覇王令嬢の野望 ~絶対平和主義の少女に転生した最強女帝の帝国再建譚~


『お嬢様、お嬢様』

 声がしたので目を開けると、目の前には座席で横になるディアナがいた。
 しかし、ディアナは目を閉じているし、やはりアホ面で熟睡している。

「ユルゲンか?」

 声は外か。

『はい。そろそろ2時になります』

 ミーネは……あくびをしている。
 一緒に起きたようだ。

「出る」

 そう言って、剣を取ると、ミーネと共に馬車を降りた。
 外はまだ暗く、月明りで薄っすら見える程度だ。

「お嬢様、来ますかね?」
「来ないと困るな。お前は馬車と馬を守れ。敵は私が始末しよう」

 ディアナは……いいや。
 寝かせておこう。

「かしこまりました」

 私達は焚火の前に座る。
 すると、ユルゲンが焚火に火をつけた。

「ユルゲン、ディアナのことをどう思っている?」
「良い質問!」

 私もちょっと気になってきたのだ。

「ディアナですか?」
「ああ。同じ孤児院で育ったと聞いた」
「そうですか。まあ、妹ですかね?」

 想像通りの答えでつまらん。

「ユルゲン、私が皇帝になった暁には領地を与え、貴族にしてやろうか?」
「ありがとうございます。ですが、私はお嬢様のそばでお仕えしたいと思います」

 ふーん……欲のない奴だ。

「お前達は暗殺、密偵の類はできるか?」
「そちらが本職になりますね」

 ふむふむ。
 やはり生かして正解か。

「わかった。お前もディアナも私のそばに置いてやる。だがな、少しは考えろ。修道院暮らしで世間知らずの私が言うのも何だが、考えが浅すぎるぞ。献策くらいはしてくれ」

 ガキじゃないんだから私が指示する前に動いてほしいものだ。

「相手の立場になって考える、でしたね?」
「ああ。それが基本だ。相手が何をしたいか、どうなれば嬉しいか。また、どうなるのが嫌かだ。お前はそれを考えろ」
「ディアナは?」
「あれはよい。もうわかったが、あやつはそういうのに向いてない」

 あやつは私の世話をすることを優先している。
 まあ、侍女だし、それで良いが。

「わかりました。見張りをしている間、暇だったので考えていたのですが、これから来る刺客は最初の刺客をお嬢様が撃退したことを知らないでしょう」

 ほう?

「そうか?」
「失礼ですが、10歳の少女にやられたとは言えませんし、失敗したと報告すれば自分の身が危ないですから逃げた者も公爵の元には戻らないです」
「うむ、そうだな」

 実の娘ですら殺そうとするあの男なら確実に殺すだろう。

「となると、次の刺客も最初の刺客と同じでこちらを舐めています。策を練らずに正面から来ると思います」

 正解。

「一応、聞くが、それをわかって焚火をつけたのか?」
「はい。あえて、こちらを見つけやすくするためです」

 ふむふむ。

「よろしい。嫌な風が吹き出したぞ」

 そう言った瞬間、遠くから馬の嘶きが聞こえてきた。

「来ましたか。お嬢様の予想した時間ですね」
「奴らは考えることをせずにまっすぐ来るからな」

 イノシシだ。

「では、ご指示の通り、私は馬車と馬を守ります。焚火は?」
「このままで良い」

 いきなり消したら警戒をさせるだけだ。
 向こうは暗殺者だし、隠れるところが多い夜の森はあいつらのフィールドだ。
 得意な場に持ち込むべきではない。

「では」

 ユルゲンが立ち上がり、馬車の方に行ったので私も剣を持って、立ち上がる。

「ミーネはここにおれ」
「うん」

 ミーネを焚火の前にとどめると、街道の方に向かった。
 遠くにはうっすらと複数の光が見えておりこちらに近づいてきている。

「いたぞ!」
「ヘルミーネか!」

 1、2、3……たった4人か。

「私に何か用か?」

 そう聞くと、10メートルくらいの距離で男達が馬から降りる。
 男達は重装備ではなく、皮の鎧を着ているだけだか、全員が帯剣していた。

「ヘルミーネ様、お命を頂戴します」

 1人の男がそう言うと、全員が剣を抜く。

「はっはっは! 面白いことを言うな。30人でも無理だったのに次は4人か?」

 計算ができんか。

「やはり道中の死体はお前達か」
「ガキじゃなくて、メイドと執事だろ。暗部らしいじゃねーか」
「その割にはメイドの姿が見えないし、執事は後ろに下がっているぜ?」
「何でもいい。俺は眠いんだ。さっさとやらせてもらうぜ!」

 1人の男が突っ込んでくる。
 構えは振りかぶる感じではなく、小さい突きの構えだ。
 動きを最小限にする暗殺者などの暗部の動きである。
 素晴らしいと思うが、やはり私には止まって見えたので右足に魔力を込め、一瞬で動いた。

 すると、私の目の前から男が消え、3人しか見えなくなった。

「実は私も眠いんだよ」

 私の後ろでドサッという音が聞こえた。
 確認しなくてもわかる。
 男は首を刎ねられ、死んだのだ。
 私が斬った。

「ッ!」
「一撃!? 見えなかったぞ!」
「ただのガキじゃないっ! いくぞ!」

 今度は3人が正面と左右に分かれ、突っ込んできた。

「バーカ!」

 ただのガキじゃないと思うなら不用意に突っ込まず、様子を見ろ。
 自分達の得意な暗殺を生かすために森に入れ。
 ほら、また1人死ぬぞ。

 私は左に飛び、1人を斬る。

「なっ!? バケモノか!?」
「み、見えん! 森に入――ッ!」

 また1人。

「アーベル!? クソッ!」

 最後の男が剣を構える。
 だが、相手を倒そうという構えではなく、身を守る構えだ。

「お命を頂戴するんじゃなかったのかな? 私はお前達の命なんかいらんのだが?」
「くっ! 舐めるな!」

 最後の男が踏み込んで、突いてきたのでそれを簡単に躱し、伸ばしている右腕を斬る。

「ぐぁっ!」

 男の腰が落ちたのでそのまま踏み込んで首を斬った。

「ふう……」

 弱くはなかったが、私の相手ではないな。

「お嬢様、お怪我は?」

 ユルゲンがこちらにやってくる。

「怪我はない。ただ、さすがに疲れたな」
「ロクな食事も摂っていませんし、睡眠不足もあるでしょう」

 そうかもな。
 単純にミーネの身体だから体力がない。

「ユルゲン、少し早いが、出発しよう。死体のそばで寝るのは嫌だし、放っておけば獣か魔物が来る」
「確かにそうですね。お嬢様は馬車に乗り、休んでください」
「わかった」

 私は剣を鞘に収めると、ミーネと共に馬車に乗り込む。
 すると、ディアナはまだ寝ており、結構、図太いなと思った。

「ノーレ、なんか意識がぼやけてきた……眠い」

 ミーネはこの身体の持ち主なせいか、感覚がリンクしているところがあるんだよな。

「私もだ。もう体力の限界だろう。後のことはユルゲンに任せて寝るぞ」
「うん……」

 私達は座席で横になると、あっという間に意識を手放した。