森の中を進み、数時間が経つと、前を進む騎兵達のスピードが落ち始め、ついには止まってしまった。
「何だ?」
「前方で何かありましたかね?」
伏兵か?
いや、伏兵がいるならば、来る時に襲っているはずだし、兵に混乱している様子はない。
「馬が潰れたか……ん?」
「伝令! 伝令! ヘルミーネ様はいずこにおられるか!?」
前の方から鎧を着ていない兵士が走ってくる。
「ここにおる! 何事か!?」
返事をすると、伝令がこちらにやってきて、下馬し、跪いた。
「ご報告します! リーベン軍が動き出し、昨夕、フロイエンに到達! 敵大将はザームエル! 数は4000! 町ではすでに籠城戦が始まっております!」
その報告を聞くと、騎兵達がざわざわと騒ぎ出し、動揺が走る。
「落ち着け! すべては天使の言う通りであるし、こちらの計算通りである! 何も問題はない! 伝令、お前は先に帰り、ノルベルトに伝えよ。こちらは上手くいった。後は作戦通りに動けとな。我らは主に勝利が約束されておる」
「はっ!」
伝令は馬に乗ると、そのまま戻っていった。
「ユルゲン、今は何時だ?」
「2時を回ったところです」
ユルゲンが懐中時計を見ながら報告する。
「よし……皆の者、よく聞け! リーベン軍がフロイエンに到達したようだが、奴らは少数のこちらを舐めておる! 必ずや、夜の攻撃はしておらぬし、早朝より攻撃を再開するだろうから時間はある! この場で少し休憩とするから馬を休ませよ!」
そう言うと、皆が馬から降り、その場に座り込んだ。
さすがに疲れているのだろう。
「ユルゲン、被害を確認せよ」
「はっ」
ユルゲンが騎兵の数を確認しながら前の方に進んでいったので私も下馬し、水を飲む。
「大丈夫?」
ミーネが心配そうな顔で聞いてきた。
「問題ない。少し疲れたのと眠いのはあるがな」
「そうだね。兵士さんはどうかな……」
ミーネが心配そうに休んでいる兵士達を見る。
「奇襲は成功した。たいした被害はないと思う」
敵は完全に油断していた。
見張りすらいなかったのは意外だったが、あのダニエルとかいう男は兵を率いた経験がないのかもしれない。
「フロイエンは……大丈夫だよね?」
「ノルベルトが10日は持ってみせると言っておっただろう。あの町は堅固だし、300でも充分に守りきれる」
「そっか」
ミーネはほっとした様子だ。
私達がこっそりクッキーを食べながら待っていると、ユルゲンが戻ってきた。
「お嬢様、被害はありません。ただ、矢に当たり、負傷した者がおります」
「ほ、ほうか……」
もぐもぐ、ごっくん……
「ノーレ、癒してあげるべきじゃない?」
「兵の矢傷は名誉ぞ。放っておけ」
「可哀想だよー」
本物の聖女様はお優しいな。
「ユルゲン、先頭に出るぞ。ついでに負傷した者を教えろ」
「はっ!」
ユルゲンが馬を引いてくれ、一緒に前に出る。
すると、足を押さえる兵がいた。
「こやつか?」
「ええ。流れ矢に当たったそうです」
ふーん……たいした傷じゃないな。
「ヘルミーネ様、私はまだ戦えます! 早くフロイエンに参りましょう!」
士気は高いな……
「わかっておるが、今は休む時だ。朝方には出立する。主のために、町の平和のために戦え」
「はっ! リーベン軍など打ち破ってみせます!」
うんうん。
「傷を見せよ。治してやる」
「せ、聖女さまにそのようなことをさせられません! 汚れてしまいます!」
「戦場で何を言っておるんだ……おい、このやかましいのを抑えよ」
左右の兵士に命じると、2人が負傷した兵を押さえつける。
「おやめ下さい! 軽傷で――ぐっ!」
真っ赤に染まった包帯を手で押さえつけると、ようやく黙った。
「よいか? 私への配慮なぞ何の意味もない。お前達は万全の状態で1人でも多くの兵を倒すことのみを考えよ。これはフロイエンの町を守る聖戦だ。我らが町を出る時に住民の不安そうな顔を見ただろう? もし、我らが負ければ町は略奪により滅ぶ」
有能な将なら後のことを考え、略奪を抑えるが、ザームエルは無理だろう。
「は、はい」
「戦え! 騎兵部隊は1つの生き物として進み、突撃をもって敵を蹂躙する。足が痛くて遅れを取ったら恥だと思え!」
「はっ!」
傷を治し終えたので手を離し、立ち上がる。
「優しくないなー……慈愛は?」
「兵に戦うことを勧めるのが慈愛だ」
その後も10人くらいの負傷を治していき、部隊の前に出た。
「お嬢様、いつまで休まれますか?」
ユルゲンが聞いてくる。
「夜に行ってもザームエルの軍は町近くに駐屯しておるし、夜襲には備えておる。日が昇り始める時までだな」
「でしたらお嬢様もお休みください」
ユルゲンがそう言って毛布を渡してきた。
「そうするかな……4時前には起こせ」
腰を下ろすと、木に寄りかかり、毛布を巻く。
「かしこまりました」
ユルゲンが頷いたので目を閉じた。
「お嬢様、お嬢様……」
「んー……?」
「そろそろ4時でございます」
「そうかぁ……」
立ち上がり、空を見上げると、うっすらとだが、空が見えていた。
「体調はどうでしょう?」
「良いわけないな。帰って、さっさと風呂に入りたい」
「では、そうしましょう。皆の者、参るぞ!」
ユルゲンがそう言いながら馬に乗ると、皆も乗り始めたので私も乗る。
ミーネも起きてきて、近くでふよふよと浮いた。
「皆の者、よく聞け! 敵は4000だが、我らは最強の鉄騎兵である! 先程も5000の兵を破った! 慢心している4000のリーベン軍など相手にならぬ! 愚かな侵略者に神の兵の力を見せてやれ!」
「「「おーっ!!」」」
んー?
「やけに兵の士気が高いな……」
先程の戦いに勝ったとはいえ、皆、疲れているだろうに。
「聖女様のもとで戦えるからですよ。寄り添ってくれる領主ですし、皆やる気に満ちているのでしょう」
ふーん……まあ、士気が高いなら何でもいいか。
「行くぞ!」
私達は出発すると、一気に森を駆けていった。

