも、私が駄目だったから、A先生に……迷惑かけちゃいました。
もうA先生、駄目だと思います。私ももう駄目です。
さっきからずっとほっぺたが痛いんです、だからもう手遅れなんです。
A先生今度友だちが来るって言ってました。
外の人からウチの学校を見てもらえば絶対問題になるはずだから、もうちょっとの辛抱だからって、それ野月さんのことですよね! だから私野月さんに直接この話をしたくってそれでID渡したんです。
お願いしますなんとかしてください私たちを助けてください
私絶対に嫌ですカウンセリング受けたくないんです
みんなあそこに行ってからおかしくなったんですA先生も私も逃げられませんあいつが――!
……。
――……あっ。どうしよう、ど、うしよう……!
ヤバいヤバいヤバい! 来る、来ちゃった、ヤバい、嫌だっ……やだやだやだやだ!
やだあああっ!
え、えひっ――……
(通話終了)
WさんとのLINE
野月「どうしたの?」
野月「大丈夫?」
野月「なにかあった?」
野月「なんでもいいよ、アクションちょうだい!」
(すべて未読)



