覇王令嬢の野望 ~絶対平和主義の少女に転生した最強女帝の帝国再建譚~


「ふむ……意外と上手くいったな。有能な男が臣下になったぞ。私1人の考えなら殺しているところだった」

 奴が懸念しているのはこの町のことだったようだな。

「殺すのを絶対に拒否っていうわけじゃないけど、さすがに短絡的に殺そうとしすぎじゃない?」

 ミーネも嫌は嫌だろうが、さすがにもうそこまで拒否感はないか。

「敵を許す度量がないんだ。殺した方が考えなくて済む」
「それだと獣だよ……」
「わかっておる。だからお前の意見を求めたし、お前の言うとおりにした。さすがにホラーツは無理だがな。お前が『我慢するからあれを夫にして、一緒に頑張る』とか言わなくて良かった」

 嫌だ。

「ちょっと我慢できないかな……」

 誰だってそうだ。

「お嬢様、よろしいでしょうか?」

 ユルゲンが聞いてくる。

「何だ?」
「お嬢様が実権を奪った後、帝都から別の代官が来ないでしょうか?」
「来るかもしれんな。皇帝は私に実権を持たせたくないだろうし、十分にあり得るだろう。とはいえ、来たところで無視すればいい。今度はこちらがホラーツの立場だし、政治の実務を行うマルセルはこちら側だ。それに代官が誰であろうと、地位はこちらの方が上なのだ」

 黙らせればいいだけだ。

「かしこまりました」
「うむ。ディアナ、頼んだぞ。失敗は許されん」
「はっ! すぐに用意します」

 ディアナが出ていったのでユルゲンに茶を淹れてもらい、ゆっくりと待つことにした。



 ◆◇◆



「マルセル殿、こちらが毒になります」

 家で待っていると、ディアナ殿がやってきて、毒々しい紫色の液体が入った瓶を渡してくる。

「これをワインに混ぜればいいのですね?」
「はい。方法はグラスに入れて飲ませください」
「ワインに仕込むわけにはいかないのですか?」
「薄れてしまうのが怖いです。ボトルを全部飲んでくれるならそれでいいのですが……」

 基本的、一晩でボトルを空ける人だが、その時の気分や体調次第だし、わからないか。

「わかりました。やってみます」
「私も潜んでいます。もし、バレたら強行策に出ますが、そうならないようにしてください」
「わかってます」
「では……」

 ディアナ殿は家から出ていった。

「さて、やるか……」

 私はヘルミーネ様に賭けることにしたのだ。
 それがこの地を守ることに繋がるし、あの方は普通じゃない。
 狂人か英雄か……
 いや、どちらでもよい。
 もはや後には引けないのだ。

 私は毒を懐に忍ばせると、用意していたワインを取り、家を出た。
 そして、表の通りにあるホラーツの屋敷にやってくる。

「おや? マルセル様じゃないですか。どうされたんですか?」

 表の兵士が聞いてくる。
 時刻はすでに9時を回っており、私の仕事は終わっているのだ。

「閣下にお話があってな」
「さようですか。閣下は寝室におられます」
「わかった。引き続き、警備を頼む」

 そう言って、屋敷に入ると、2階に向かう。
 そして、ホラーツの寝室をノックした。

『誰だ?』

 ホラーツの声だ。

「私です。マルセルです」
『おー、入ってくれ』

 機嫌の良い声が聞こえたので扉を開け、中に入る。
 すると、高そうな絹の寝巻きに着替えたホラーツがいた。

「失礼いたします。また、こんな時間に来てしまい、申し訳ございません」
「構わん。それよりもどうした?」
「実は親戚からワインを頂きました。私ではこんなに飲めないのでお酒が好きな閣下にどうかと思いまして……」

 嘘だ。
 私は結構、飲む。

「おー、そうか。悪いな。ちょうどこれから飲もうと思っていたところだ」

 知っている。
 だからこの時間に来たのだ。

「こちらになります」

 テーブルにワインを置く。

「すまんな」
「いえ、それと今日、ヘルミーネ様のお見舞いに行った際の報告があります」
「おー、それは聞きたいな。ちょっと待て。お前がもらったものだし、お前も飲んでいけ」

 ホラーツはそう言って、部屋にある棚からグラスを2つ持ってきた。

「ありがとうございます。どうぞ」

 ワインを開け、グラスに注いだ。

「うむ。どれ……」

 ホラーツは上機嫌でワインを飲む。

「どうでしょう?」
「うむ。美味いな」
「ありがとうございます」
「ほれ、お前も飲むがいい」

 ホラーツがもう一つのグラスにワインを注いだ。

「ありがとうございます」

 そう言って、ワインを飲んだが、まったく味がしなかった。

「それでヘルミーネはどうだった?」
「やはり長旅の疲れと帝都であったことがショックのようで体調が優れていない様子です」
「ふむ……遠いし、実の父親に暗殺されかけたわけだしな」

 そうなんだよな……
 本人は元気満々だったし、まったく気にしてないようだったが。

「ええ。とはいえ、時間が解決すると思われます」
「そうか。まあ、焦らず待つとしよう」
「それがよろしいかと思います。話をしましたが、待遇にとても感謝しておりましたし、歓迎会を断ったことを申し訳なさそうにしていました」
「ほう? そうか」

 わかりやすく上機嫌になったな。

「私も女性のことにそう詳しいわけではないですが、実の父にああいう目に遭ったわけですし、閣下が父のように振る舞うのはどうでしょう?」
「ふむ。悪くないな」

 娘を女として見る父親はいないが……

「会って話をしてみましたが、本当に教会の子という感じがしました」
「ははは。狼ではなかったのか?」
「違いましたね」

 あれは狼どころか、主を言い訳に使い、好き勝手しようとしている悪魔だ。

「そうか……なら問題ないな」

 ホラーツは立ち上がると、こちらに背を向けて、窓の方に行く。
 その隙に懐から小瓶を取り出し、蓋を開けた。

「見えますか?」

 ここからヘルミーネ様が住む屋敷は見えるのだ。

「ああ。まだ灯りがついておる。ふふっ、侯爵くらいにはなりたいな」
「ええ」

 そう答えると、ホラーツのグラスに毒を注いだ。
 毒はワインと同じような色のため、ぱっと見はわからない。

「お前もそれ相応の給金は出してやるぞ」
「ありがとうございます」
「ふっふっふ」

 ホラーツは不敵に笑うと、こちらに戻ってきて、ワインを飲み干した。

「どうぞ」

 空いたのでワインを注いでいく。

「うむ……悪いな」

 飲んだよな?
 遅効性らしいが、どれくらいで効くのだろうか?

「閣下、明日、ヘルミーネ様のところに見舞い品を持って、お見舞いに行かれたらどうでしょう?」
「そうするか」

 ホラーツは上機嫌でワインを飲んでいく。

「ええ。明日の午前中に参りましょう。閣下も今日はお早めにお休みください」
「わかった」
「では、これで私は失礼します。準備をいたしませんと」
「ああ。頼んだぞ」

 立ち上がると、ホラーツに一礼する。
 そして、部屋を出ていくと、家に帰った。

「ふう……本当に効くのか?」

 今日は眠れそうにないな……