ウルスラとヴィリーがやってきた翌日。
よくわからないが、朝から2人がやってきたので寝室でお茶会をする。
「ふーん……まあ、悪くないわね」
ウルスラがお茶を飲んで頷く。
ヴィリーは出したクッキーを美味しそうに食べていた。
「ウルスラ、お前は何歳だ? ヴィリーが7歳なのは知っているが……」
「んー? というか、昨日から思ってたけど、あんたのそのしゃべり方は何? 前はもっと丁寧だったじゃないの」
「私はこれが普通だ」
「ふーん……15歳よ」
ウルスラはまだ15歳か。
その割には肝が据わっているな。
さすがは皇族といったところか。
「ウルスラ、帝都であったことを詳しく話せ」
「昨日、言ったことがほとんどよ。私の母方の家は西の方にある領地貴族なんだけど、周囲で他の貴族達が動きを見せていたらしいの。それが全部、レナードの派閥だったから何かあると思い、いつでも脱出できる準備をしていたわけ。そしたら予想通り、クーデターよ」
ふーむ……
「お前、15歳なら洗礼を受けられるだろ。それで助かる。よくリスクを負ってここまで来たな」
フェリックスの手勢ならまだわからんが、父の手勢に捕まったら嬲られて殺される。
「息苦しい教会なんて嫌よ。それに私が助かってもヴィリーは確実に殺される。どっちに捕まってもね」
父はもちろんだが、こうなれば、あのフェリックスも弟なら生かしてはおかんか。
いや、あの甘そうな男ならあるいは……
「母方の家を頼るわけにはいかなかったのか?」
「西はレナードの派閥貴族の軍がいたから無理。今、フェリックス兄様の軍と小競り合いをしているわ」
もう戦争状態になっているのか。
フェリックスも父の動きを察知していたんだ。
「実際のところ、他の貴族は無理か?」
「貴族は信用できない。情勢次第では裏切るし、そうじゃなくても何を要求してくるかわからないわ」
ふーむ……協力を得られたとしてもウルスラはそこに嫁ぐことになるだろうな。
ホラーツと一緒だ。
そして、その場合、ヴィリーの立場が怪しくなる。
「イェルクはどうだ?」
「イェルク兄様は一番怖い。あの人は本当にわからないの。元々、あまり帝都にいない人だし、ロクに話したことがない」
政変を察していた?
自分には皇帝の芽がないと思い、独自路線を行っていたのかもしれんな。
「お前らの母は?」
「フェリクス兄様のところだと思う。多分、修道院送りね」
そんなところか。
「レナード、フェリックス、どちらが優勢かわかるか?」
「女の私にわかるわけないでしょ。それに逃げるのに必死だったの」
ふーん……まあ、期待はしていなかったが。
「密偵を出すから母方の実家に手紙を送れ。自分達はここにいるから短絡的な動きを見せるな、とな」
「わかった」
ウルスラが頷くと、ノックの音が部屋に響いた。
すると、控えていたディアナが扉の方に向かう。
「何か?」
『マルセル様がお見えです』
中メイドのリーゼルの声だ。
「通しなさい」
『はい』
そのまま待っていると、マルセルがやってくる。
「失礼します。お茶会の時間に申し訳ございません」
「よい。暇人の相手をしているだけだ。それよりもどうした?」
「ラインの町、ボーディーの町の密偵が戻ってまいりました」
ラインの町はイェルクが治める町であり、ボーディーはザームエルだ。
「どうだった?」
「両方共、慌ただしくなっております。特に軍部です」
帝国の情勢を見て、軍を整えているのか、それとも攻めるためか……
「こちらの軍は?」
「常備兵は1000、例の部隊が300。そこから農民兵を加えますと、2000といったところです」
「少なっ」
うるさい。
「戦争を知らぬ女子供は黙ってろ」
「ギャグか何か?」
私は女で子供だからな。
「マルセル、引き続き、注視せよと伝えろ」
「はっ! それと町に不安が広がっております」
そうだろうな。
「放っておけ。勝てばいいだけだ」
「かしこまりました」
マルセルは一礼し、下がった。
「ねえ、本当に大丈夫なのよね?」
ウルスラがジト目で見てくる。
「負けたら毒でも飲むといい。良いのを持っておるぞ」
「まったく笑えないわ」
「ははは。笑え、笑え。何も問題なのだからな。ディアナ、追加のクッキーを出してやれ。なくなったぞ」
というか、私のは?
このガキ、全部食べやがったぞ……
「承知しました」
ディアナが微笑みながら一礼し、出ていった。
「ユルゲン、ノルベルトを呼んできてくれ」
「かしこまりました……ん?」
「んー?」
扉が開き、ディアナが戻ってきた。
しかも、さっき帰っていったマルセルと呼ぼうと思っていたノルベルトも一緒だ。
「お嬢様、マルセル殿とノルベルト殿です」
「見ればわかるが……どうした?」
何かあったか?
「ヘルミーネ様、ザームエルからの使者が参っております。ヘルミーネ様にこちらを渡すようにと……」
ノルベルトがそう言って、手紙を見せてくる。
「ほう? ザームエルからか。使者は?」
「北門の詰所で待機してもらっています」
「そうか。マルセル、手紙を読んでみよ」
「はっ」
ノルベルトが手紙を渡すと、マルセルが封を開け、手紙を読んでいく。
「お前らを引き渡せ、だったらどうしような?」
ウルスラを見る。
「拒否よ、拒否。ふざけるなって怒鳴って使者を追い返すべきね。ザームエルの分際で無礼者め」
「ははは。そうだな。マルセル、内容をかいつまんで話せ」
「はっ。父レナード公爵の行ったことは道義に反することであり、自分としては許容できない。父の無道、さらには混乱する帝国を鎮めるためにここは兄妹で手を取り合いたい、と申しています」
ははは!
ザームエルって面白い奴だったんだな。
「おー! そうか、そうか! それが良きことだな! 皆が望む対話だ! ミーネ、良かったな!」
「う、うん……」
そんな微妙な顔をしてどうした?

