「では、話そう。今日、皆に集まってもらったのは他もでもない。私も高齢だし、次の皇帝を決めるためだ」
この場にいる全員が私と父はないなって思っているだろう。
「太子を決められるのでしょうか?」
一応、聞いておく。
「いや、そうしたいのだが、ふさわしい者がおらぬ」
「それは我らの不徳の致すところです」
お前らな。
特に父ね。
「うむ……お前達はよくやっていると思う。しかしながら皇帝の地位は重い。そう簡単には決められぬ」
決めろ、バカ。
「父上、それではどうすると?」
左奥にいる40代くらいの男が聞く。
多分、こいつが長子だし、本来なら太子になるべき人間なのだろう。
「お前達に3年を与える。その間に皇帝にふさわしいと思わせよ」
あと3年も生きられるのか?
こいつ、ちょっとヤバいな。
状況を見る能力、さらには客観視できる能力が極端に欠けている。
「3年、ですか……」
多分、長子も3年も生きられるのかって思ってそうだ。
「本当は1年にしたいが、1年では何も示せんだろう。だからこそ、3年を与えてやるのだ」
「わ、わかりました」
わかってないだろうなぁ……
「陛下、具体的には何を?」
今度は父が聞く。
「それは自分達で考えよ」
えー……ノープランかい。
これ、暗殺合戦になるぞ。
それはちょっとやめてほしい。
仕方がないな……
「陛下、よろしいでしょうか?」
手を上げて、発言を求める。
なお、父はめちゃくちゃ睨んでいる。
「ヘルミーネ、何だ?」
「私に領地を与えてください」
「ッ! 何を言うか、ヘルミーネ! 控えろ!」
お前が控えろ。
「何故だ?」
皇帝は父を手で制し、聞いてくる。
「皇帝にふさわしいのはやはり統治能力に思います。ならば、私はそれを示したいです」
「お前にできると? まだ10歳でロクに教育を受けていないお前にか?」
「始帝エレオノーレはゼロから始め、12歳で王位に就きました。また、8代皇帝マグタレーネは8歳で帝位に就いています。同じ血を引く私が一国ならともかく、一領地を治められないということはありませぬ」
マグタレーネは今日、勉強した。
7代皇帝が早世したため、わずか8歳で帝位に就いた女帝だ。
この女帝の60年という在位期間が一番長いらしい。
「ふむ……」
「陛下、なりません! こやつは必ずや反乱を起こしますし、そうでなくてもこのような狂人が領地を治めるなんて不可能です!」
お前が反対すればするほど、助かるぞ。
「しばし待て。少し休憩とする。ワインを飲みすぎたわ」
皇帝はそう言って立ち上がると、奥の幔幕の方に向かった。
あそこは小部屋があり、奥の通路と繋がっている。
作戦会議中に休憩するための部屋として作ったのだ。
「エーミール、来い」
父も立ち上がると、隣の兄と共に私を睨みながら退室していった。
「ハァ……ヘルミーネ」
奥にいる皇帝の長子が立ち上がり、こちらにやってくる。
「何か?」
「叔父上と何があった?」
わかってるくせに。
「何も。あの者が私を嘘つき呼ばわりしてきただけです」
「そうか……まあよい。それよりも会うのは初めてだな。私はお前の従兄に当たるフェリックスだ」
あ、ちゃんと自己紹介してくれるわけか。
意外とちゃんとしているな、こいつ。
「失礼しました。ヘルミーネです」
礼には礼を返すため、立ち上がり、名乗る。
「うむ。弟と妹を紹介しよう。こっちの列から奥から順番にヨナタン、イェルク、マヌエラ、ウルスラだ」
20代くらいの男、男、女、10代くらいの女を順番に紹介してくれる。
「ヘルミーネです」
自己紹介をすると、4人が軽く頷く。
「向こうは叔父とエーミールがいなくなったが、奥からローゼリンデ、ヴィリーだ」
30代くらいの女と10代にも届いていないような少年だ。
「ヘルミーネです」
またもや、自己紹介をすると、2人が軽く頷いた。
「以上が私の弟と妹だな」
「この方々は?」
そう言って残っている3人を見ると、フェリックスが目を見開いた。
他の皇帝の子供達も表情が変わらない者もいるが、目を伏せたり、憐みの目で見たりしてくる。
兄や姉すらも知らない哀れな子とでも思ったようだ。
「お前の兄と姉だ。ザームエル、エルネスタ、ナディヤ」
20代くらいの男女、10代の女だ。
「そうでしたか……お初にお目にかかります、お兄様、お姉様。ヘルミーネです」
自己紹介したのだが、姉2人は軽く会釈をしたが、兄はしなかった。
「ヘルミーネ、後半はあまり騒ぐなよ」
フェリックスがそう言って、自席に戻っていったので私も席につく。
「ちゃんとした人だねー」
右隣でふよふよと浮いているミーネがフェリックスを見ながら頷いた。
「私もそう思う」
あやつを太子にすればそれで終わる話だ。
「これからどうなるのかな?」
「さあな。それよりもお前、こいつらを知っているか?」
兄と姉を指差す。
「ううん。名前は知ってるけど、今日、初めて見た」
可哀想に。
「ヘ、ヘルミーネ?」
隣にいる長い金髪の従姉が声をかけてきた。
「ウルスラ様、何でしょう?」
「あ、いや……」
目を合わさないな。
「何か?」
「いえ、なんでもない……」
シャイなのかな?
まあ、放っておこうと思い、手を上げる。
しかし、皇族共が怪訝な顔でこちらを見てくるだけだった。
「私が見えぬ者しかおらんのか?」
そう言って、後ろの兵士達を睨むと、1人の兵士が慌てて、こちらにやってくる。
「申し訳ございません。いかがなさいました?」
「喉が渇いた。お茶を」
「はっ! すぐに!」
兵士が頷き、扉の方に向かう。
「あ、待て」
「はい? いかがしました?」
兵士が足を止めて振り向いた。
「お父様は先程、かなり声を荒げられておられました。きっと喉が渇いているでしょうからお茶を差し上げて」
「か、かしこまりました……」
特別に良いやつだぞ。
「皆様方もどうですか? もし、よろしければこのヘルミーネが淹れますよ? 最近、とても貴重なあまーいお砂糖を手に入れたんですよ」
そう聞くと、誰もが目を伏せた。
どうやら皆、私の茶はいらないらしい。
皆が無視するので仕方なく、そのまま待つ。
すると、先程の兵士がメイドを連れて戻ってきた。
そして、メイドがお茶を淹れ、私の前にカップを置く。
「お父様にも」
「は、はい……」
なんでこのメイドは震えているんだろう?
よくわからないが、良い気分でお茶を飲むと、メイドが父の席にお茶を入れたカップを置き、そそくさと退室していった。
全員がじーっとそのカップを見ているが、何かが入っているわけがない。
「お茶、美味しいね」
「良い茶葉を使っているのだろう」
香りが違う。
そのままお茶を楽しんでいると、父と兄のエーミールが戻ってくる。
「ん? 茶か? 悪くないな」
父はそう言って喉を抑えながら座ると、カップを手に取る。
しかし、全員が父を見るという異様な光景に気付き、怪訝な顔になった。
「ん? どうし……」
父はさらにカップが自分と私のところにしか置かれていないことに気が付いたようだ。
「どうぞ飲んでください。お父様も喉が渇いたでしょう? このヘルミーネがお父様のために用意させましたよ」
そう言うと、父は憤怒の顔でカップを放り投げ、テーブルを拳で叩いた。

