覇王令嬢の野望 ~絶対平和主義の少女に転生した最強女帝の帝国再建譚~


「ヘルミーネ、どう考えても嘘でしょ? 罠に決まっているわよ」

 ウルスラはジト目が似合うな。

「ははは。何を言うか。一族の血はワインよりも濃いのだぞ」
「ふっ、今のは面白かったわ」

 そうか、そうか。

「マルセル、続けよ」
「はっ。共に手を組み、帝国を正したいと思うが、その前にこちらにイェルクからの使者が来た。協力してエルデン地方を攻め、その地を分けたいと。自分は実の妹を攻めることはできないから拒否するつもりではあるが、用心されたし、と」

 ほう?

「優しい兄だな」
「どこがよ。その協力もザームエルの方から要請しているんじゃないの?」

 それはしてないだろうな。

「マルセル、終わりか?」
「はい。ウルスラ様がおっしゃるように罠だと私も思います」

 皆、そう思っているだろうな。
 ミーネですらそう思っている。

「お前らは何もわかっていないな。これが罠かどうかはどうでもよいのだ。論点はそこじゃない」
「と言いますと?」
「ザームエルが心を入れ替えようと、腹に何かを持っていようとどうでもよい。結局は敵であり、討たねばならぬ男だ。問題はそこではなく、バカが自ら手の打ちを晒し出したことだ」

 実に愚かだ。

「お嬢様、どういうことでしょうか?」

 ディアナが聞いてくる。

「奴は楽な道を取ったのだ。自分達の力だけでここを落とせると思っているだろうが、少なからず、犠牲は出る。そんな中、頑張って落としてもすぐに西のイェルクが漁夫の利を狙って攻めてこよう。それは嫌だからイェルクと私を争わせ、逆に自分が美味しいところを持っていこうと思ったのだ」

 この手紙はそういう意味だ。

「狙いは我らの目を西に向けることですか?」
「もっとだ。同じような手紙をイェルクにも送っておる。そして、イェルクに攻めさせ、私達が迎撃に出た隙をついて、ここを落とすのだ」

 確実にその手で来る。

「お嬢様、それはマズいです」
「はい。以前より懸念していた一度に両方を相手にしてしまうことになります。イェルクに使者を送るべきです」

 マルセルが提案してくる。

「使者をのう……私が送って効果があるか? 地位も立場も力も向こうが圧倒的に上ぞ? 協力を要請する代わりに多くの領土や金を取られよう」

 見返りなしで協力はしない。

「ここは仕方がないかと……」
「ふむ……では、使者は誰が行く?」
「私が参りましょう」

 マルセルねー……
 能力的には問題ないが……

「お前では無理だ、庶民。向こうは皇子。それなりの格がいる」
「そうなりますと……」

 皆がウルスラを見る。
 まあ、私はないし、ヴィリーも幼い。
 必然的にこいつだな。

「ちょ! なしよ、なし! 私が行っても何にもならないし、下手をすると、殺されちゃうじゃないの!」
「私がイェルクなら無礼があったとか適当な理由をつけて殺すな」

 良い機会だ。

「ほら! そもそもザームエルはもちろんだけど、イェルク兄様と対話なんて無理よ。向こうは確実に見下しているし、厄災の子なんかと手を組まないでしょ」
「ふむふむ。一理ある」
「ね?」

 行きたくないんだろうな。
 まあ、行っても役に立たんだろうが。

「そういうことだ、マルセル」
「しかし、そうなりますと……」

 手がないか?

「お嬢様。お嬢様の考えを聞かせてください」

 ユルゲンが発言する。

「私か? 私は最初から決まっておるぞ。こうなることもわかっていたし、それの対処もしてきておる」
「じゃあ、最初からそうしなさいよ!」

 怒鳴るな、ジト目。

「お嬢様、いかがなさるのです?」
「少し待て。ミーネ、どう思う?」

 まずはミーネに確認だ。
 ウルスラはまたかと呆れたようにお茶を飲み始めたが……

「戦争は避けられない?」
「向こうが攻めてくる。前にも言ったが、この地は肥沃だ。帝国が割れそうな今、少しでも勢力を大きくしたいし、いつでも戦争ができるようにしたいのだ。そして、その肥沃な地を持っておるのが1000程度の兵しか持たない小娘だ。まさしく、イチゴが乗ったケーキだな」

 美味しそう。

「対話は?」
「ウルスラとヴィリーをイェルクに差し出せば、時間稼ぎくらいはできる」
「こら! なし! なし!」

 うるさいなぁ……

「それはちょっと……」

 ミーネも反対のようだ。

「イェルクの考えはわからんが、ザームエルは明確にこの地、そして、私の命を狙っている。やるしかないぞ?」
「うん……じゃあ、ここはノーレに任せる」

 任されよう。

「皆の者、開戦だ」

 相談が終わったので皆に告げた。

「どちらと?」

 ウルスラが聞いてくる。

「はぁ? どっちもだ。来る敵を撃退する。ただそれだけだ」
「ヘルミーネ様、それはあまりにも無謀です。こちらは集めても2000。敵はその数倍です」

 やっぱりマルセルが止めてきた。

「アホ。何度も言わせるな。勝敗は将の器と兵の士気だ。ザームエルもイェルクも恐るるに足らぬわ」
「し、しかし……!」
「安心せい。ザームエルはともかく、イェルクとはそこまでの戦にならぬ」

 そもそもの計画でもイェルクを相手にするのは後だ。

「何故でしょう?」
「イェルクもザームエルと同じようにリスクを取らないからだ。まずは様子見だろうな」

 ここで動く人間ならもっと早くに政争に加わっている。
 イェルクはかなりの慎重な人間に思える。

「そうなのですか?」
「ノルベルト、どう思う?」

 ノルベルトに振る。

「私もそう思います。まずもって、イェルクがここを攻めるにはあの西の森を越えなければなりません。あの森は道が狭いうえにうっそうとしているので大軍での移動が非常に難しいです」

 スラムの奴らを森に走らせたかいがあったな。
 ノルベルトもちゃんと地理的なものも把握している。

「そういうことだ。あくまでもメインは北のザームエル。そう思っておけ。そして、ラインの町、ボーディーの町を注視せよ。戦の日は近いぞ。それとザームエルには返事をしたためるからそれを使者に渡せ」
「「はっ!」」

 さてさて、ザームエル兄様に感謝の手紙でも書くかな……
 へりくだりまくってやろう。
 そしたらきっと計画を早め、すぐにでも攻めてくるぞ。
 ははは。