目が覚めると、すでに明るくなっていた。
さらには目の前にはディアナの姿は見える。
ディアナはメイド服に戻っているし、髪もちゃんと整えられているので昨日のアホ面で寝ていた姿が想像できないくらいだ。
「お嬢様、おはようございます」
「ああ。おはよう」
「おはよー……ふわーあ」
身体を起こすと、ミーネも起きてくる。
「起きてからユルゲンに聞きましたが、昨晩、刺客が来たそうですね。気付かず、寝ていたままで申し訳ございません」
ホント、よく寝てたな。
「よい。それよりも今は何時だ?」
外を見ると、平野であり、すでに森を抜けていた。
「昼前になります」
「そんなに寝ていたのか……」
「お疲れだったのでしょう。戦いをすべて任せてしまいましたし、休まる時がありませんでした。そんなに働いていない私でも9時まで熟睡でしたしね」
ディアナもかなり寝ているな。
「ユルゲン、大丈夫か?」
「はい。私は大丈夫です」
ユルゲンは体力があるな。
「そうか……森を抜けたということは帝都直轄地を抜けたわけだな?」
「はい。ここはイーヴォ伯爵が治める領地です」
「ならば一安心だな。これからは刺客も来ない」
「水見式を使い、刺客を雇う可能性はありませんか? どこの町にも傭兵ギルドはあります」
水見式は私の時代にも使われていた魔法であり、遠くの地に文字を飛ばせる魔法だ。
具体的には水に魔力を込め、遠くの地にある水に文字を飛ばす魔法である。
便利だし、緊急の用の時には重宝される。
なので、どこの町にも水見式を受けるための施設があるし、陛下からの命を受けるために貴族の屋敷には確実にある。
「水見式か……いや、それはない。ここまで来たら場所を把握できないし、父が第二の刺客が帰らずに不審に思う時には皇帝の息子のイェルクの領地に入っている」
さすがに皇帝の子の領地でそんなことはできない。
もし、傭兵ギルドが父からの要請を断り、イェルクに報告したら父の立場が悪くなるからだ。
父もさすがにそこまでのリスクを負ってまで動かない。
何故なら、そんなことをしなくてもフロイエンの北には父の息子であるザームエルの領地がある。
出すならそこから刺客を出し、フロイエンにいる私を暗殺しようとするだろう。
「では、ここからは安全ですね」
「まあな。とはいえ、賊とかもいるかもしれないから夜の見張りは頼むぞ」
「やはり町には寄りませんか?」
ベッドで寝たいとは思う。
「余計なトラブルが増えるだけだ。私は早くフロイエンに行き、落ち着きたい」
「わかりました。それでは当初の予定通り、まっすぐフロイエンを目指しましょう。ただ、もう少しでアルメリアに着きます。私が補充に向かいますのでお嬢様達は昼食を食べて待っていてください」
「わかった」
頷き、そのまま待っていると、フロイエンの町が見えてきたので近くにある森に入り、馬車を止めた。
そして、ユルゲンが馬車から馬を外し、そのまま乗ってアルメリアに向かったので私達は昼食を食べる。
「やっぱり美味しくないね」
ミーネは不満そうだ。
「不味いな」
私も非常に不満だ。
「確かに美味しくはないですね。ただ、ユルゲンがパンや肉も買ってきてくれると思います」
「やったー」
「それはええの」
久しぶりのまともな食事だ。
私達が待っていると、1時間くらいで馬に乗ったユルゲンが戻ってきた。
「お待たせしました」
ユルゲンは馬から降りると、私の前に来て、跪く。
「よい。補充はできたか?」
「はい。矢を50本とドライフルーツです。それと日持ちがしないので今夜の分だけですが、肉とパンも買いました」
よろしい。
「よくやった」
「ありがとうございます。それとパン屋でクッキーを売っていたので購入しました。どうぞ」
ユルゲンが可愛い包装がされたクッキーを渡してくれる。
「ほう? 気が利くな」
包装を開き、中にあるクッキーを食べる。
さっきまで食べていた携帯食料と同じような食感だが、美味しさと甘さは段違いだ。
「美味しい!」
「うん、美味い……これぞ人が作りし傑作ぞ」
ちょーあまーい。
「お嬢様、馬車の中でお楽しみください。すぐに出発しましょう」
「わかった」
馬車に乗り込み、クッキーを食べていると、馬車が動き出す。
そのままひたすら進んでいくと、夕方になり、野営となったのだが、久しぶりに鶏肉とパンを食べられ、かなりの満足だった。
翌日からもひたすら馬車に揺られながらの旅をし、たまにユルゲンが町や村に寄ってくれたので良い食事を摂りながら進んでいく。
そして、何日も経つと、イェルクの領地すら越え、フロイエンの町を治めるホラーツの領地に入った。
とはいえ、道が狭く、かなりうっそうとした森の中だ。
「お嬢様、今日中には着くと思います。もう少しですよ」
ディアナが励ましてくれる。
そんなディアナは少し痩せたように見えた。
いや、それはユルゲンもだろう。
「そうだな。美味いものを食おうぞ」
「はい」
ディアナも大変だ。
本来なら町に寄りながら進んでいくのが普通だが、この旅はあまりにも強行軍すぎた。
「お嬢様、少し、ホラーツ殿の領地の話をしてもよろしいでしょうか?」
ユルゲンが小窓を開けて提案してくる。
「詳しいのか?」
「買い物をするついでに情報を集めていました」
ほう?
こいつも使えるようになったな。
「話してくれ」
「はい。ホラーツ殿が治める領地はこのエルデン地方です。その中心がフロイエンの町ですが、その他にも多くの農村があります。主に農業が盛んな地方ですが、北にある鉱山では鉄も採れ、帝国の中でも重要な土地になります」
ふーん……私の時代では鉱山なんかなかったし、ただの農業地帯だった。
フロイエンがそこそこ大きな町になったと聞いたが、その鉱山で発展したのかもしれんな。
「そんな良い地方の領主に任じてくれたのか。皇帝陛下に感謝だな」
「はい。ただ、一方で良くない点もあります」
まあ、良いところもあれば悪いところもあるだろう。
「何だ?」
「1つは王都からの交通の便が悪いことです。距離もですが、この森ですね」
「わかる」
道が狭いし、路面も良くない。
さらには木が生えすぎており、輸送が厳しそうだ。
「この森の整備が大事になってきますが、それにはかなりの予算がいるそうです」
「だろうな。まあ、仕方がないことだ。他には?」
「北にはレナード公爵の息子のザームエルが治めるリーベン地方があります。そのリーベン地方とエルデン地方の地理関係があまりにも悪すぎるのです。リーベン地方は山岳地帯であり、こちらは平地です。要はこちらから向こうを攻めるのは非常に難しいのですが、向こうがこちらを攻めるのは簡単なのです」
高いところから攻める方が楽だし、強いからな。
「それはわかっておるし、どうとでもなる」
「私が恐ろしいのはザームエルが攻めてくることなのですが……」
我が兄であるが、敵対している父の息子だからな。
「わかっておるし、そこの対処も考えてある。しかし、その前にホラーツだ。私は飾りだけで何の権限も持ち合わせておらぬからな」
「やはり動きますか?」
「それはホラーツに会い、町を見てからだ。まだ何も決めておらぬ」
決めるのは私じゃないのだ。
私なら初日で斬る。
「わかりました。そろそろ森を出ます」
「ようやくか」
道は悪いし、暗いしで良い気分じゃなかったので嬉しい。
私が安心しながら待っていると、馬車が森を出る。
「んー?」
「い、いっぱいいるね……」
平野に出たのだが、そこには1000はゆうに超えている軍勢が待っていた。

