私たちが出会ったのは、一年生の6月。空気が重たくて、髪の毛のコンディションが最悪な金曜日だった。
その日は珍しく午前授業。学校全体がどこか落ち着かない、浮足立った熱を帯びているのがわかった。
私、一ノ瀬紬。
ごく普通の女子高校生。流行りのメイク動画を倍速で回して研究もするし、カラコンの着色直径が0.1ミリ変わるだけで「宇宙人になるか、可愛くなるか」の瀬戸際に立たされることを知っている。テストの前だけは義務感で机に向かうけれど、放課後は基本的に友達とカラオケ行ったり、駅前のコンビニでレジを打ったりして時間を溶かしてる。
そんな私の「普通な日常」に、湿気を吹き飛ばすような声が響いた。
「紬、合コンどう?お願い、座ってるだけでもいいから!!一人足りなくて……」
親友のみかが、拝むようなポーズで詰め寄ってくる。
「…いいよ」
二つ返事で頷いたのは、別に男が好きだからじゃない。
今の自分が、異性の目にどう映るのか。中学生の時より少し背伸びをして、メイクの技術も覚えた今の自分の「市場価値」がどの程度なのか。それを確かめてみたかった。これは恋を求めての参加じゃない。いわば自分をサンプルにした「実験」のようなものだった。
「さっすが紬、話が早い!放課後、駅前のカラオケで待ち合わせしてるから」
「メンツは?」
「えっと、先輩」
「どこの」
「ここ、うちの学校」
私は思わず眉を寄せた。
「同じ学校の人と合コンって何?それ、ただの放課後に遊びに行くだけじゃん」
「甘いね、紬。放課後の遊びは目的がないけど、合コンは恋愛っていう明確なゴールがある。だからこそ合コンなのよ」
「……学校一緒なら、放課後一緒にカラオケ向かえば良くない?」
「扉を開けた瞬間にビビッとくるかもしれないでしょ!その演出が大事なの」
「……そういうもの?」
「そういうもの!」
みかの謎理論に納得したふりをして、私は女子メンバーを確認した。ギャルのあやな、おっとり癒し系のまいまい。そしてダンス部のみか。
休み時間のトイレの鏡は戦場だった。
「いやー、今回の先輩、まじで期待していいよ。結構なイケメン揃いだから」
鏡を見ながら慣れた手つきでアイラインを引くあやな。
「体育祭までにいい感じの人、作りたいよね。ハチマキの交換とかしたい!」
コテで髪をふわふわに巻き直しているまいまい。
「ガチイケメン?」
「一人はその学年で有名な美人系の先輩らしいよ」
いつも使っている300円の薬用リップを放り出し、まだ数回しか使っていないデパコスのリップを取り出した。
「あ、紬やる気出した?」
「ほんとだ、新作じゃん。かわいー」
「まぁね、中学じゃそういうのやらないじゃん」
鏡の中の自分は、いつもより少しだけ背伸びしているように見えた。
その日は珍しく午前授業。学校全体がどこか落ち着かない、浮足立った熱を帯びているのがわかった。
私、一ノ瀬紬。
ごく普通の女子高校生。流行りのメイク動画を倍速で回して研究もするし、カラコンの着色直径が0.1ミリ変わるだけで「宇宙人になるか、可愛くなるか」の瀬戸際に立たされることを知っている。テストの前だけは義務感で机に向かうけれど、放課後は基本的に友達とカラオケ行ったり、駅前のコンビニでレジを打ったりして時間を溶かしてる。
そんな私の「普通な日常」に、湿気を吹き飛ばすような声が響いた。
「紬、合コンどう?お願い、座ってるだけでもいいから!!一人足りなくて……」
親友のみかが、拝むようなポーズで詰め寄ってくる。
「…いいよ」
二つ返事で頷いたのは、別に男が好きだからじゃない。
今の自分が、異性の目にどう映るのか。中学生の時より少し背伸びをして、メイクの技術も覚えた今の自分の「市場価値」がどの程度なのか。それを確かめてみたかった。これは恋を求めての参加じゃない。いわば自分をサンプルにした「実験」のようなものだった。
「さっすが紬、話が早い!放課後、駅前のカラオケで待ち合わせしてるから」
「メンツは?」
「えっと、先輩」
「どこの」
「ここ、うちの学校」
私は思わず眉を寄せた。
「同じ学校の人と合コンって何?それ、ただの放課後に遊びに行くだけじゃん」
「甘いね、紬。放課後の遊びは目的がないけど、合コンは恋愛っていう明確なゴールがある。だからこそ合コンなのよ」
「……学校一緒なら、放課後一緒にカラオケ向かえば良くない?」
「扉を開けた瞬間にビビッとくるかもしれないでしょ!その演出が大事なの」
「……そういうもの?」
「そういうもの!」
みかの謎理論に納得したふりをして、私は女子メンバーを確認した。ギャルのあやな、おっとり癒し系のまいまい。そしてダンス部のみか。
休み時間のトイレの鏡は戦場だった。
「いやー、今回の先輩、まじで期待していいよ。結構なイケメン揃いだから」
鏡を見ながら慣れた手つきでアイラインを引くあやな。
「体育祭までにいい感じの人、作りたいよね。ハチマキの交換とかしたい!」
コテで髪をふわふわに巻き直しているまいまい。
「ガチイケメン?」
「一人はその学年で有名な美人系の先輩らしいよ」
いつも使っている300円の薬用リップを放り出し、まだ数回しか使っていないデパコスのリップを取り出した。
「あ、紬やる気出した?」
「ほんとだ、新作じゃん。かわいー」
「まぁね、中学じゃそういうのやらないじゃん」
鏡の中の自分は、いつもより少しだけ背伸びしているように見えた。

