ザームエルの使者が来てから10日が経った。
その間、毎日のようにウルスラとヴィリーが来て、入り浸っていた。
「お前ら、そんなに暇なのか?」
「暇よ。それにここのお菓子の方が美味しいじゃないの」
そりゃ領地中から甘味を集めているからな。
「ヴィリー、美味しいか?」
「うん!」
そうか、そうか。
「お嬢様!」
ノックもなしに扉が開き、ユルゲンが顔を出す。
「何だ?」
「イェルクが動きました!」
はいはい。
「ノルベルトとマルセルを呼べ」
「すでにおります」
ユルゲンがそう言うと、ノルベルトとマルセルが部屋に入ってきた。
「ヘルミーネ様、ユルゲン殿がおっしゃるようにイェルクが動きました」
ノルベルトが報告してくる。
「どう動いた?」
「ダニエルという将が一軍を率いて、森の手前で陣を敷きました。その数3000」
ほう?
「マルセル、ダニエルとは?」
「ラインの町の名士の子です。能力まではわかりません」
地元の将か。
「ザームエルに動きは?」
「ありません」
なんとわかりやすい奴だ。
「よろしい。こう上手くいくと笑えてくるな」
「上手くいってるの? ピンチじゃないの」
んー?
「どこがだ?」
「敵は3000。こっちは2000でしょ」
ハァ……素人め。
まあ、帝都でのほほんと暮らしていた皇女にはわかるまい。
「ノルベルト、騎兵はどれくらいいる?」
「500ほど」
結構いるな。
「よろしい。例の部隊を150ずつに分け、森の中に伏せさせる。合図を送ったら打って出させる。私が500の騎兵を率いて、ダニエルに当たろう」
「ヘルミーネ様、自ら御出陣なさるのですか?」
他にいないだろ。
「当たり前だ。お前は残り500でこの町を守れ」
「500ですか? 農民兵を集めればもう700は加わります」
「今回はよい」
いらない、いらない。
「ヘルミーネ様、恐れながらザームエルが来たら500では守り切れません。農民兵を加えるべきです」
1000で万を超える敵を倒せるって豪語してたくせに。
「この私の初陣は皆が私を嘘つきと罵るか、本当の聖女と認めるかの大事な一戦である。農民兵は加えないし、常備兵でのみ戦い、我が名を高めるのだ。そうすれば、何もしなくても志願兵が集まる」
もうここまで来たら聖女で通すしかないのだ。
「それはそうかもしれませんが、500は……」
「500でないとザームエルが出てこないだろ」
「ッ! ヘルミーネ様はこの度の戦でザームエルを討つおつもりですか!?」
ノルベルトが驚く。
「討たねばならぬ。リーベン地方は山々の土地であり、こちらから攻めるのは非常に厳しい。もし、この度の戦でザームエル軍が負けたら奴は守りを固める。そうすればもっと厳しくなる。しかし、今ならいける。奴を油断させ、引きずりだすぞ。奴も勝てる戦なら自らが率いてこよう。敵の大将を討てば後は掃討戦ぞ? 一気にボーディーの町を落とし、リーベン地方を奪ってしまえ」
後はヴィリーにそこを治めさせればよい。
それで後方の憂いがなくなり、じっくりとイェルクを相手にできる。
「かしこまりました。作戦は?」
「適当に粘っておけ。ただし、絶対に打って出るな。打って出る時は合図を送る。その時は全軍を出し、ザームエルを討て」
「はっ! すぐに準備を致します!」
ノルベルトが一礼し、部屋を出ていった。
「お嬢様、私がお嬢様に付き従います」
ユルゲンがついてきてくれるらしい。
まあ、ディアナはないか。
「わかった。ディアナ、ウルスラとヴィリーを頼む」
「かしこまりました」
ユルゲンとディアナが一礼する。
「私はどうすればいいの?」
ウルスラ?
「いつも通り、茶でも飲んで遊んでおけ。下手に不安な様子や動揺を見せるな。勝って当たり前。そのスタンスでいけ」
「あっそ」
「わかりました……」
ウルスラが優雅にお茶を飲み、ヴィリーはおずおずと頷いた。
「マルセル、町のことは任せたぞ」
「はい。ご武運を」
マルセルも一礼し、下がっていく。
「ディアナ」
立ち上がると、ディアナが腰にベルトと共にショートソードをつけてくれる。
そして、弓と矢筒を渡してくれた。
「残りの矢はユルゲンが持っています」
「わかった。ユルゲン、参るぞ」
「はっ」
私達は部屋を出ると、階段を下り、不安そうな大中小のメイドに見送られて屋敷を出る。
すると、屋敷の前にはすでに鉄騎兵が集まっており、さらにはノルベルトが馬を2頭持ち、待っていた。
「一応の確認ですが、乗馬は?」
「何も問題ない」
そう言って、馬に乗ると、矢筒を設置する。
「それではこちらの方はお任せください。最低でも10日は持ってみせます」
「そんなに時間はかからん。少数がやることは速攻しかない。明日には終わらせようぞ」
戦力差があるなら長期戦は下策だ。
「はっ! 聖女様に祝福を!」
「うむ。では、参ろうぞ。皆の者、続け!」
私を先頭に騎兵隊がゆっくりと丘を降りていく。
そして、町の大通りを進んでいくが、住民が不安そうな顔で見守っていた。
「ミーネ、怖いか?」
すぐそばで浮いているミーネに声をかける。
「うん……」
「安心せい。私は負けぬ」
「人がいっぱい死ぬかな?」
「そうなるな。でも、周りを見てみい」
ミーネが不安そうな住民達を見る。
「そいつらを守る戦いだ。ノルベルトも言っておったが、軍人は死ぬことが仕事。それはこの民達の命、財産、生活を守るためだ」
そのために日々鍛え、戦い、安くない給金をもらっているのだ。
「うん……」
「私に任せよ。恨まれ、反乱を起こされまくった私だが、多くの民を守ってきた」
勝てば良いのだ。
「お願い」
私達は門から外に出ると、街道を進んでいく。
すると、西の森に入る街道の手前で鎧を着ていない例の軍が待っていた。
「ヘルミーネ様、お待ちしておりました。この遊撃隊の将を務めますニコラウスです」
まだ若い男が敬礼をする。
「よろしい。これより全軍に作戦を説明する! 敵はこの森の先に陣を構える1500の兵だ! 奴らは戦う気もなく、そこで見ているだけの雑兵である! 我らはこれより街道を進み、夜更けに夜陰に乗じて奇襲を敢行する! そして、適当なところで退却するが、追ってきた敵を森に伏せた遊撃隊が仕留めよ! それで敵は終わりだ!」
「「「はっ!」」」
まあ、敵の数が減っているが、そこはご愛敬。
「では、参るぞ!」
私達は森に入り、ゆっくりと進んでいった。

