覇王令嬢の野望 ~絶対平和主義の少女に転生した最強女帝の帝国再建譚~


 ユルゲンが退室し、執務室で本を読んでいると、ディアナがやってきて、そばに控える。
 もっとも、編み物をしているだけだが。

「大中小はどうだ?」
「大中小?」

 ディアナが首を傾げた。

「新人メイドだ。身長が大中小であろう?」
「ああ……そういうことですか。まだまだ未熟ですが、やる気もあるし、頑張ってますよ。支度金を渡したら喜んでましたし」

 なら結構。

「お嬢様、マルセルが面会を求めています」

 ノックの音と共にユルゲンが部屋に入ってきた。

「1人か?」
「ええ。1人です」

 うーむ……殺すには好都合……

「ダメだってばー」

 ミーネが呆れるように諫めてきた。

「わかっておる……ユルゲン、ここに通せ」
「かしこまりました」

 ユルゲンが一礼し、出ていく。

「むー……文官の説得は苦手なんだが……」
「頑張って! いっぱい部下がいたんでしょ」

 文官は弟と宰相が……まあ、やってみるか。

 そのまま待っていると、再び、ノックの音が聞こえてきた。

『お嬢様、マルセル殿です』
「入れ」

 そう答えると、ユルゲンと共にマルセルが部屋に入ってくる。
 そして、マルセルが深々と頭を下げた。

「マルセルです。ご体調はいかがでございますか?」
「うむ。だいぶ良くなった。とはいえ、まだまだ心が癒えぬ」
「帝都でのこと、長旅のこと、心中お察しします」

 ふむ。

「それもあるが、最近は本当に心苦しい」
「何かございましたか?」
「帝国のことだ。私は主から帝国を救済せよと言われている。主がそうおっしゃるくらいに帝国は危ういのだろう」

 さて、何と答えるか……

「聖女様の国を想う気持ちは御立派ですし、尊きことと存じます。しかしながら帝国は平和ですし、威光はますます盛んです」

 うわべだけのことしか言わないか。

「そうか……もうよい。帝国の未来を語れる者はこの世におらぬようだ。陛下も父も皆、己のことしか考えておらぬし、もはや帝国の未来は私だけで何とかするほかない。マルセル、帰ってよいぞ。ホラーツには適当に伝えよ」

 しっし。

「……ヘルミーネ様、帝国の未来とは何でしょう?」

 まあ、そう簡単には帰らんか。

「破滅だ。父は皇帝を討ち、皇帝を名乗る。当然、フェリックスはそれを認めず、帝都が真っ二つに分かれる。帝都がそうなら他の町もそうだ。帝位継承権を持つ者や有力な領地貴族は好き勝手を始め、帝国はかつての群雄割拠の時代に戻ろう」

 また私が統一するわけだな。

「そうなると?」
「考えれば誰もがわかろう。しかし、誰も考えようとしない。だからこそ、主が嘆き、私に任せたのだ」

 このエレオノーレ・クローネンシュタールを蘇らせてな。

「この地はどうなりましょう?」
「この地は危ういぞ? 理由がわかるか?」
「…………ヘルミーネ様がおられるからでしょうか?」

 まあ、それは合ってる。

「ははは。では、私がここを去ろうか? 結果は変わらんぞ?」
「何故でしょう?」

 外は見えても地元のことは楽観視か……いや、考えたくないだけだ。

「この地は豊かだ。一番良いのは農作物が豊富なところだな。兵糧が良く集まるだろうし、皆が欲しがる。そして、北はザームエルで西はイェルクか? どっちも帝位継承権を持つ皇族だな。このエルデン地方を獲った方が有利になる。しかも、攻めやすい。もうどうなるかわかろう? いずれこの地を巡った戦争が起きる。戦地はここだ」

 北は山、西は森。
 平地のここが戦場だ。

「それは…………」
「私はこの地を憂い、そうならないようするために陛下に頼み込んでこの地に来た。しかし、肝心のここに住んでいる者が平和を望んでおらぬ。領主のホラーツは身の丈に合わぬ野心を持ち、私を蔑ろにする。その部下は現状維持でただ死を待つだけだ」

 陛下が選んだ地だけど、そう言っておく。

「ヘルミーネ様ならなんとかなると?」
「私は主よりそう命じられておる。そして、私の目から見たらイェルクもザームエルも相手にならぬ」

 雑魚、雑魚。

「両領地もウチと比べると、資源も兵も多いですよ? 兵だけを見てもザームエル様は5000の兵を要し、イェルク様は8000を要しています。ここからさらに傭兵や農民兵を動員すればさらに増えます」

 ちゃんと周りのことも調べているか。

「それがどうした? 私は帝都すら落とす気でおるぞ?」
「さすがに無理です。とても敵いません」

 やる前から無理だと決めつける。
 まさしく文官だ。
 ウチの宰相を思い出すわ。

「バカが。文官は兵の数だけで戦争を知った気になるからいかんのだ」
「お言葉ですが、数は最も大事です」
「違う! 兵は量より質! 何よりも戦とは士気と将の優劣で決まるのだ! もし、数ですべてが決まるなら始帝エレオノーレ・クローネンシュタールは勝っておらぬし、この帝国も存在しない!」

 私、私!

「それはそうですが……」
「兵の数を競うなら未来永劫、帝都にもザームエルにもイェルクにも敵わぬ! しかし、将の質で競うなら奴らがどんなに連合を組もうが、このヘルミーネ・クローネンシュタールには敵わぬ!」

 負けるものか。
 私こそが不敗の覇王である。

「主は常にお嬢様の味方でございます」
「お嬢様は選ばれた御方です」

 そうそう。

「ヘ、ヘルミーネ様は皇帝になられるおつもりですか?」
「この前の晩餐会でそう判断した。誰一人、国を憂う者も民を守ろうとする者もおらんかった。奴らにあるのは保身と野心。主が私の前に現れた理由がよくわかった」

 そう言い切ると、マルセルの目に迷いが見えた。

「恐れながらヘルミーネ様。ヘルミーネ様は死が怖くないのですか?」
「帝国のために、主の子らのために、命を捧げられるなら本望だ。そして、私は死なぬ。何故なら負けないからだ」
「そ、そうですか……」

 ふむ……

「ミーネ、選択の時だ」

 そう言うと、マルセルが困惑した目でディアナとユルゲンを見比べる。
 まあ、無視だ。

「優しい言葉で説得!」

 ほう?

「そうか。では、そうしよう。マルセル」
「え? は、はい。あの、誰としゃべっているので?」

 目がすごく泳いでるな。

「天使だ。まあ、気にするな。頭のおかしい人間だとスルーしろ」
「え? あ、いえ……」

 動揺がすごい。

「お前は主の子か? それとも神敵か?」
「も、もちろん、主に従順な信徒です」

 ふーむ……やはり殺してはダメだったか。

「そうか。私は最近、まったく心が癒えぬ。特効薬はないか?」
「病魔を取り除くほかにないと思われます。このマルセル、医者ではございませんが、ヘルミーネ様の心労を治してみせましょう」

 ほう?

「お前にそれができると?」
「非才の身なれど、この町を……帝国を想う気持ちはあります。国家のために尽くしたいと思います」
「よろしい。主に変わらぬ忠誠を誓え」
「主のため……聖女様のために尽力することを誓います」

 マルセルがその場で跪いた。