覇王令嬢の野望 ~絶対平和主義の少女に転生した最強女帝の帝国再建譚~


「うーむ……まことか?」

 部下の報告を聞き、動揺が隠せない。

「はい。複数の貴族がそう報告していますし、間違いないかと」
「わかった。殿下に報告しよう」

 私は頷くと、野営幕を出て、別の野営幕に向かった。

「殿下、レンナルトです。報告があります」
「入れ」

 中に入ると、鎧を着たフェリックス殿下が帝都周辺の地図を見ながら考えていた。

「どうですか?」
「厳しい。敵があまりにも多い」

 レナード公爵はかなり前から準備していたようで多くの貴族を味方につけていた。
 こちらの軍より遥かに多いし、情勢はかなり厳しい。

「さようですか……」
「うーむ……レンナルト、それで報告とは?」

 殿下が顔を上げた。

「西の方で動きがありました」
「西? どこだ?」
「イェルク様とザームエルです」

 さすがに反逆者の子であるザームエルに敬称はつけない。

「あいつらか……エルデン地方を狙ったか?」

 両者が争うならそこになる。

「そのようです」
「結果は? どっちが勝った?」
「いえ、どちらも負けました」
「どういうことだ?」

 殿下が怪訝な顔になった。
 気持ちはわかる。

「どちらもヘルミーネ様に打ち破られたとのこと……」
「は? ヘルミーネが? どういうことだ!? 詳しく話せ!」

 殿下も動揺している。

「はい。イェルク様、ザームエルの両者は軍を出し、エルデンを狙ったようですが、イェルク様の軍はヘルミーネ様率いる騎兵隊に奇襲され、破られました。その隙をつき、フロイエンを攻撃したザームエル軍も帰ってきたヘルミーネ様の騎兵隊に打ち破られました、しかも、ザームエルは戦死し、そのまま進軍した軍勢にボーディーの町も落とされたとのことです。さらにはヘルミーネ様がヴィリー様をリーベン地方の領主に任命し、リーベン地方の町々はヘルミーネ様に降伏したと……」

 うーん……すごいな。

「まことか? 偽情報では?」
「周囲の貴族からの情報です」
「うーむ……あのヘルミーネが……信じられん」

 気持ちは本当にわかる。
 何よりもエルデンにはそこまでの兵士はいなかったはずだ。

「殿下、ヘルミーネ様は普通ではありません」
「わかっている。放ってはおけんな」
「実はまだ報告があります」
「まだあるのか……何だ?」

 殿下は嫌そうな顔をしている。

「実は教会も騒いでいまして……帝都を含めたあちこちの町で聖女であるヘルミーネ様こそが皇帝にふさわしいと噂を流しています。それにより、住民もヘルミーネ様を帝国を救う聖女と認識し始めています」

 すごい勢いらしい。

「くっ! 教会め! 何故、ヘルミーネにそこまでの肩入れをする!?」
「前皇帝は教会をよく思っておらず、ないがしろにしていたところがあります。そのせいかと……」
「教会にいたヘルミーネが皇帝になれば、自分達を優遇し、金を出すと踏んだか! あの生臭共め!」

 教会も帝国の混乱に乗じているのは確かだ。
 そんな中で主の声を聞いたと言い張る帝位継承権を持つ娘が現れたから便乗したのだろう。

「いかがなさいますか?」
「教会を抑えられんか?」
「それはやめた方が良いと思います。教会を敵に回せば、民衆から反感を買います。特にこの状況では……」

 現在、レナード公爵軍と帝都近くで争っているが、少なからず、帝都の民衆にも犠牲が出ている。
 レナード公爵との争いが長々と続いているため、我らも民心を失いつつあるのだ。

「くっ! しかし、どうする? ヘルミーネは皇帝気取りで勝手に領主を決めたぞ。黙っておくわけにはいかん。それにちゃっかり、ウルスラとヴィリーもヘルミーネについている」

 それはウルスラ様とヴィリー様を殺さなかったからだ。
 あの2人は早々に逃げたが、追手を出せば殺せた。
 ウルスラ様はともかく、ヴィリー様だけは絶対に殺さないといけなかったのだが、殿下が兄弟の情に流されてしまったのだ。
 殿下のこういう甘いところを前皇帝陛下は嫌っていた。

「殿下、ここはこちらもヴィリー様をリーベン地方の領主に任ずるという使者を出しましょう。それならば、ヘルミーネ様が決めたのではなく、次の皇帝である殿下が決めたことになります」

 向こうはそう思わないだろうが、こちらの民衆はそう思う。
 それにどっちにつくかを決めかねている貴族共に殿下の度量の広さを示せる。

「わかった。そうせよ」
「はっ!」

 こういう決断は早いんだよな……
 平時なら良き皇帝になれるだろうが、乱世では……

「しかし、ヘルミーネはどうする? 勢いづいているぞ」
「そこは放っておきましょう。ヘルミーネ様がこちら側に来るにはイェルク様を倒さねばなりません。確かに先の戦いでは勝ったようですが、次はイェルク様も冷静に腰を据えて戦うでしょう。そうなれば、資源、兵で勝るイェルク様相手には適いません。何よりもイェルク様の軍には魔導兵がおります」

 魔導兵は魔法を使う軍隊であり、遠距離魔法をバンバンと放ってくるため、万の敵もあっという間に溶けてしまう恐ろしい軍勢だ。

「そうなると、イェルクが脅威になるな」
「ヘルミーネ様も勢いづいていますし、どちらにせよ、両者が争ってくれるのですから損はありません」

 一番良いのはどちらもお互いの力を削いでいくだけの泥仕合になることだ。

「わかった。西のことはひとまず置いておこう。まずはレナードだ」
「はい。レナード公爵の軍は大軍ですが、奴には人徳がありません。ついている貴族連中に道理を説き、離間の計で兵力を削いでいくのはどうでしょうか?」

 レナード公爵は傲慢だし、元々人気のある男ではない。
 ついている連中も利でついているだけだ。

「時間がかかるが、それが良いか。わかった。それで進めよ」
「はっ! すぐにでも取りかかります!」

 一礼し、野営幕を出ると、歩き出す。

「ふう……」

 厳しい……
 どう考えても後手後手だ。
 それに引き換え、ヘルミーネ様は……

『ついていく者をしっかり見極めねばならぬぞ』
『私以外に天に立つ者はおらぬということだ』
『すべては予定通りだ。レンナルト、いつでもフロイエンに来るがいい。早めに来れば来るほど人材が足りぬ私は重宝するぞ。無能でも将軍にしてやる』

 近頃、ヘルミーネ様にかけられた言葉が反芻する。
 あの方はあの時にはすでに帝国がこうなることがわかっていたのだろうか?
 どうするか……いや、私は殿下のために働かなければならない。
 少なくとも、レナード公爵は絶対に倒さなければならないのだ。

「ハァ……」

 厳しい……



 ◆◇◆



「うへー……」
「ほえー……」

 私とミーネは温かいお風呂に入り、溶けるような気持ちよさを堪能している。

「ええのー……」
「うん……」

 風呂から上がったらご飯を食べて、ふかふかベッドにダイブだ。

「ミーネ、勝ったぞ」
「うん。これで町は救えたね」
「ああ。リーベン地方もすぐに手に入るし、ヴィリーは優しいから良い政治を行うだろう」

 ヴィリーの後ろには私やウルスラがいるのだから舐められることもない。

「良かった……でも、終わりじゃないんだよね?」
「ああ。次は西だ。今回のことでイェルクとは完全に敵対した」

 煽ったしな。

「対話は?」
「リーベン地方を手に入れてもまだ向こうの方が上だ。向こうから来る」
「そっか……平和って難しいね」
「ここまで乱れているからな。正直、イェルクがいつ皇帝を名乗ってもおかしくない」

 あそこはそれだけ大きいのだ。

「いける?」
「私の敵はおらん。それに良いことを教えてやるが、あの地方は何度も戦争をしたから地理に詳しいのだ」

 300年でちょっと変わっておるかもしれないが、大まかには一緒だろう。

「そっか……」
「争いは嫌か?」
「うん……でも、帰って来た時の町の皆の笑顔が忘れられない。守らないといけないんだよね」
「ああ。そして、それはこの町だけじゃない。帝国全体だ」

 すべてが我が民なのだ。

「頑張ろう」
「ああ」

 争いのない平和な国という絵空事のようなことを目指して……



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いつもお読み頂き、ありがとうございます。
本日より本作の第1巻が発売となります。
web版を読んでいる方も楽しめるように改稿、加筆も行いましたので読んで頂けると幸いです。
ぜひとも手に取って読んでいただければと思います。

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