「ふーん……」
2人が下りても町を見渡し続ける。
「お嬢様、どうですか?」
「実際に見ないとわからんが、壁の近くが澱んでおるの」
明らかに街並みが異なっており、建っている家々が貧相に見える。
「そういうことなんでしょうね。しかし、お嬢様、ホラーツ殿の言う通り、明日にしましょう。今日はお休みになられた方が良いです」
「そうだな。ちょっと2階の部屋を見て回ろう」
「探検だー」
私達は階段を下りると、手前の部屋に入った。
中は広いうえに清潔感のある綺麗な部屋だった。
窓際には天蓋付きの大きなベッドとソファーがある。
手前にもテーブルや鏡台が置いてあり、女性用、もしくは、夫婦の寝室のようだ。
「ここでいいか」
「ええ。お嬢様はこちらをお使いください」
とりあえず、部屋を出て、正面の部屋に入ってみる。
こちらは書斎のようで重厚な木製のデスクが部屋の中央に据えられ、正面には窓が見えているが、左右はびっしりと本が詰まっている本棚だ。
「歴史の本が多いな」
「勤勉だったのではないでしょうか?」
ここを使っていた皇族の領主とやらはかなり真面目なようだ。
「本がいっぱいあってちょっと嬉しいな」
ミーネは読書家だもんな。
「ディアナ、本棚を買って、窓際に置け。持ってきた本をそこにしまう」
「かしこまりました」
ディアナが一礼する。
すると、ユルゲンが戻ってきた。
「こちらにおられましたか」
「部屋を見ていた。ホラーツは帰ったか?」
「ええ。別れ際に資金を頂きました。かなりの額ですね」
ありがたいな。
「いくらだ?」
「当面の資金ということで金貨500枚です」
ふむ……
「足りなくなったら言え、か?」
「はい」
本当に歓迎しているように思えるな。
「……まあよい。他の部屋も見よう」
私達は他の部屋も見ていく。
やはりどこもかなりの質の部屋だったし、1階にあった風呂も食堂も上流階級が使うようなものだった。
「かなり良さそうですね」
「向こうも歓迎する気があるということでしょう」
すべての部屋を見て回り、エントランスの階段前まで戻ると、ユルゲンとディアナは満足そうに頷いた。
「そうだな……」
「いかがしました?」
ディアナが聞いてくる。
「いや、なんでもない。それよりも夕食は任せたぞ。豪華にしようではないか」
「かしこまりました。しかし、この屋敷に私とユルゲンだけでは管理が難しいかもしれませんね」
確かにちょっと広いな。
「あ、その件なんですが、人がいるならこちらでも用意できるとホラーツ殿に言われましたね」
ほう?
「お嬢様、いかがしますか? 悪くない申し出ですが……」
ふーむ……
「いや、そこまで頼っては向こうに悪かろう。ユルゲン、明日は私とディアナで話を聞きに行くからどこぞのギルドに行き、人を集めよ。人数は任せる」
「かしこまりました」
ユルゲンが一礼する。
「お嬢様、私はこれから食材や衣類などを購入してきます。何かあればユルゲンに言ってください」
食料もだが、身の回りのものも早急に必要だな。
「わかった。クッキーでも買ってきてくれ」
「かしこまりました」
ディアナは一礼すると、屋敷から出ていった。
「ユルゲン、茶を淹れよ」
「はっ!」
私達は2階に上がり、寝室に入った。
そして、ユルゲンの淹れてくれたお茶を飲み、一息つく。
「うむ。悪くないな」
「美味しいね。久しぶりのお茶だ」
ミーネも満足している。
「ありがとうございます。時にお嬢様、これからいかがしますか?」
「まずは明日、ホラーツに会ってからだな」
「お嬢様はホラーツ殿のことをどう思っておられるのです?」
ふむ……
「お前はどう思っている? 考えてみい」
「良い男だなと思いました。至れり尽くせりですし、お嬢様への配慮が見えました。正直、不遇な扱いを受けるのも覚悟していましたので」
そうだな。
私もそう思っていた。
「ミーネ、どうだ?」
「良い人かなとは思う」
人の良いミーネはそう思うだろうな。
「好きか?」
「それは……微妙? なんかちょっと嫌な感じがするんだよね。具体的にはそれが何故なのかはわからないけど」
だろうな。
「お嬢様、天使様は何と?」
「微妙だとさ。まあ、私も同じ気持ちだ」
「何かあると? うーん……」
ユルゲンが悩みだす。
「あー、ユルゲン。この件に関しては考えなくていいぞ。お前ではわからん」
「そうなのですか?」
「まあ、まだ何とも言えない段階だ。来たばかりだし、気にせんでいい」
生前の私なら考えなくても良いのだがな。
「わかりました。あ、それと人を雇う件ですが、数人のメイドを雇おうかと考えております。住み込みと通いではどちらがよろしいでしょうか?」
「どっちでも良いが……最初は通いで良いんじゃないか? ある程度仕事をやらせて、良さそうなら住み込みにせい」
「では、そのように致します」
まあ、そっち関係はユルゲンとディアナが判断すれば良いだろう。
「ユルゲン、今日はもう休んでいいぞ。お前は特に疲れただろう」
「よろしいのですか?」
「ああ。私ももう部屋から出ないし、ここでゆっくりしている」
「わかりました。それでは私も部屋に戻ります」
さっき部屋を見て回った時にユルゲンとディアナの部屋も決めたのだ。
ディアナは何かあった時のために隣であり、ユルゲンは階段を挟んだ向こう側になる。
「何かあったら呼ぶ。それとディアナが帰ってきたら今日の夕食は皆で食べようと伝えよ」
「我らは侍従です。さすがに食事は共にしませんよ」
当たり前だが、執事やメイドと一緒に食べることなんてない。
「これまでの旅でずっと一緒に食べてきておっただろうが。今日だけは皆で食べる。お疲れ様会だとでも思え。お前らは侍従の前に私の臣下だ」
「ありがとうございます。それではご一緒させていただきます」
「うむ。酒も飲んでいいぞ」
こいつらが飲むかは知らんが。
「さすがに飲みませんよ」
ユルゲンが苦笑いを浮かべる。
「そうか。まあ、今日はゆっくり休んでくれ」
「わかりました。それでは失礼します」
ユルゲンが一礼し、部屋から出ていった。

