マルセルが臣下に加わった翌日。
この日も朝から書斎でミーネと本を読んでいた。
『お嬢様、よろしいでしょうか?』
ユルゲンだ。
「勝手に入れ」
そう答えると、扉が開き、ユルゲンが部屋に入ってきた。
「報告します。代官のホラーツ殿が亡くなったようです」
ふむ……
「死因は?」
「御病気のようです。どうやら持病があったようでそれが昨晩、悪化し、ベッドの上で眠るように亡くなったとのこと」
気の毒にな。
「そうか。残念だが、仕方がない」
「それでマルセル殿から明日の葬儀に参加して欲しいとのことです」
明日が葬儀ということは事件性がないということだな。
「ホラーツ様の家族は?」
「おりません」
「そうか……わかった。世話になったし、参加すると伝えてくれ」
「かしこまりました」
ユルゲンが一礼して出ていったので読書を再開した。
この日は特に外に出ることもなく、過ごしていく。
そして、翌日には町の北東にある墓地で葬儀がホラーツの葬儀に参加する。
ホラーツは多くの役人や兵士に見守られ、墓に埋められた。
そして、神父様と私が祈ると、役人、兵士、そして、参加した民衆達が墓に花を添えていくのを見る。
「良くしていただいたのに残念です」
隣にいるもう60歳を超えているという神父様に声をかける。
「いえ、ホラーツ様もこのように皆に見送られ、満足でしょう。多額の寄付もしてくださいましたし、きっと主のもとに行けることでしょう」
きっとそうだな。
「神父様、このようなところでの挨拶となりましたが、陛下よりこの地の領主に任じられましたヘルミーネです」
「神父のパウルです。聖女様に挨拶が遅れ、申し訳ございません」
やっぱり聖女だ。
「いえ、コルネリアから聞いております」
「そうですか……しかし、赴任してきて早々にホラーツ様が亡くなって大変ですね。いや、もしかしたら陛下はホラーツ様の体調が悪いのを知っていて、ヘルミーネ様を送られたのかもしれませんね」
きっとそう。
「どうでしょうか……未熟な身ですが、精一杯頑張りたいと思います」
「ええ。皆のためにぜひともよろしくお願いします」
「神父様、そろそろ戻りましょう」
コルネリアが神父様を促す。
「そうだね」
2人は最後にホラーツに祈り、帰っていった。
「我らも帰るとしよう」
「はい」
「そうしましょう」
ディアナとユルゲンが頷く。
「ヘルミーネ様、馬車を用意していますのでこちらへ」
マルセルが促してくれたので墓地から離れ、歩いていく。
「マルセル、引き続き、お前が政治を行え」
「はっ! 人事はいかがしましょう?」
人事?
あー、不満があるところがあるのか。
まあ、ホラーツのことだし、賄賂とか受けてそうだしな。
「お前も思うところがあるかもしれないが、当分は変えるな。まずは皆に上が替わっても生活は変わらないという安心感を与えよ。役人が落ち着かなければ民も落ち着かん」
「わかりました」
まずは落ち着かせ、ホラーツのことを忘れてもらわなければならない。
「ホラーツの資産は没収せよ。それと不正による金もあるだろうが、それらを使って軍備を強化せよ」
「ヘルミーネ様、それに関してですが、推挙したい人がおります」
んー?
「誰だ?」
「ノルベルト・ヴァルシュタインという名の男です。元は帝都で将軍位に就いていました」
帝都で将軍?
エリートじゃないか?
「何故、そのような者がおる?」
「実直な男なのですが、それで融通が利かず、左遷された男です。そんな男なのでホラーツとも馬が合わず、下野しております」
ほー……
「優秀か?」
「ええ。30歳で私よりも3つ上なのですが、頭も良く、強さも相当です。何度もホラーツに勧めたのですが……」
ふーん……マルセルが言うならそうなのかもしれんな。
それに今は優秀な人間が欲しい時だ。
「召し抱えよ。厚遇してやる」
「ありがとうございます」
礼か……もしかしたら友人なのかもしれんな。
「早めに連れてこい。時間はないぞ」
「承知しております」
マルセルが頷いた。
「ユルゲン、ホラーツの屋敷にある水見式の装置をこちらの屋敷に運び出せ。そして、陛下にホラーツが亡くなったことを伝えよ」
「すぐに伝えるのですか?」
まあ、時間を置いても構わんが……
「すぐで構わん。ただ、急に代官が亡くなって不安だと伝えよ。実務は元々担当していた男がやってくれているが、経験のない私では不安だとな。早急に代官を派遣してくれと訴えよ」
「催促するのですか?」
「皇帝はあまのじゃくだ。ゆっくりでいいと言えば、早急に派遣してくるが、こう言えば、少しは苦労しろと思って、時間をかけるだろう」
要は子供なのだ。
「わかりました。では、そのように致します」
「うむ」
指示を終えたので屋敷に戻ると、ゆっくりと過ごしていく。
すると、夕方くらいにマルセルが短い金髪の男を連れて、訪ねてきた。
「ヘルミーネ様、こちらがノルベルト殿です」
「ノルベルトです」
ノルベルトが一礼する。
背も高く、筋肉質の男であり、強そうだ。
目力もあり、確かに実直そうだった。
「ヘルミーネだ。お前は1000の兵で何人の兵を倒せる?」
「私が鍛えた兵なら万の兵も倒せます」
ふーん……
「死ねと言ったら死ねるか?」
「軍人が戦場に出るのはそれと同義です」
ふむ……
「よろしい。お前にこのエルデン地方の軍の全権を与えよう」
「全権、ですか?」
「そうだ。お前が指揮せよ」
「あ、ありがとうございます」
良い感じに言ったが、1000しかいないんだよ。
「ノルベルト、戦争は近い。死ぬ気でやれ」
「はっ!」
与えた仕事を120パーセントこなす男だな。
確かに実直だ。
「ノルベルト、いや、マルセルもか。スラムを解体せよ」
「スラムをですか?」
「ヘルミーネ様、それは難しいです」
マルセルが反対する。
「難しいのはわかっている。職のない者に金を出してやり、兵士にせよと言っているのだ。まずはスラムに住む者の数を減らせ」
時間がかかるのはわかっている。
「お言葉ですが、簡単に兵士にはできません」
「正規兵でなくて良い。鎧もいらんし、槍の使い方も教えんでいい。ただ、ショートソードを持って、西の森を走らせよ」
「森を、ですか?」
マルセルが首を傾げる。
「ああ。ついでに獣でも狩れ。ただひたすらそれをさせよ」
そう言うと、マルセルがノルベルトを見る。
「できるか?」
「いや、それくらいなら簡単だが、何の意味があるのだ?」
アホ。
「わからないなら考えんでいい。とにかく、金を与えて、あいつらを外に出せ」
「わ、わかりました」
「すぐにでも動きます」
最初からそう言っておけ。
「それと北と西の動きは注視せよ。水見式を使ってもよいから何かあったら即座にこちらに伝えろ」
「「はっ!」」
うむ。
「では、早々に動け。主に恥じない働きをせよ」
ふう……
これで何とかなるな。
あとは帝都でどのような動きがあるか……

