覇王令嬢の野望 ~絶対平和主義の少女に転生した最強女帝の帝国再建譚~


 私達が森を進んでいくと、徐々に辺りが暗くなった。

「お嬢様、この辺がよろしいのでは?」

 ふむ……

「全軍止まれ! ニコラウス!」
「はっ!」
「この辺りがよかろう。この地に伏せ、我らが通った後に追ってきた敵軍を襲撃せよ。適当に迎撃したらまた森に戻れ。そして、明日の昼には町に戻れ」
「はっ! 遊撃隊は森に入れ!」

 ニコラウスが指示をすると、鎧を着ていない歩兵達が森に入っていく。

「ニコラウス、遊撃隊は正規兵である。そして、何よりもこのヘルミーネ・クローネンシュタールの兵である。負けることは許されん」
「承知しております!」
「勝てば褒美も期待しておくように部下に伝えよ」

 飴もちゃんとあげないといけない

「はっ! ありがたき幸せ!」
「よろしい。では、我らも参るぞ」

 私達騎兵も出発し、森を進んでいく。
 そして、ついには真っ暗になり、月明りもロクに届かなくなった。

「お嬢様、そろそろです」
「ああ。斥候を出せ」
「私が参ります」
「頼む。全軍止まれ!」

 騎兵を止めると、ユルゲンが単騎で先に進んでいった。
 そして、そのまま待っていると、ユルゲンが戻ってくる。

「お嬢様、敵は完全に油断しており、かがり火すらも焚いておりません」

 だろうな。
 奴らは攻める気がないのだ。
 そして、こちらが攻めてくるとも思っていない。
 何故なら、奴らの仕事はウチとザームエルが争いを始めた後の予定だからだ。

「これより夜襲を行う! 我は主より勝利を約束されておる! 国のため、民のため、そして何よりも主のためにその命を捧げよ! 全軍、我に続け!」

 そう言って、馬を一気に走らせると、皆がついてくる。

「お嬢様、お下がりを!」

 ユルゲンが追いつき、諫めてくる。

「アホ。大将が真っ先に突っ込んでこそ、士気が上がるのだ。騎兵は突撃こそ最上!」

 こっちは少数なのだからこれしかない。
 ましてや、この私が後れを取るものか。

「くっ……全軍、聖女様に続け! 聖戦であるぞ!」

 私達は一気に森を抜けると、そのまま目の前にある陣に突撃していく。

「火矢を浴びせよ! 声を出し、敵を混乱させよ!」
「「「おーっ!!」」」

 陣は木製の柵で作られた簡単なものだったので簡単に突破し、陣に侵入した。
 そして、火矢を放ちながらあちこちの野営幕に火をつけていく。
 すると、その野営幕から鎧も着ていない兵士が続々と出てきた。

「な、何だ!?」
「敵だっ!」
「敵襲っ! 敵襲っ!」
「誰か剣を――ぐあっ!」

 出てきた兵を斬っていく。
 騎兵達も火矢を浴びせながら出てきた兵を槍で倒していった。

「くっ! 貴様が厄災のヘルミーネか!?」

 んー?

 声がしたので見てみると、髭を生やしたおっさんが私に弓矢を向けていた。

「そうだが? お前は何者だ? 名を名乗れ」
「私はダニエルだ! 死ね、ガキ!」

 ダニエルが矢を放ってくる。
 意外にも腕があるようで矢はまっすぐこちらに飛んできた。
 しかし、私の顔に到達する前にその矢を掴む。

「わはは。腕は悪くないな」
「なっ!? バ、バカな!」
「主に守られている私に矢が当たるか!」

 掴んだ矢を弓につがえ、放つ。
 すると、矢がダニエルの右足に刺さった。

「ぐあぁ!」
「ははは! 今のはわざと殺さなかったのだぞ? さっさと帰ってイェルクに伝えよ。弱すぎてこのヘルミーネの相手にならんとな」
「くっ!」

 そろそろかな?
 もうかなり燃えているし、この陣は使えないだろう。

「退却!」
「全軍、退却だ!」

 私達は馬を返し、駆けていく。

「おのれ! 逃がすな! 追え! 追え!」

 ほらね。
 殺さなくて正解。
 あんな小物を殺しても何の価値もない。
 ただ、追ってきてもらい、兵の数を少しでも減らさなければな。

 私達は陣を出ると、森に向かう。

「お嬢様が先に行ってください!」
「アホ。私はしんがりだ。じゃなきゃ、奴らは森まで追ってこん。撤退! 撤退だ! さっさと帰るぞ!」

 騎兵がどんどん森の中に入っていくと、陣から追手の騎兵と歩兵が出てきた。
 数は500といったところだ。

「お嬢様、行きましょう!」
「ああ」

 全軍が森に入ったので私とユルゲンも入った。
 そして、暗い街道を走っていく。

「ついてきてますな」

 後ろには敵軍が迫ってきていた。

「普通は森に入ったら追ってこん。でも、わかりやすいエサがおる」

 誰もが敵の大将を捕えたいだろう。
 ましてや、それが弱そうな少女ならなおさら。

 私達はひたすら進んでいくが、追手はまだ来ている。

「少女を追いかけるが趣味とは大層な兵だな!」

 後ろの追手を煽る。

「黙れ! 厄災め! よくも火を放ったな! 絶対に許さぬ! 追え! 追え!」

 ははは。
 あいつら、相当、頭に来ているな。

「お嬢様、そろそろです」
「あいよ。愚かな兵士達よ! 森に入れば伏兵に気を付けろという兵法の基本くらいはちゃんと勉強しておけ!」

 そう言うと、左右から遊撃隊が現れ、追手の兵に襲いかかった。

「何ぃ! なっ!?」
「ぐあぁ!」
「伏兵だ!」
「逃げろ!」
「何をしている!? 早く下がれ!」
「詰まっているんだ! 下がれるか!」
「くそっ! 戦うんだ!」

 ははは!
 大混乱だな。
 一方でこっちは毎日のように森を走らせ、ゲリラ戦を熟知した兵だ。
 相手になるまい。

「バーカ! イェルクに兵法でも教えてもらえ!」
「おのれ! 厄災めー!!」

 この場を遊撃隊に任せると、そのまま引き返していった。