「隊長、前方に明かりが見えます!」
部下が言うように前方にかなり明るい光が見えている。
あれはライトの魔法だ。
こんなに暗ければ仕方がないが、あれでは見つけてくれと言っているようなものだ。
「標的は3名! 若い男女とガキ1人だ! ガキは確実に殺せ!」
「この状況でどうやったら失敗するんすっか?」
部下の1人が笑いながらそう言うと、他の者も笑った。
「情けはかけるなってことだ」
「わかってますよ……ん?」
「何だ?」
前方に馬車が見えているのだが、誰かが馬車の上に登った。
「隊長、あれがターゲットのガキですかね?」
馬車との距離は300メートルくらいもあるが、あれだけ明るいとさすがに見える。
長い髪がなびいているし、あの身体の小ささはターゲットのヘルミーネ嬢だろう。
「そのようだな。何をしているんだ?」
「命乞いですかね?」
命乞いで馬車の上に乗るか?
「隊長、ヘルミーネ嬢に魔法はないと聞いています」
別の部下が教えてくれる。
「本当か?」
「修道女らしいので。それにそういう教育を一切、受けていない子です」
哀れな……いや、俺が情けをかけてどうする。
「ならば問題ない。追いついてさっさと仕事を終えるぞ」
「隊長、何かしてます」
「弓を――ぐぁっ!」
右後ろにいた部下が落馬した。
「何があった!?」
「わかりません! 誰か救助に――ぐっ!」
またもや落馬した。
しかし、今のははっきりと見えた。
「矢だ!」
よく見ると、ヘルミーネ嬢が弓を引いている。
「300メートルは離れていますよ!?」
「当たりっこないです!」
「――来るぞっ!」
ヘルミーネ嬢が矢を放った。
「ぐぁっ!」
また一人落馬した。
「クソッ! こちらも魔法を撃て!」
「この距離では届きません!」
「うわっ――がっ!」
また落馬した。
これで4人だ。
「なんで当たるんだ!?」
「この距離で当たるわけないだろ! こちらは動いて――ぐぁっ!」
どうなってる!?
「たいまつを捨てろ! それで狙われているんだ!」
そう言って、たいまつを捨てると、皆が捨てる。
辺りが真っ暗になるが、向こうはライトを使っているのではっきりと見えていた。
「馬を飛ばし、近づけ! 囲んでしまえば良い!」
「た、隊長……」
前方のヘルミーネ嬢が弓を引いていた。
「臆するな! もう当たらん!」
「き、来ま――あ゛っ……!」
左にいた部下の姿が消えた……
「バ、バケモノか!」
「何故、当たる!?」
真っ暗なうえにこれだけの距離が離れている。
もっといえば、向こうもこちらも遅くない速度で動いているのだ。
当たるわけがない。
「隊長、撤退しましょう! もう6人もやられました! しかも、全員、首に当たっています! あれは人ではないです!」
チッ!
皆に動揺が走っている。
気持ちはわかるが、引けるものか。
「ならん! ガキ1人に30人で当たって退却できるか!」
そんなことをしたら公爵に首を刎ねられる。
「隊長、ならば散開しましょう! 的を散らせば……」
よし!
「散開! 飛ばせ!」
そう命じると、皆がばらけていった。
俺も馬を飛ばしていく。
その間もヘルミーネ嬢が矢を放っていくが、幸いか、こちらには来なかった。
だが……
「ぐっ……!」
「あぁぁっ!」
「ぎゃっ!?」
嫌な声だけが響いていく。
「クソっ!」
50メートルもあれば馬車に魔法も当てられる。
残りは30メートルといったところ……いける!
「隊長……」
後ろにいた部下が声をかけてきた。
「何だ!? 黙って飛ばせ!」
「ガキが何もしてません……」
「ん?」
部下に言われて、ヘルミーネ嬢を見るが、確かに何もしていない。
ただ、こちらをじーっと見ていた。
「他の者は!?」
「わ、わかりません! ただ、あのガキが放った矢は21本です」
最悪、21人が死んでいる。
残りはこいつと俺を含めて9人いるはずだが……いや、ヘルミーネ嬢に動きがないところを見ると、あいつら、逃げたか!
「あと少しだ!」
そう言った瞬間、ヘルミーネ嬢が背中の矢筒から矢を取り、弓につがえてこちらに向けてきた。
「ひっ!」
後ろの部下が悲鳴を上げた。
ここまで近づけばわかるのだ。
ヘルミーネ嬢が笑みを浮かべている。
「すみませんっ!」
部下が謝り、左に逸れていった。
逃げたのだ。
すると、ヘルミーネ嬢がはっきりとこちらを見て、にやりと笑った。
不気味な悪魔の笑みだ。
「クソッ!」
俺は殺気を感じたのでとっさに馬から飛び降りた。
すぐに地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がる。
かなりの痛みだが、それどころではなかった。
「次は1000人くらい連れてこい! はっはっはー!」
なんとか起き上がり、ヘルミーネ嬢の高笑いを見た瞬間、目の前に矢が……
◆◇◆
「ふん! 雑魚共め!」
剣を持っていたくせに矢を受けることすらできんか。
「お嬢様、さすがです! まさしく、神の矢! 百発百中ですね!」
「あの距離を当てるとはやはり主の力でしょう!」
ディアナとユルゲンが興奮したように賞賛してくる。
「この程度で騒ぐな。お前達は常に当然という顔をしておけ」
「わかりました!」
「はっ! お嬢様、このまま進めばよろしいですね?」
ユルゲンが聞いてくる。
「ああ。今夜は馬を休憩させながら夜通しで進め。今夜はもう来ないだろうが、明日の昼までにタジアの町を超えよ」
「かしこまりました!」
ふう……
「ノーレ……」
一緒に馬車の上にいるミーネが声をかけてくる。
「何だ?」
「さっきの人達は死んだの?」
「死んだ。逃げた者以外は全員、射殺してやった」
全員、急所を一突きだ。
「そっか……」
ミーネが顔を伏せる。
「まさか生かしてほしかったのか? さすがに無理だぞ」
「それはわかっている……わかっているけど……」
箱入りにはきつかったか。
とはいえ、見ると決めたのはミーネだ。
「ミーネ、対話だけでは何もできないのはわかっているな?」
「うん」
「私は武力で国を統一し、それからもすべてをその武で抑えてきた。お前が言うようにだからこそ、死後に反乱が起きたのだろう。その点、対話を重視した弟やその子は優秀だった。しかしな、それは力を持ってこそなんだ」
力がなければ誰も話を聞かないだろう。
「そうだね……誰も私を見なかったことからわかっている」
最初、ユルゲンがお祈りをする私をバカにしていたように力なき者が何を言っても人の心には響かないのだ。
「ああ。だから私は戦う。でも、お前は戦わなくていい。ただし、口は出せ。バカとしか思えない『争いのない平和な世界』とやらを私に見せてみろ。お前は確実に2人は救ったぞ」
お世話係2人。
「うん。馬車に戻ろう」
「ああ」
私達は馬車の中に戻ると、休むことにした。

