休憩を挟みながらも数時間くらい進んでいくと、森の出口が見えてきた。
「全軍、止まれ!」
手を上げ、騎兵隊を止めると、ユルゲンと共に森の出口に向かい、外を覗く。
すると、町が見えるのだが、北門の方に軍勢が押し寄せていた。
「リーベン軍か」
「お嬢様、後ろにも軍がいます」
「ザームエルだな。高みの見物といったところだろ」
まあ、攻城戦で先頭に立つ大将はいない。
「攻めているのは北門だけですね」
「こちらの数が少ないからな。強引にいけると判断したんだろ。今日中に片を付けたいんだ」
「西門から町に入りますか?」
今ならすんなり入れるだろうな。
「バカ。ザームエルは4000の兵を分けたのだぞ? 後ろの本陣を見てみろ。1000もおらん」
町に迫っている軍は大軍だが、後ろは手薄だ。
まあ、他に敵がいないと思っているんだろうな。
「行きますか?」
「もちろんだ。軍を呼べ」
「はっ!」
ユルゲンが戻っていき、騎兵達を呼ぶ。
すると、皆がゆっくりとこちらにやってきた。
「皆の者! 敵将ザームエルは軍を分けておる! 町を攻めている軍は町の兵に任せ、我らは本陣を叩く! 神敵であり、反逆者であるザームエルを討つぞ!」
「「「おーっ!」」」
士気は落ちていない。
「全軍、我に続け! 突撃っ!!」
森を出ると、いっきに後方の部隊に向かって駆けていく。
そして、町の近くくらいまで来ると、町を攻めていた軍の一部がこちらに向かってきた。
「お嬢様、気付かれたようです!」
そりゃそうだろうな。
「ユルゲン、半分の兵を率いて、こちらに向かってくる軍に突っ込め! そして、合図を送り、町の兵に打って出させよ!」
「はっ! 第4、第5部隊は私に続け! 敵を蹴散らすぞ!」
ユルゲンが方向転換し、右の町を攻めている軍勢に突っ込んでいった。
私は変わらずに後方の軍勢に向かって駆けていく。
すると、帝国の旗が見え、そこには豪華な白銀の鎧を着た将を見つけた。
「ザームエル! ここがお前の墓場だ!」
弓を引き、矢を放つ。
矢はまっすぐ騎乗しているザームエルに飛んでいったが、隣にいた男が身を挺して守った。
そして、ザームエルの歩兵部隊が強そうな男を先頭にこちらに突っ込んでくる。
「厄災の子! このヤーコブが相手だ」
「んー?」
馬に乗っているヤーコブとやらは歩兵を置いていき、1人でやってくると、槍で突いてくる。
しかし、そんなものは簡単に躱した。
「知らぬ! 雑魚はどけ!」
「ぐあぁっ!」
馬と馬がすれ違う時に腹を斬ると、馬から落ちていった
そして、そのまま突っ込むと、将を失い、動揺が見える歩兵に突っ込んでいく。
勢いづいた鉄騎兵の前には動きが鈍った歩兵なんかは紙同然なのであっという間に歩兵を蹴散らし、ザームエルに迫った。
「た、退却だ! 引け! 引け!」
ザームエルはそう指示をすると、単騎で逃げていく。
すると、周りにいた兵も背を向けて逃げ出した。
「逃げるな、ザームエル! 10歳の妹を相手に背を向けるのが男子か!」
「黙れ! 厄災め!」
「ははは! では、その厄災の矢を受けるがいい!」
弓を引き、矢を放った。
その矢はまっすぐ飛んでいき、今度は誰も庇わずにザームエルの背中に刺さる。
「ぐわぁっ!」
ザームエルは落馬し、ゴロゴロと転がった。
しかしながらなんとか受け身を取ったようでなんとか立ち上がる。
「さようならだ」
「あっ……」
追いつくと、駆けていく勢いのまま、ザームエルの首を刎ねた。
「ザ、ザームエル様!?」
「ザームエル様が打ち取られたぞー!?」
「退却! 退却だ! 鐘を鳴らせ! 総員退却!」
カンカンカンと鐘の音が鳴り響くと、町の方で戦っている軍勢も陣形も何もなく、退却していく。
統率も何もない総崩れである。
「ヘルミーネ様、追い打ちをかけますか?」
騎兵の一人が聞いてくる。
「よい。それよりもノルベルトを呼べ」
「はっ!」
騎兵が駆けていく。
「ヘルミーネ様、ここは危険です! お下がりを!」
「総崩れの軍とはいえ、まだ何千もいます!」
逃げる軍の通り道にいるのでここは危険だ。
「わかった」
私は騎兵を率いて、西の方に避ける。
そして、逃げていく3000以上の兵を眺めながら待っていると、軍を率いたノルベルトとユルゲンがこちらにやってきた。
「ヘルミーネ様、大勝利です!」
「おめでとうございます!」
見ればわかるわ。
「うむ。ノルベルト、軍を率いてボーディーの町に向かえ」
「落とすのですか?」
「大将を失くしたからもうどうしようもない。ヴィリーが次の領主になるからと開門を迫れ」
それで門は開く。
「はっ! 逃げている兵はいかがしますか? 今なら簡単に倒せます」
「逃げている兵に剣を捨てたらそのまま町に帰ってよいと伝えながら進軍せよ。罪を問うこともないし、好きにすればよいとな。許せば、ボーディーの町を獲った時にまた徴兵に応じよう」
ザームエル様は帝都貴族だし、ボーディーの町の人間は思い入れがない。
これが地元出身で人望がある人間だったら難しいが、ザームエルにそんなものはないだろう。
「わかりました」
「ああ。わかっているだろうが、略奪は禁止せよ。我が軍は神の軍ぞ」
「もちろんです」
まあ、ノルベルトならわかっているか。
「よろしい。すぐにいけ。リーベンを抑えよ」
「はっ! 我らはボーディーの町に向かうぞ! 続け!」
ノルベルトは軍を率いて、逃げていく敵軍を追っていった。
「皆の者、我らの勝利ぞ!」
「「「おーっ!」」」
「「「ヘルミーネ様、万歳!」」
「「「聖女様、万歳!」」」
皆が槍を掲げ、勝利を祝う。
「これより我らはフロイエンの町に帰還する! 勝って当たり前という顔で凱旋し、町の者達を安心させてやれ!」
「「「はっ!」」」
私達はゆっくりと進んでいき、北門より町に入ると、大通りを凱旋していく。
「よくやったぞー!」
「勝ったんだー!」
「ヘルミーネ様、ばんざーい!」
「聖女様、ばんざーい!」
多くの町民が歓迎してくれ、紙吹雪まで舞っている中を堂々と進んでいくと、丘を登って、屋敷の前までやってきた。
すると、ディアナとマルセルだけでなく、ウルスラとヴィリーまで出迎えてくれる。
「おめでとうございます」
「さすがは聖女様です」
「おめでとうございます……」
「あんた、本当に勝っちゃうのね……」
ディアナとマルセルが深々と頭を下げ、ヴィリーも姉に隠れながら頭を下げたが、ウルスラは呆れている。
「勝つと言ったであろう? 良かったな。毒を飲まんで済んだぞ」
「それはそうね」
「ヴィリー」
ヴィリーを見る。
「は、はい……」
「姉に隠れるな。堂々としろ」
「う、うん……」
ヴィリーがおずおずと前に出てきた。
「今、ノルベルトがボーディーの町に向かっておる。ザームエルは討ったし、すぐにリーベンの地はこちらのものになる。そうしたらお前にはボーディーの町に行き、領主になってもらう」
「わ、私にできるでしょうか?」
できそうにないなー……
「やれ。姉が助けてくれるし、周りの者が補佐する。お前も偉大なるクローネンシュタールの名を持つ者だ。帝国の危機を救うためにその身を捧げよ」
「わ、わかりました。ヘルミーネ様に従います……」
ヴィリーが頭を下げた。
ちゃんと姉から教わったらしい。
「ウルスラ、そういうことだ」
「ええ。でも、勝手にそんなことしていいわけ?」
領主を決めるのは皇帝だ。
「今の皇帝はレナードか? フェリックスか? どちらにせよ、知ったことか。現場の判断だ」
「それもそうね。まあ、私は平和なところで生活できればそれで良いわ。どうせどこぞに嫁がされるんでしょうけど、良い相手にしてね」
ウルスラもわかっているようだ。
まあ、それはヴィリーがもうちょっとしっかりしてからだし、先の話になる。
「良い相手がいたらな。マルセル、我が軍は勝利し、反逆者ザームエルは討ったと町民に伝えよ。また、いつでも兵士を募集しているともな」
「かしこまりました」
マルセルが一礼する。
「ユルゲン、騎兵を解散させろ。それと昼に帰ってくる遊撃隊から報告を聞け」
「かしこまりました」
ユルゲンも一礼した。
「お嬢様、さすがに休まれてください」
ディアナがそう勧めてきたので馬から降りる。
「ああ。風呂に入って、ベッドで寝る」
「用意しています。どうぞ中へ」
ディアナが促してきたので屋敷に入ると、風呂場に向かった。
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いつもお読み頂き、ありがとうございます。
明日、本作の第1巻が発売となります。
web版を読んでいる方も楽しめるように改稿、加筆も行いましたので読んで頂けると幸いです。
ぜひとも手に取って読んでいただければと思います。
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よろしくお願いします!

