覇王令嬢の野望 ~絶対平和主義の少女に転生した最強女帝の帝国再建譚~


 追手を警戒しながら馬車が進んでいくと、次第に太陽が昇り始める。

「お嬢様、タジアの町が見えてきました」

 ユルゲンが小窓を開け、教えてくれる。

「馬車を止めよ。休憩だ」
「はっ!」

 ユルゲンが命令通りに止めたので馬車から降りる。
 ここは丘の上であり、遠くにあるタジアの町が一望できた。
 タジアは帝都近くの町であり、昔と変わらずに大きな町だ。

「お嬢様、さすがにお疲れかと思います。あそこで休憩しては?」

 一緒に降りたディアナが提案してくる。

「あそこで休むのが最も危険なことはお前達もわかっているだろう?」

 誰もがあそこで休むと思うからだ。
 今日の昼には公爵の手勢があそこに到着するだろう。

「確かに危険かもしれませんが、あそこは大きな町ですし、1日くらいなら休めます。お嬢様は少し休まれるべきです」

 まだ10歳だからな。
 しかも、服すら自分で着替えない箱入り。

「私の身体のことは気にせずともよい。フロイエンに着いたらゆっくり休もう」
「かしこまりました。少し早いですが、朝食にしましょう。携帯食料ですが……」
「構わぬ」

 私達は馬車の中に戻ると、携帯食料の硬くて不味いクッキーを食べる。

「うぇぇ……」

 ミーネにはきついようだ。

「ドライフルーツは美味いぞ」

 そう言って、食べると、口の中に甘さが広がる。

「おー……でも、甘すぎない?」
「全然」
「ノーレ、甘いものが好きだねー」

 大好き。
 3食をケーキにせよと命じたこともある。
 さすがに皆が反対したのでやめたが……

「お嬢様、さすがにそれを食べたらお休みください」
「そうだのう……お前達は寝られんぞ?」

 すぐにここから離れないといけない。

「わかっています。このくらいなら問題ありません」

 暗殺者まがいなことをしていたし、完全な素人というわけでもないか。

「ユルゲン、今日は日が落ちるまで進め。そしたら野営だ」
「わかりました」

 ユルゲンが馬車を動き始めたのでミーネと共に横になった。

「ディアナ、追手か何かが来るか、昼になったら起こせ」
「かしこまりました」

 ディアナが頷いたので目を閉じる。
 すると、あっという間に眠気が襲ってきたのでそのまま意識を手放した。

「お嬢様、お嬢様……」

 ディアナが起こしてきたので目を開ける。

「何だ? 何か来たか?」
「いえ、昼です」

 一瞬だったな。

「そうか……追手は来てないな?」

 外を見ると、木々が見えており、森の中に入ったようだ。

「ええ。商人なんかとはすれ違いましたが、軍人や傭兵といった者とはすれ違っておりません」

 ならば問題ないな。

「よし。ユルゲン、適当なところで止めよ。昼だし、休憩だ」
「わかりました」

 少しすると、ユルゲンがちょっと開けたところに止めたので馬車から降りた。

「んー! 良い天気だなー」
「そうだねー。森ってすごいね! 初めて来た!」

 ミーネと共に身体を伸ばす。

「そりゃそうだろうな。ディアナ、テーブルと地図はないか? 場所を確認したい」
「わかりました」

 ディアナは折り畳みの簡易テーブルを出して、地面に置くと、私よりも大きい地図を取り出し、広げた。

「ふむ……」
「お嬢様、お食事です」
「うん」

 不味い携帯食を齧りながらアイゼンライヒ帝国全土が描いてある地図を確認する。
 地形は変わってないが、町や村が増えていた。
 300年で発展した証拠だろう。

「ユルゲン、ちょっと来い」

 馬に水をやっているユルゲンを呼ぶ。

「いかがなさいました?」
「今はどこだ?」
「タジアの町を通り過ぎ、1時間前に森に入りましたのでこの辺りかと」

 ユルゲンがタジアの町の東にある森を指差す。
 まだ浅いところだ。

「ふむふむ……」

 この森を抜け、さらに東に進んだ先がフロイエンになる。
 幸いなことに道の整備もかなり進んでいるため、そう困難な旅でもなさそうだ。

「お嬢様、このペースですと、今夜は森での野宿になります。早めに野営の準備をしたいです」

 眠いから……ではなく、森は日が沈みだすと、あっという間に暗くなるからだ。

「そうせよ。早めに休み、早めに出発しよう。私が寝てたら出発していいからな」

 私は馬車の中で寝るからいつでも勝手に行ってくれ。

「そのように致します。それと森を抜けた先のアルメリアに寄りたいです」

 アルメリアもそこそこ大きな町だ。

「危険だぞ?」
「お嬢様とディアナは町に入らず、どこかで隠れていてください。色々と補充をせねばなりません」

 補給か。

「節制をすれば持つのではないのか?」

 ディアナがそう言っていた。

「ドライフルーツが持ちません」

 それはいかん。

「わかった。矢は?」
「あと40本もありません」
「ドライフルーツと矢を優先せよ。衣服類はよい。金の無駄だ」

 汚れたままで行くしかない。

「申し訳ございません。そうさせていただきます」

 ユルゲンが本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
 まあ、私は箱入りの貴族令嬢だし、気を遣う男子は特にそう思うのだろう。

「よい。修道院に残り、大量の刺客と相対するよりは幸福と思おうぞ」

 寝られないよ。

「はい。それと午後からなのですが、ディアナを休ませてください」

 ふむ……

「理由は?」
「夜は森の中での野営になりますし、見張りが必要です。私とディアナで交互に見張りますが、先にディアナにやらせ、私が後半を担当します」

 さすがに寝不足で見張りをさせても仕方がないし、まあいいか。

「わかった。ディアナ、午後からは休め」
「はい。それでは、そうさせていただきます」

 その後、不味い携帯食を食べ終えると、甘いドライフルーツを食べ、満足する。
 そして、馬車に乗り込むと、再び、森の中を進みだした。